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ママはネクロマンサー~娘のわたしは聖騎士だけど、それでもママが大好きです!〜  作者: mabaru


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15話 がんばって

 テレサに初めて光りをだせたと報告できなかったあと、ソレイアはへこんだ。

 地面にめり込むくらいへこんだ。


 実際、それからというもの訓練はお休みにしてもらい、日がな一日、ぼーっとしている。

 苔が生えてきそうなくらい動かない。

 肝心のテレサも帰ってこなくて、ソレイアを慰められる人間はいなかった。

 ロイドとボルゾイは気を使ってか、適度な距離を保ってくれている。

 ソレイアは助かる、と感じていた。

 今はあまり話しかけて欲しくなかったからだ。


 訓練を休みたいと言い出したのはソレイアだ。


「…ちょっとね、なんていうかね、最近ちょっと調子が悪くてね、だから…怪我しちゃいけないと思って、しばらく休もうかなーって、思います…はい」


 と、ちゃんと二人に言い訳がましく伝えていた。

 これにはロイドとボルゾイも反対はしなかった。

 むしろ今までよく頑張っていたんだから、と休息に賛成してくれた。


 ぼーっとしているといつの間にか、ジャダがやってきて隣に座ってくれる。

 「暇なら、頭なでろよ」と頭をこすりつけてくる。

 だからソレイアも、ジャダのたてがみをわしゃわしゃしながら、ぼーっとした。

 ソレイアはやるならなんでも全力だ。

 全力でぼーっとする。


 出来るようになった指先の光りを点けたり消したり、その繰り返しをずっとしていたり。


 ジャダの背中に乗りながら、どこそこと散歩してみたり。イイ感じの棒を、ただ振り回してみたり。


 川の魚を熊のように手づかみで捕まえたり。


 木に登ったり、草の茂みに隠れたり、洞窟を探検してみたり。


 家の屋根にのぼって雲の数を数えたり。お風呂の中で何秒息を止められるか挑戦してみたり。


 そのどれもこれもが、今までやってきたことで、今でも出来ることだった。

 それが少しだけソレイアの心を温める。


 ちょっとだけ、元気が出て。

 友達に手紙を出してみた。


 オリビアとネイサンに一通、そしてマールに一通。


 すこし恥ずかしかったけれど、ソレイアなりに遠回しに、元気づけて欲しいな、という想いを込めて送ってみたのだ。


 それから二日も経たずに、王宮から返事が来た。



『あんた、バカじゃないの?!』


 と、オリビアの返事はいきなり辛辣だった。

 

 おかしいな、ソレイアの予想では「そう、それは悲しかったわね、わかるわとっても、わたしもこんなことがあってねーー」みたいにお互い恥ずかしい内容を赤裸々に話して友情を深めるはずだったのに。

 いきなり破綻したみたいだった。

 だが、続きがあるので頑張って読んでみることにした。


『何を悩んでいるのかと思ったら、アホじゃないの?』

『なーにが、出来なくて悲しい、よ! 本当に下らない、バッカじゃないの!!』


 辛辣さが全然減らない。

 ソレイアは心が折れそうだった。


『あんたが、こっちに来て何をしたと思ってるの? 馬を受け止めて放り投げたのよ? 信じられる? 馬よ? 投げるものじゃないの!』


『あんたはとにかく滅茶苦茶で、とんでもなくて、私の想像を遥かに超えてて、貴族の令嬢の常識なんて全然通用しない。そんな人間がいるなんて信じられなかった』


『でもそれが、あんたでしょ! なにらしくもなく、ふさぎ込んでるのよ! 言っておくけど、あんたの悩みなんてフツーだから。私たちにしたらそんなの日常茶飯事なの! それでちょっと躓いたからってへこむとか、そんなの全然あんたじゃない。あんたはもっとバカでしょ?! バカはバカなんだから、さっさとバカになってバカバカしくすればいいのよ!! このバカ!!!』


 オリビアの手紙はそこで終わっていた。

 

 すごい、こんなにバカって言われたの初めてだ。

 でも王族の子ってこんなに罵詈雑言していいのかな。

 あまりにもあんまりな内容すぎて、感じていた悲しみが一気に引っ込んでしまった。なんだか元気が出る。


『まずは謝罪を。オリビアが王族にあるまじき内容を書いているようなので代わりに謝っておくよ。…でも、僕も言葉は違うけどオリビアと同じ感想かな。けど同時に嬉しくもある。情けないけれど君は凄すぎて、遠い存在のように感じていたから』


『でも違うんだね。君も僕たちと同じ悩みを持つし、感じる。だから、その点において少しだけ先輩だという自負がある僕からの対処法は、あきらめない事だと思う。…普通だよね。でも僕らにはこれがとても大変なんだ。だから、一緒に頑張ろう』


 ネイサンの手紙はとても綺麗だった。

 双子なのにこんなに違うんだなと驚いてさらに悲しみが引っ込んだ気がする。それに一緒に頑張ろう、と言ってくれたことが嬉しくなる。

 離れていても、友達だって気がする。


 そしてマールの手紙が返ってきたのは、それから五日後だった。  


 オリビアとネイサンの手紙でだいぶ元気を取り戻していたソレイアは、何の気なしにその手紙を開いてしまった。


 そこにはただ一言『がんばって』と書かれていた。


 オリビアたちとは違う。きたなくて、よみづらい、字。

 でも、とっても、がんばって書いたんだと、伝わる字だった。


 思わず両手に力が入って手紙を破りそうになった。


 堪えて、何度も何度も、その、がんばって、を読む。


 頑張ったんだねマール。

 こんなに字が書けるようになったんだ。

 

 ソレイアは恥ずかしくなった。

 

 自分だけが、頑張っていて、つらくて、悲しくて。そう思っていたことに気づいた。そんなことないのに。

 友達に甘えてしまった。マールだって慣れない場所で家族と離れて訓練してるのに。どうして私は平気でマールにあんな手紙を送れたんだろう。


ーー恥ずかしくて死んじゃいそう!


 ソレイアは気づけば走り出していた。


 家を飛び出して、アスレチック場に向かう。

 調子が悪くなってから、一度も完走できていない。

 体の調子が整っていない。それでもーー

 

 最初の一歩で思い切り顔を打ち付ける。

 もう一度。

 丸太の飛び跳ねで足を滑らせて落ちる。

 もう一度。

 今度はロープで滑って落ちる。

 もう一度。

 走ってつまずいて転ぶ。

 もう一度。

 もう一度!

 もう一度!!

 もう一度!!!


 体中に傷ができる。鼻血もでてる。

 掌も痛い、膝も痛い、頭もガンガンするし、さっきから涙も止まらない。

 でも、どれだけドロドロになっても、メタメタになっても、あきらめない。

 

 だってみんな、おんなじなんだもの。

 

 だから走る。ずっとずっと、走る。

 考えるから、遅くなる。

 考えるから、怖くなる。 

 もっともっと。

 

ーーこの瞬間だけに集中して!


 きづくと、ソレイアはアスレチックを踏破していた。

 

 ボロボロで、思い返せば反省のしどころが一杯の、駄目駄目な出来だったけど。

 それでも、出来た。


 荒い息が、徐々に整っていく。

 でも、どくどくと心臓の音が大きくて気持ちいい。

 いつの間にか日は暮れていて空には月が昇っている。

 

 周りを見ると、近くにジャダがいて。遠くにロイド先生とボルゾイお爺ちゃんがこっちを見ていた。


 ママはいないけれど、それで良かったかもしれない。

 こんなカッコ悪いところ見せられない。

 だって恥ずかしいもの。

 

 心地よい疲労感に、ソレイアは今日はぐっすり眠れそうだと感じた。

 そして、友達に「ありがとう!」と心を込めて返事を書くことを決めたのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。



5/1から2話ずつ投稿していきます。完結までお付き合いいただけると嬉しいです。

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