第一話 もう一人の存在
『おい…』
『……起きろ。』
叫び続ける男性の声。
『……ひまり!』
…誰…。
目を覚ました時、私は病室のベッドの上だった。
頭が痛い、ズキッとこめかみ辺りから血は流れてないのに痛みを感じる。
それより…。
『起きたか?ひまり』
私は頭の中に響く声が夢の声と同じとわかる…。
「…幽霊なの?」
思わず口から出た。
『そうは思わん』
同級生の男子と変わらない声だが、聴こえてくる言葉が男子たちとの違いを明確にした。
目を閉じて布団を被る。
『怖がるな。おれもまだ意識がぼんやりしている』
声は少しだけ弱くなった。
『呼ばれた。あの日、別れた日の毬に呼ばれた。』
毬婆ちゃん。
その言葉に胸がざわつく。
『毬と思っていたが、ひい孫とはな』
『毬に良く似ている』
「……」
私は黙ったまま。
それでも不思議だった。
怖い。
怖いはずなのに。
心の奥が妙に穏やかだった。
『さっさとこんな所を出ろ』
『仮病で病院に寝るなど大和撫子が嘆かわしい』
「……」
『聞こえておるのか? ひまり!』
無視。
『ひまり!』
無視。
『こんな病院に居たら頭がおかしくなるぞ』
「うるさい!」
ついに叫んでしまった。
病室に私の声だけが響く。
しばらく沈黙が流れた。
そして。
『……聞こえておったか』
どこか安心したような声だった。
私は頭を抱えた。
理解できない、理解したくない。
なのに…。
頭の中にいるもう一人の感情だけは、不思議なほど伝わってくる。
困惑、安心。
そして、家族と居る感覚。
その感情が、まるで自分のもののように胸へ流れ込んでくる。
理解できないのは、私だけだった。
こうして。
私と、もう一人の存在との生活が始まった。




