飛行訓練
「私は飛んでいったナギ・ミスティアを回収しに行く。それまで飛ぶ練習をしておくように」
そう言ってカミラ先生は木の棒を片手に徒歩で歩いて行った。
「…できる気、しない」
転がっているデッキブラシを見つめながら私はつぶやく。
「まぁあれ見ればな。つっても細工してたわけだろ?いくら下手でも普通にやってりゃあんなことにはならねぇよ」
「ほんとに?」
正直にわかには信じがたい。
「テオ君の言う通り大丈夫やって。渚ちゃん、飛ぶの初めてなんやろ?僕らが手本見せたげるわ」
「あ~私もやる~」
「…」
4人は各自、倉庫脇に置いていた箒を取りに行った。
「珍しい形。それで飛ぶの?」
ソウマとテオは板のような形状でどちらかと言うとサーフボードのようなものに見える。
「お、気づいてくれた?僕とテオ君のはボード型っていうんや。細かい操作は大変やけどスピードも出るし両手も開くしな」
「すごい」
「おうよ!やっぱ男はスピードだ。俺のドリフトテク見せてやるよ」
素直にかっこいい。
「私のも見て~」
「…」
声のした方を振り返るとすでにミーネとイリスが飛んでいた。
棒状の箒…というより杖だ。
「これ~、飛びながら魔法使える~。便利~」
ピカッと杖の先端が光って水が飛んでいく。
「無詠唱で打てるやつじゃねぇか!いいの持ってんなぁ!」
「えへへ~」
「ほかにも絨毯型、靴型、バック型とかいっぱいあるねんけどどれも癖が強くてな。やっぱりボードか杖選ぶ人が多いんや」
「杖とボード多いならなんで箒って言う?」
「確か最初に飛んだ人が箒で飛んだからとかやったような。僕らは総称して箒って読んでるだけやで」
「へぇ」
呼び方にあんまり意味はないようだ。
その後、一度みんなに飛んでもらってコツなどを聞いていった。
「まぁとにかく一回飛んでみたらええよ。何かあれば僕らが助けるから。なぁみんな!」
みんなはこくりと頷く。
「…よし!」
私は箒にまたがる。
そして目を瞑り、魔力を感じながら箒へと込めていく。
「っ…!」
地面に立っている感覚がなくなり、正面からの風を感じた。
まっすぐ、バランスを崩さないように。
深呼吸しながら魔力を込め続ける。
そんな風に集中していると下方から声が聞こえる。
「ちゃんと飛べたやんー!」「渚ちゃん~!」
「あ…」
目を開けると自分が思っていたより上空にいるのを認識する。
グラウンドを見渡せて遠くの方に町があるのが確認できる。
「すごい…」
素直に感激する。
なんとなく前に行ったり後ろに行ったり操作感を確かめているとまた遠くから声が聞こえた。
「あー!渚飛んでる!!」
「えっ」
声のした方を見るとナギがこちらに向かって箒で飛んできた。
「飛ぶことは問題なさそうだな、物覚えがいいと楽でいい」
ナギの後ろを見るとカミラ先生が一緒に二人乗りしていた。
「先生ったらひどいんだよ!私がああなることをわかってて飛ばしたんだから!」
「あーあー、だから助けただろうが。過ぎたことを気にしてんじゃねぇよ」
「むぅ…でもそれで正面から頭打っちゃったんですから」
ナギは少しふくれっ面になりながらおでこを抑えている。
少しかわいい。
「しかし、これで準備ができたな。下のやつらを呼んでくるので待ってろ」
そう言って先生はナギの箒から飛び降り、20メートルはあろう上空からその身一つで急降下していった。
「あっ!」
「ちょ…先生!!?」
そしてそのまま地面へ激突…するわけでもなく普通にスタンと地面へ降り立ったのが見えた。
「嘘…」
「先生に常識…通じない…」
改めてとんでもない先生が担任になったのを実感した。
「ではこれより飛行訓練を始める」
下にいたみんなを呼んできた先生は宣言する。
「あの…その前になんで私の箒に…?先生の箒は?」
先生は自分の箒で飛んでいるわけではなくさっきと変わらずナギの後ろで二人乗りしていた。
「訓練がめんど…いや、もう魔力使うのがダル…あー、違うな。私が直接指導した方が効率がいいからだ」
「それ先生が楽したいだけ…いったーー!!」
「…」
文句を言うと殴られるシステムのようだ。
緊急時とかどうするんだろうか…。
「今日行くのは北東にある学校所有の森、通称『キウスの森』だ。中に入るのではなく編隊を組みながら上空を行って帰ってくる。これができないと進級もできないから気合入れてけ」
その言葉を聞いて少し顔を引き締める。
「と、脅したがこんなもの飛ぶことができるならだれにでもできる。まずはナギ・ミスティアが先頭だ。隊形は三角形の形のデルタ型の予定だがまずはついてくるだけでいい。行くぞ!」
「「「はい!」」」
そうして飛行訓練が始まった。
--キウスの森の端にて--
全身にボロボロの包帯をまとった男がゆっくりと歩いている。
「ひずみ、位置。もうすぐですね。見つかるでしょうか?いいえ、見つけなければなりません!私のため、いいえ!彼らのために!」
ガリガリと首をかきながら常に落ち着かず自傷行為に走っている。
ガリッ!と音がして爪の間に肉が詰まり、首から血がにじみ出て包帯が赤く染まる。
「ああ、それが彼ら、彼女らの救いになるのですから」
手を左右に広げ空を仰ぐ。
「そのために殺してきたのですから!」




