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ママはネクロマンサー~娘のわたしは聖騎士だけど、それでもママが大好きです!〜  作者: mabaru


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25話 その背中を知っている

 ソレイアは奔る。


 一振り、足を断つ。

 二振り、腕を断つ。

 三振り、首を断つ。


 人型の死霊はこれでしばらくは動けない。

 聖別されていたという武具は、おそらく死神と衝突したときにその効力を失っている。

 浄化は不可。それでも攻撃自体は足止めになる。


 野良の死霊は動きが鈍い。それだけが救いだった。

 テレサの死霊はもっと整然と動いていた。

 けれど初めて目の当たりにする制御を受けない死霊たちは煩雑で、連携がとれていない。死霊同士でぶつかったりケンカしたりしている。それを利用する。

 

 腐ったトロルの足を斬る。


 大きめの死霊を転ばせて、壁にする。

 屍肉の死霊は特に良い。

 斬る感触は最悪だが、目方があって鈍重で壁に最適だ。

 体液が飛び散って目をふさがれないように気を付ける。口に入るのもイヤだ。臭いもツンとする。

 テレサが骨の死霊だけを使う理由が分かった気がした。

 

 近づいてきた骨リザードマンの懐に入って体当たり。


 骨の死霊はソレイアより慣れている者を探すほうが難しい。

 訓練で散々相手にしてきた。

 一見、動きが読み辛いがそこは経験がカバーする。

 鋭利で、屍肉系より素早いが、軽く、すぐ壊れる。

 ソレイアのぶちかましで飛び散った訓練用の骨兵のように、剣は使わず体当たりする。

 とびちればとびちるほど、復帰に時間がかかる。

 

 霊体系の死霊がいないことも助かった。

 物理攻撃が特に効かない死霊の最先鋒。ソレイアがいま最も対処に苦しむ存在。

 だが、ソレイアたちを眺めているあの死神が、おそらくは霊体系死霊の高位存在なのだろう。取りこまれることを恐れて、下っ端の霊体が近づいてこない。

 自身の存在で、今一歩、ソレイアたちに王手をかけられていないのは、皮肉なものだ。むしろあえて長引かせている可能性はあったが、時間がかかるのはソレイアにとっても臨むところだ。


(我慢比べなら負けない)


 一か所ではなく全体を見通す視野を使う。

 最適な相手をみつけ、そのたびに移動、斬る、移動、避ける、移動、ぶちかます。移動、斬る、といくらでもでてくる死霊相手に休む暇はない。

 

 いったいどれくらい時間が流れただろう。

 

 びっしょりと汗がソレイアの額から顎にかけて流れる。

 息も荒い。いくら体力オバケと言われるソレイアでもまだ子供だ。初めての命の危機に際し、普段よりもずっと体が強張り、消耗する。

 動きも鈍くなり、危ない場面も増えてくる。

 そのたびになんとか切り抜けてはいるが。つかまってしまうのも時間の問題。

 

 終わりは、あっという間だ。

 

 ひとたび身体のどこかを掴まれれば、動きは止まり、小さなソレイアを死霊が埋めつくすだろう。

 その一瞬先に起きてもおかしくない状況を脳裏に刻みながら、それでも抗い続ける。


 すこし、またすこし。

 なんとか状況を維持しようと動き回るソレイアだったが、積み重なる緊張と、疲労で、すこしずつ、その判断が鈍っていく。


 

 はし、と何かがソレイアの足首に触れた。


 触手のようなものがソレイアの足を掴んでいる。

 木の肌に擬態した死霊が伸ばした触手。


ーー気づかなかった!?


 そう後悔した瞬間、ソレイアの視界は逆さまになった。

 振り回されている。

 反射的に頭を守って、体を丸める。

 予想される衝撃に備える。

 

 何かに叩きつけられて、肺から空気が吐き出される。

 足から触手の感触は消えている。

 離されて助かったが、すぐに起き上がらねばならなかった。だがーー

 

 声が出ない。

 呼吸をしなければ。

 息が詰まる。

 

 そして、もう再度の衝撃。


 ソレイアの体が、ピンボールのように木々の間を跳ねていった。


 ぬかるんだ地面に顔を突っ伏し。ぶくぶくと泡が口の端から漏れる。

 耳鳴りがして、よく、聞こえない。

 何に殴られたのか分からない。

 けれど相当、大きい死霊だったのだろう。

 まだ痛みは感じないが、体が動かない。

 体の芯から硬くなったみたいに動かない。


 肉体の不随意とは別に、意識があればエーテル体は動く。

 エーテルを用いて無理やり肺に空気を入れる。

 ぶはっ、っと地面が爆ぜて、ソレイアの顔は泥だらけだ。

 

 だが息ができる。

 体もまだ動く。

 まだやれる。

 

 そうして、ソレイアは剣を構える。


 しかしーー


 そこにあったのは、ぶらりと、あらぬ方向に曲がったソレイアの右腕だった。


「っつ!!!!!!!!!!!」

 

 痛みよりも、視覚的な恐怖で溢れそうになった悲鳴を押し殺した。

 

 わかる。あの死神が嘲笑しているのを。


 剣はない。

 腕も使えない。

 ゆっくりと、死霊たちが向かってくる。


 恐怖はある。もう一寸先は闇だ。

 ここまで良くやったと自分を褒める気持ちもない。

 でも、最後に、どうしても。


(あのムカつくモヤに一発お見舞いしたい!!)


 これが、ソレイアの最後の抵抗になる。

 首にかけられていた心鋼を左手で握る。

 そして怒りとは別に、後悔の念がつのる。


 ごめんね、ママ。

 謝れなくて、ごめんね。

 悪い子で、ごめん。

 バカなことしたって、わかってる。

 もう、こんなことしないよ。

 だからさ。だから。

 

 次でもいいから、またー

 

ーーママの、子供に産まれたいな。


 

 ソレイアは叫んだ。

 雄々しく。猛々しく。目の前にある死を突っぱねる様に。

 にやけている、ムカつくあの死神の顔面を目がけて、突進する。

 襲い来る死霊の群れをかわし。

 しかし、かわしきれず全身に傷を追いながら。

 それでも、一直線に向かっていく。

 闇の中にあって、それでも輝きを失わぬ、一条の光。

 

 その最後の輝き。

 

 衝突すれば、はかなく消え去ってしまう光。



 

 だがそれを、許さぬ者がいた。


 白塔がそびえる。

 

 なだらかに湾曲したそれが、巨大な何かの肋骨であると知っている。


 ソレイアと死神の間に、境界線を引くように次々と、立ちならぶ。


 ソレイアの周囲を守るように取り囲む、骨の、鳥籠。


 その背中を、ソレイアは知っている。


(……ママ?)


 黒く波打つ髪、その肌に張り付くような薄い衣。奈落の底のような黒い瞳が、薄ら笑いの止まった死神をとらえていた。


「死んでるヤツに、こういうのもなんなんだけどさあーー」


「ーーブチ殺すぞ!! クソガスっ!!!」


 死神殺しの名を冠する、異端の死霊術士がその逆鱗に触れた相手を、滅殺せしめんと立ふさがった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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