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ママはネクロマンサー~娘のわたしは聖騎士だけど、それでもママが大好きです!〜  作者: mabaru


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9話 晩餐

 食事の時間は、思っていたより波風なく進んでいた。

 いくら無礼講だと言っても食べながら話す習慣のない人間に、下町の酒場のような空気はつくれない。

 このまま何事もなく終わればよい、とテレサは思っていたがそうはいかなかった。


「…ソレイア嬢は、10歳と聞きましたがジョブは何を得たのですか? やはりお母上と同じですか?」


 ひと通り食事も済み、区切りがついたその時にランパートがタイミング良く質問してきた。

 こいつはおそらく知っているくせにあえて聞いてきている。

 父親の悪いところを、よく受け継いでいる。

 次代も安泰だろうな、とテレサは薄く視線を向けた。


「…私は、聖騎士のジョブを授かりました。…本当は母と同じが良かったのですが。ランパート様は何を?」


 聖騎士、の一言に場に緊張感が走った。

 気づいていないのはソレイアだけだ。

 本当に周りの連中は口が硬いのだろうな、とセルバンを視線だけで睨む。

 しかし意外だったのは王妃だ、ソレイアのジョブを知らなかった様子だ。


「私はメインを騎士、サブで強化術士を鍛えていますよ。しかし聖騎士であればそのどちらも扱えるでしょうし、ソレイア嬢にとっては面白くもない話でしょう」


「…っ、いいえ、私は聖騎士だけだったので、サブジョブの運用は知りません。興味があります!」


 ソレイアの言葉に「そうかい?」と言ってはにかむ王子様。たしか18歳だったか。

 

ーー小僧が。

 

 ソレイアを誘惑するつもりなら、ただでは済まさんぞ。

 

 テレサの怨念が届いたのかランパートの頬がひきつる。


「嘘よっ、聖騎士って上位ジョブでしょう? とても長く修練しないと成れないって聞いてるわ!」


 そこに、末っ子のオリビア王女が噛み付いてきた。

 なんとなく、大好きなお兄様に褒められた、よく知らない同年代の女の子が気に入らない、というところだろうか。

 こちらは分かりやすくてよい。

 娘子はソレイアがいるせいかどこの子も可愛く見えてしまう。

 1番はソレイアだが。


 言うより見せる方が簡単か、とテレサに目で許しを求めたソレイアは、前髪をあげ、額の紋章を輝かせた。

 光るソレイアのおでこに注目が集まる。

 流石に視覚的な説得力があると微かにどよめきが起こる。「おお、なんと神々しいおでこなんだ」とか聞こえた気がするが、本当に大丈夫なのか?

 

「紋章図録に載っている通りだな。素晴らしい」


 セルバンが認めた。それでこの話は終わりだった。

 オリビア王女は口をぎゅっとひきしぼり、ぷるぷると震えながら「疑って、申し訳ありませんでした」と謝る。

 その姿のオリビアにどうも感情移入したのかソレイアが心配そうに見ている。

 弟妹が欲しいと言っていたし、年下に弱いのだろうか。


「その白金の髪もそうですけれど、父君から素晴らしい才を受け継がれたのかしらね?」


 王妃テレジアがニッコリと作り笑いをしながら探りを入れてくる。

 そこはセルバンにも話していない事柄だから止める気はなさそう。

 面倒くさいな、正直に「適当に選んだ男で大当たりしました」って言おうかな。

 なにか耳障りのよい話はないかとテレサが考えていると、意外なところから声が上がった。

 先程から一言も発言していなかったネイサン王子だ。


「…白金の髪に聖騎士といえば、詩に聞こえる巡礼の聖騎士のようですね」


 まだ9歳と言っても線の細い子だ。

 双子だと言うオリビアの方が活発そうだ。

 外で遊ぶよりも内で本でも読んでいそう。

 この子は単に知っている話から連想したようだが、テレサにとっては初耳のことだった。


「…なんだ、知らんのか。有名だぞ「白金の聖騎士」。なんでも教国の良い家の出らしいが、巡礼がてら民を助けて回っているとか。それも無償で。ごうつくばりの教会関係者にしては見所のある男よな」


「ええ、私もそう聞き及んでおります。…もしかしたら、と思ったものですから。ーー本当にお知りにならなかったのですね?」


 はい、お知りになりませんでした。

 どうやら付け焼き刃の淑女教育では予想外の話に対応できないようだった。

 それほど、知らない話だと納得させる表情をしていたのかと、テレサは反省した。


「…ま、まあ。そのような奇特な方が? 不思議なこともあるものですね。おほほ」


「遠く血が繋がっているかもしれんな。縁があれば尋ねてみるのも良いのではないか? ソレイア嬢の訓練にも聖騎士の言は貴重であろう。外にでる聖騎士など滅多にいないからな」


 ふむ、とテレサは考える。確かにその通りではある。

 基本である騎士の部分はロイドでも教えることはできるが、肝心のロールモデルがなければ目標も立てづらい。

 かといって教国に教えを乞うというのは問題外だ。ソレイアを取り込もうと躍起になるだろう。適職検査の神官たちを出し抜いて箝口令までしかせた意味がない。

 その点、国から出て人助けが趣味であろうおめでたい聖騎士さまなら、悪くない選択かもしれない。


「…その方は、今どちらにいるのでしょう?」


「さてなあ、何せ詩にのってやってくるくらいだから、聞こえてきた時にはもうその土地にはおらんだろうし。最後に聞いたのは確か、教圏を出て東の方へ向かっているとか」


 想像以上のフットワークの軽さだ。

 せいぜい教国付近を回っていると思っていたのに。

 教会の権威が届かない場所まで行っているとは、なかなかの血迷った人物のようだ。


「父上、それはもう古いです。最新の詩によるとドラゴンから異国の姫君を救ったあと、こちらに戻ってきているそうですよ。…おそらく、禁域を避けて大回りして教国へと向かわれているかと」


「まあ、この子ときたら。聖騎士殿のことになると饒舌になるのだから」


 なるほど、ネイサン王子は噂の聖騎士のファンなのか、だからと言って同じ髪色とジョブを持つソレイアに手を出すことは許さぬ。

 

 しかしそうかこっちに戻ってきているのか。

 ならば試しに、通りそうな場所に仕掛けをしても良いかもしれない。

 人助けが趣味なら異変に敏感なのだろうし、その点、テレサの骨は目につきやすい。


(白金の髪か)


 確かにあの男もその髪色だったが、それは偶然だろう。

 碧玉の瞳が、虚ろにこちらの裡を覗いていたのをよく覚えている。

 あの目をした人間が人助けなどするはずもない。

 なぜなら、テレサと同じ目だったからだ


ーーなのに、なぜか、少しだけ胸がざわついた。

読んでいただきありがとうございます。

キャラクターが増えてきました。

次は、ちょっと大人だけの話。

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