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ママはネクロマンサー~娘のわたしは聖騎士だけど、それでもママが大好きです!〜  作者: mabaru


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27話 その光の名は

 

 ママが倒れそう。助けなきゃ。

 でもどうやって?

 右腕は使えないし、体中痛いし。この骨籠は硬くて動かない。

 わかる。わかるよ。

 わたしを守ろうとしてるんでしょ。

 わたしがまだ小さいから。まだ弱いから。

 でもわたしも助けたいの。この気持ちは全然、弱くない。

 どうしたらいいの、わたしに何ができる?

 わたしは聖騎士なんでしょ?

 ここでママを助けられなくて、どうするの!

 

 骨から伝わるママの怖い気持ち、わかるよ。

 もしかしたら、って思うの、わかるよ!

 ママからもらったもの全部、ぜんぶ、わたしの中にあるからっ、だから!!

 

 わたしの愛を、ママに全部あげるから!!!



 ソレイアを囲む骨の籠がゆるむ。浄化ではない。

 テレサの存在をまるごと包むみこむその想いが、かたくなな骨を開いた。


 ソレイアはまっすぐ駆けた。

 先程の、最期の消え入るような光ではない。

 その身に抱え込む。太陽のような輝きをもって。

 

 母の背中を抱きしめた。





 祝福は、愛を理解し、それに応え、そしてそれをすべからく周りへと伝えてゆく。その心の在り方を問う。

 怨念に憎悪を向けてもなくなりはしない。消し去るには赦しがいるのだ。

 母が、子を慈しむように。子がその愛をそのまた子へと伝えるように。


 そして今ここに、新たな祝福を扱うに足る、聖騎士が誕生した。



ーーあたたかい。


 ソレイアの祝福がテレサを包み込む。

 それは今まで、テレサがソレイアに与えてきたものだった。

 

 きっかけは自分勝手でひどいものだった。

 ソレイアにしてみればきっと散々な親だろう。

 それを穴埋めしようと、あらん限りの愛情を与えた気になっていた。

 ソレイアが泣き、怒り、出て行って。そのことに気づいた。

 自分自身を疑った。これは愛ではないのかと。

 だが、たとえ歪であっても、世間からみて違っていても。

 ソレイアを大切に想う心はなにも変わらなかった。

 そのことに今、返事を貰ったような気分だった。


 ソレイアの気持ちが流れ込んでくる。

 言葉にしきれないその想いを、ぎゅっと抱きしめる力に変えて。

 

 いつの間に、こんなに大きくなったんだろう。


 守っていたはずなのに、守られるようになっていた。

 これではあべこべだ。


 自然と笑みがもれる。

 これでは恰好がつかない。

 まだまだ、ソレイアは子供だ。母親が守らないでどうする。


 私が、最強の死霊術士なのだと、胸を張らないでどうする!


 だから、目の前の死神に、片眉をあげて傲岸に言ってのける。


「…母親になったネクロマンサーの強さを、見せてあげるわ」


 べえ、っと出したその舌に、闇色に星屑の光を混ぜた、死霊術士の紋章が輝いていた。

 

 ソレイアから渡された祝福が、テレサを通じて、骨兵たちに宿っていく。


 光り輝く死霊。


 その姿を誰が想像できただろう。


『…バカナっ!?』


 本来、相容れぬ存在が同居する。その信じられない光景に、死神も言葉を失う。

 

 ひとつ、またひとつ。闇の中に灯る松明のように、輝く骨。

 その光りにあてられて、死霊たちは本能的に身を翻し、逃げようとする。

 しかしそこを、ぐわし、と掴んで離さない。

 掴んだ箇所から溶けていく。

 存在自体がもはや、死霊にとっての太陽そのものだった。

 その圧倒的な熱量に、抵抗など無意味だった。

 

 浄化の際に起こる死霊の絶叫すら残さない。

 蒸発していく。近づくだけで。

 その余波だけで怨念を消し去っていく。


 もはや形勢はテレサたちに軍配があがった。

 

 光の骨兵たちは次々と死霊を浄化していく。

 一体、また一体と祓われるたび、周囲の闇が薄くなっていく。

 光の届かぬ禁域にあって、この場所だけは日の光が照らすようにあたたかになっていく。


 面白いように溶けていく死霊たちにテレサは「祝福って便利ねえ」と、どこか見当違いな感想を抱いていた。

 聖騎士は、集団においてこそ、その真価を発揮する。

 その信を、絆を結んだ相手に、自身の祝福を分け与える。

 それを踏まえても、死霊に祝福を与えるという本来ならありえない運用。

 

 だがこれは、なにも特別なものではない。

 ソレイアが、テレサの存在をその死霊術ごと、丸ごと包みこんだ結果だ。

 二人が歩んできた時間が成した、当然の結果だった。


『アリエナイ、コンナコトハ…アリエナイぃ!!!』


 しかし、そんなことは到底知ることもない、哀れな死神は慌てふためく。

 その姿に、ソレイアはやれやれと、手に持っていた心鋼を首にかけ直した。

 肩を回し、腕を回し、手をぐっぱと確認する。


「…ずっと死んでても、こんなことも知らないのね?」


 その声に、死神はソレイアに向き直る。

 

 さっきまで死にそうだった、光りの粒が、いつのまにか周囲を焼き尽くすほどの光量を帯びている。


 どうしてだ。

 いつもの簡単な遊びだったはずだ。

 簡単に消えてなくなる玩具だったはずだ。

 その弱弱しい光を黒く塗りつぶす、いつもの愉しみだったはずなのに。


 そんな表情がみてとれて、ソレイアはため息をつく。


(すっごく弱い)


 力だけが強くて、ほかは全然なってない。

 ロイドから学んだ騎士の心得は、その心の中心に剣を置くことだった。

 正しく力を用いて、振り回されないように、己を律する心の力だ。

 これならまだスカルゴのほうが強いかもしれない。

 

 正直、もう弱い者いじめみたいな気持ちになってきてはいる。

 けれどこれまで散々、相手を虐めてきたんなら。

 けじめはけじめ。

 しっかり躾けてあげることが、ソレイアのせめてもの情けだった。

 

 ソレイアの輝く額の紋章が、死神を逃がさない。

 もはや周辺は死神の空間ではない。

 光の骨兵に分断され、切り刻まれて紙屑のように、散っていく。

 そこに残ったのは、浄化の光を浴びて縮こまり、ようやくよせ集まっただけのよわよわしい、ただの靄だった。


 ソレイアの隣にテレサが添う。そっと背中を押してくれる。

 やっちゃいなさい、と目で伝えてくれる。

 

 右腕はいつの間にか、元に戻っていた。

 まだ痛むが、ぎゅうっと、その拳に力を込める。

 その眼差しが、まっすぐに、死神を捉える。


「わたしはソレイア。…ソレイア・ヘリオナ。聖騎士のジョブを授かりし、死霊術士を母に持つもの」


 その表情は、怒りでもない、恨みでもない、悲しみでもない。そして、無でもない。

 すこしだけ成長した、ヤル気に満ち溢れた少女の顔だった。


「ーーそして、あんたをぶん殴るものよ」


 まるでほうき星のように、夜空を駆ける、一条の輝き。

 

 祝福をめいっぱい込めたその拳で、ムカついたその顔面をおもいきりぶん殴る。

 そのしっかりとした手ごたえに、ソレイアはニッコリだ。

 騎士物語の一幕にあった通り、にくいあんちくちょうをぶん殴ると、スカッとする。


『ギイアアアアアアァァァァァァァァァァァァ…………』


 哀れな声をあげながら、浄化され、霧散していく死神を見てソレイアは思う。

 

 腹は立ったけど、これでスッキリしたから、おあいこにしましょう。

 浄化された魂がどこにいくのか知らないけれど、今度はその性格を直して生まれなおしてくるといいわ。

 もし、逆恨みしてくるようなら何度だって叩きのめしてあげる。

 わたしは逃げも隠れもしない。


 だってわたしは、ママの…ネクロマンサーの娘なんだから!


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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