ルカと渚
--渚 side --
「デコピン女王って…カッコ悪い…」
廊下を歩きながらナギはうなだれている。
デコピン大会が終わった後、時間がお昼に差し掛かろうとしていたためそのまま解散となったのだ。
「テオ君、大丈夫かな…?」
あの時ナギが放ったデコピンはテオを後方へと吹き飛ばし、青紫色に腫れ上がらせて完全に内出血していた。
まさかアドバイス一つであそこまでになるとは思わなかった。
「問題ない。テオは負けを認めていた。次会う時からは奴れ…舎弟」
「舎弟ってそんなことにはならない…ん?今奴隷って…」
「言ってない」
「え~?」
素知らぬ顔をしながら食堂へと向かう。
舎弟も結構なものだと思うんだけどそこはつっこまないのか。
食堂の入口についた辺りで知らない声がこちらに向かってかかった。
「ナギじゃん!今から食堂?一緒に…ってクラスの子か?」
声の方を向くと暗い青髪ショートのボーイッシュな女の子が笑いながらこちらを見ていた。
「あ、ルカちゃん。そうだよー、赤月渚っていうの!渚、私の友達のルカちゃんだよ。B組ですごいんだー!」
にへらと笑いながらナギはルカという友達のことを紹介してくれる。
「アカツキ…?珍しい名前だな。ルカ・ヴェール。ナギとは初等部からの友達だよ」
そう言いながらルカは左手を出してきた。
私も左手を出して握り返す。
「赤月渚。渚が名前。同じF組でナギとは一緒に暮らすほどの仲。ぐちょぐちょ」
「は…」
「渚!?」
爆弾発言をした私に二人は凍り付く。
「な、ナギ!一緒にってどういうことだよ!それにぐちょぐちょって…いいい一体いつから!」
肩をつかんでガクガクと揺らしながら問い詰めた。
「ルカちゃん、おち、落ち着いて!誤解だから!違うから!」
「誤解?あ、でも昨日様子おかしかったよな!もしかしてクラス分けの件だけじゃなくてすでに…!」
「すでにって何!?だからそうじゃなくて!あと頭揺らさないで!」
「半分はほんと」
「ぐちょぐちょの方が!?」
「そっちじゃないから!肩!肩取れちゃう!あーー!」
そんなやり取り何回か続けて揺らされ続けたナギが放心状態になったころ、私たちは我に返った。
「ごめん、さすがに悪ふざけすぎた…」
「いや、私も悪い。途中からちょっと楽しくなってた」
つい燃料を投下しすぎてしまったようだ。
ナギはまだ放心から戻っていない。
「…昔のナギ、知りたい。一緒に食堂、行く」
「お、いいね!私も聞きたいことあるし。赤…いや、渚って呼んでもいいか?」
「うん、私もルカと呼ぶ。二人でナギ同盟を作る」
「ナギ同盟!ノリがいいねぇ!私、会員ナンバー2ね!」
そんなこんなで打ち解けあう。
あぁ、そろそろナギを正気に戻さなければ。
お昼も食べられない。
「ナギ、起きるといい」
「私が宇宙で…宇宙が私で…」
肩をゆさゆさと揺さぶるがよくわからないことを言っている。
「あぁ大丈夫。こういう時は…」
ルカはナギの正面に立つと両手を目の前に出した。
そして、
「ナギ、起きろ!」
パン!と目の前で手を叩いて猫だましをする。
「頭が揺れー…はっ!揺れてない!」
戻ってきたようだ、さすがに扱いをわかっている。
「うー、体と頭がぐわんぐわんする。えと、なんだっけ?なにか誤解が…あ!そうだ!私と渚はそんな関係じゃ…!」
「何言ってるの?早く食堂行く」
「そうだぞナギ。今日はナギの恥ずかしいエピソード暴露大会なんだから」
ルカに目をやるとにやりと笑う。
「ええ!?やめて!聞いてないよ!っていうか二人ともいつの間に仲良く!?」
ナギの声を無視して二人で食堂の中へと入っていく。
仲良くやっていけそうだ。
「頼るところもないうえに記憶喪失?」
唖然としながら千切ったパンをそのまま落とすルカ。
少し心配していたがこれまでのことを創作も加えながら説明すると素直に聞き入って信じてくれた。
私の両親は事故で亡くなっていてそのショックでこの記憶喪失を起こし、途方に暮れている中ナギが声をかけてくれて学校を通じてナギ一緒に住むことになったという筋書きだ。
実際両親は交通事故で死んでいるしこの世界のことわからないしナギと知り合ったのも転移すぐ目の前にいたからなのである意味間違いではない。
「ナギにはとても助けられた。一緒に住むのも許可してくれて感謝してる」
ナギを見ると少し顔が赤くなっている。
「渚!美化しすぎだよぉ。住むところだって先生が…放っておけなかったのは事実だけど。でも私は…」
「ごちゃごちゃ言ってるけど許可はしたんだろ?」
「……した」
ルカの言葉にゆっくりと頷く。
「昨日も一緒に住むからにはって買い物に連れて行ってくれた」
「ほぉ…」
「でもそれは生活に必要な物だから…」
「徹夜で私書類の書き方を教えてくれた」
「それも必要で…それに名前書く場所を教えただけだし」
「3年前までおねしょしてたことも教えてくれた」
「それはもういいでしょ!」
「正確には2年と9か月前だな」
「ルカちゃん!?そんな正確性いらないから!」
顔を真っ赤にしながら忙しく叫ぶ。
2年9か月か、中等部入ってしばらくするまで…覚えておこう。
「ま、とにかく二人は今一緒に暮らしてるんだな。家主のナギも納得してると」
ルカはまとめるように言うとナギはうなずく。
「うん、昨日からだけど。私が使ってる寮の部屋ももともと二人部屋だし一人で住むよりいいかなって」
「…なるほど、わかった。じゃあ私も協力するよ。二人とも、もし私に協力できることがあったら言ってくれ」
「いいの!?ありがとうルカちゃん!」
「ありがとう」
素直にお礼を言う。
「まぁ不安だし友達だからな。とはいえできることは少ないと思うけど…」
「全然だよ!そう言ってくれるのがうれしいんだから!ね、渚!…渚?」
少し考えこんでいる私にナギが首をかしげる。
「どうした?早速相談事か?」
「うん、大したことじゃないけど」
「なんだ?とりあえず言ってみろよ」
「…私達、学校で一番になる方法、考えてる」
「は?学校で一番?どういうことだ?」
「あー、えっとね。私達、訳あって天上の力に選ばれたいんだ!」
「天上の力って…あの願いを叶えてくれるっていう?」
ナギの言葉にルカは驚く。
「うん、二人で目指してるんだけど…」
「いや、って言ったってつまりは成績で1番になるってことだろ?そもそもF組の状態からなれるもんなのか?」
「そこなんだけど先生に聞いたところ成績で選んでるわけじゃないみたい。どちらかというと功績が大事なんだって」
「功績?どういうこと?」
「それは…」
ナギが少し言いづらそうにしていたので私は口を開く。
「未踏破ダンジョンを踏破したり新しい魔法を作ったり。あとは危険な魔物を倒したりと言ってた」
「な…!そんな危ないの絶対ダメだろ!というかそもそも学校が許可しないはずだろ!?」
ごもっともだ。
「だから悩んでる。私達レベル1。安全な方法ないか模索中」
「あ…そうか、そういうことか」
「ルカちゃん、何かないかな?」
その言葉にルカは少し考え込む。
「そうだなぁ、安全って言っても功績なんて…。あ!だったら学校で掲載してる掲示板とか見てみたらどうだ?」
「掲示板?」
「そう、町や学校からの依頼がいろいろ載っているんだ。大体が店のバイト募集だったりビラ配りだったりちょっとした小遣い稼ぎ程度の依頼なんだけどたまに面白いのが載ってるんだ」
「面白い…例えば?」
「さっき言ってた未踏破ダンジョンの周囲調査とか」
「えぇ!?危なくないの!?」
ナギが少し怖気づく。
「問題ないらしいぞ。調査場所は魔物がいない安全な場所だったり専門の先生がついてたりするみたいだしな。どうしても人手が欲しいときに依頼するって聞いたことがある」
そんなものがあるのかと感心する。
そしてナギと目を合わせ頷いた。
「ルカ、ありがとう。掲示板見てみる」
「いや、大したことは言ってないけどな」
「そんなことないよ!私、掲示板があるなんて知らなかった!良さそうなのがあったら受けてみる。小さいものでもいろいろな依頼を受けてたら功績って認めてくれるよね!」
「千里の道も一歩から作戦、始動」
「え~?長いしカッコ悪いよー」
「あははっ」
そんなこんなで食堂での昼食を終えた。
食堂を出てルカと別れるとき、私はルカに呼び止められてナギに話を聞かれないよう小声で話しかけてきた。
「渚、最初は少し心配だったけどいいやつってわかってよかったよ。私、ナギがF組って聞いて心配してたんだ」
どうやら私を見極めようとしていたらしい。
「ナギは大切な友達。いろいろお世話にもなってる。恩を返せるよう頑張る」
「ははっ!それはよかった。じゃあまたな」
そうしてルカと別れる。
「何話してたの?」
「ナギの恥ずかしいエピソード」
「ええ!?」
そんな会話をしながら私たちは掲示板へと向かった。




