箒の選定
--渚side--
みんなで更衣室に向かう途中、ナギはかなり落ち込んでいた。
「あうぅ、よりによって名前書き忘れるなんて…」
「問題ない。私も0点、お揃い。文字が読めなかったせいだけど」
慰めているが沈んだ頭は上がらない。
クラス替えから実力テストの2回も同じようなミスをしてしまってダメージは大きいようだ。
「そうやって!二人はしゃあない。テオ君なんて見てみいや。ただ点数が悪いだけやねんで」
「やめろ!俺のことはいいだろうが!」
顔が赤いので本気で恥ずかしがっているようだ。
「次がんばろ~。私も問題~早く解けるようになる~」
「…」
ミーネがナギの背中をさすり、イリスも肩を叩いた。
「みんな…ありがとう。渚も一緒で文字覚えるのも大変なのにごめんね…」
「気にしない」
よかった、みんなの慰めのおかげで少しは前を向けたようだ。
「じゃあ後で」
更衣室に着いたので男女で分かれて入っていく。
すると急にイリスがぴたりと止まって周りをキョロキョロと見始めた。
「…」
「イリス君?どうしたの?」
ナギがそれに気づいて聞く。
「…」
しかしその場から動かずじっとしている。
「イリス?」
「イリス君~?」
「どうしたん、先生に怒られんで?」
「あ?何突っ立ってんだ、早くこっち来いよ。どうなっても知らねぇぞ」
「…!」
急にテオの方を向いて男子更衣室に入っていった。
「なんだろう?」
「さぁ?」
ともかく早く着替えなければ。
遅れたら何をされるかわからない。
校庭に出るとカミラ先生が仁王立ちで待ち構えていた。
「遅いぞ!早くしろ!」
慌てて全員が横並びで整列する。
「では今から飛行訓練を始める」
「先生、私とナギ、箒もってない。借りたいです」
手をあげて発言するとぎろりと睨まれる。
「はぁ?先週に連絡…お前たち二人はいなかったか。仕方ない、ついてこい」
そう言って先生は手招きし、近くにある倉庫へと案内してくれた。
「ここの倉庫に入ってるものであれば何を使ってもいい。好きに選べ」
がらりと開けると埃くさい匂いが漂ってきた。
「おじゃまし…え…?」
「どうしたの、ナギ?」
中に入ると確かに箒はあった。
あったが…
「…あの、先生?ここにあるもの、ただの掃除道具にしか見えないんですけど…」
「箒、デッキブラシ、トンボ。…このハンマー持つところ長!なんていうか原初のって感じやな」
「見ろよソウマ、これとかただの木の棒じゃねぇか」
ソウマとテオが中を物色する。
「これ~飛べるの~?」
どれも使い古されていて汚い。
飛んだことがないので私にはわからないがみんなからするととても飛べるとは思えない代物のようだ。
「当たり前だ、現役だぞ。今でもグラウンドをきれいにする掃除に使われている」
「やっぱり掃除に使われてますよね!」
本当にただの掃除用具のようだ。
「自分を支えられるものなら何でもいいからな。早く選べ」
「はーい」
「…」
と言われてもどれがいいなどはわからない。
「先生、どういうのがいい?選び方、わからない」
「ん?あぁ、そうだな。赤月の体格であれば…こいつでいいだろ」
先生が選んでくれたのはデッキブラシだった。
またがれば宅急便とか生業にしてそうな姿になりそうだ。
「体格によって決まる?」
「あぁ、重さ、バランス、掴まりやすさなどでかなり変わる。例えばそうだな…。おい、ナギ・ミスティアちょっとこっち来い」
「え?はい、なんですか?」
箒を吟味していたナギを呼び出す。
なんだなんだとみんなも集まってくる。
「こいつで一度飛んでみろ。飛んだことのない赤月にどんなものが見せてやれ」
そう言って渡したのは持ち手の長い木製ハンマーだった。
「え?いいですけど…ハンマー?」
「いいから飛べ。飛ぶ方法を知らない赤月にレクチャーしたい」
「はぁ、わかりました。じゃあ渚、飛ぶよ。よいしょ…?うひゃあぁぁぁぁぁぁ…!!!!」
「な、ナギ!?」
ナギはとんでもないスピードで遥か後方の上空へ吹き飛んでいった。
ハンマーはナギの手から離れ、カランと地面に落ちる。
「あ~飛んでいった~。たのしそ~」
「ここで天然はいらへんよ、ミーネちゃん」
「本人ぜってー楽しくねーだろ…」
「…」(こくこくと頷くイリス)
「私の魔法で魔力を込めれば5倍ほど増大するように細工した。箒は持っているものを重力場として固定して、上に引っ張り上げるように魔力を操作すると飛ぶことができる。しかし初動の魔力の量や重さのバランスをわかっていないとこんな風にぶっ飛ぶわけだ。だから…」
先生は向こうの方で吹き飛んでいるナギを横目に解説し始める。
「それよりナギ…!助けなきゃ!」
「あー、問題ない。レクト・マジック。マジックスレッド!フリーズ!」
そう唱えてグイっと手を引くとナギは地面に激突する直前にピタッと止まった。
「あ!」
よく見たら先生の手に光る糸のようなものが巻き付けられている。
糸を辿るとナギの方へと向かって繋がっていた。
「アンロック」
糸が消え、地面へべシャリと落ちる。
実際に聞こえたわけではないが「ぐえっ!」という声が再生された。
「まぁこんなもんだ、あとは実戦でコツを覚えろ。ナギ・ミスティアを回収してすぐに始める。あいつの箒は…この木の棒でいいか」
何事もなかったかのように木の棒を拾って歩き始めた。
「えげつなー」
「このセンコー、マジでいかれてやがるな…」
「面白そうだった~」
「…」
今の光景を見てできる気がしなくなってきた。




