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自分の恥ずかしい所を晒すわけ(美桜編)


「まあ、愛菜と違って、あたしがそれを見せたいと思うのは、果歩だけだけどね!」

「……それは、どうも」


 って、愛菜の話を打ち切った美桜ちゃんが、急に隣を歩く私に振り向いて、何かに対抗するように声を張り上げ主張してきた。

 別に、私は、愛菜のファンと違って、あまり求めてないんだけどなぁ。どっちかって言うと、美桜ちゃんがいきなり見せびらかして見せつけてきただけだし。


「あ、別に愛菜のこと悪く言っているわけじゃなくてね? ただ、あたしはあそこまで幅広い人に向けて自己表現したいとは思わないだけっていうか。別に、それが本人の幸せなのだとしたら何も悪くはないわけで……ね?」

「う、うん……」

「あたしだって、す……好きな……人になら、その……何、されてもいいって、思っているし……。それで、その人が幸せになるのなら、なおさらだし……。だから……ね?」

「う、うん……」


 美桜ちゃんが、顔を赤らめて目を泳がせながら、何か凄いこと言っている気がする。美桜ちゃんの言う好きな人って、つまり私なわけで、その大胆さと可愛さに、妙にドキドキしてドギマギしてしまう。


(気持ちは、嬉しい……けど、反応に困る……!)


 私なんかに、そこまでしてもらって本当にいいんだろうか? なんてつい思っちゃうけど、たぶんそれを口にしたら、また美桜ちゃんに怒られる。なんか(・・・)って、自分を下げる言葉に反応されて、きっと“なんかじゃないよ! 果歩だからいいの!”ってムッとした顔で言われるだろう。そう思ったら、その言葉を聞きたいがためにわざと言いたくもなってしまうけど、無駄に美桜ちゃんを怒らせたくはないから、言わないでおいてしまう。


(それに、美桜ちゃん、“私になら何されてもいい”とか言ってたけど、それって本当なのかな? あんまり酷いことはやっぱり駄目なのかな?)


 なんて考えてしまって、どうしても遠慮してしまう。だからこそ、


「……凄いな。美桜ちゃんも、愛菜も」


 って、二人の覚悟に感動しつつ気後れもしてしまう。


「えっ?」


 当の本人の一人は、きょとんとしていたけど。


「私……その、未だに……さ。……他人に、自分の……恥ずかしい所、を、見せるのとか……抵抗あるから、さ」

「うん……」

「私には、まだ、その感覚が分からないんだよね……」

「……うん」

「あ、べ、別にっ、二人を(さげす)んでいるとかじゃなくってね? 本当に分からないから、言っているだけで……。あっ……で、できれば、その……その感覚について、訊きたいとすら思うし」

「……その感覚って?」

「あ、え、えーと……えっとぉ……。は……恥ずかしい所をっ、他人に、見せたいと思う感覚……」

「あー……うん……」


 あまりにもド直球でセンシティブそのものな話題に、思わずテンパって話す内容がとっ散らかってしまった。


「えっとねー……まー……簡単に言うとー……見せてもいい、大丈夫な人にだけは、打ち明けて、見られたいって……いう感覚、かな?」


 けれど、美桜ちゃんは、どうにか理解してくれて、一生懸命に言葉を選んで、恥を忍んで頑張って教えてくれた。それはありがたくはあったけど、私には、あんまり良く分からない感覚だった。


「打ち明けて、どうするの?」

「え! そ、そりゃあ……その、か、かわいいって言われたかったり、とか、嬉しい反応をしてもらいたい、とか……」


 だからつい、何の気もなしにもう少し突っ込んで訊いてしまう。

 そしたら、美桜ちゃんは面食らった顔をして、目を泳がせて、俯いて、髪の隙間からチラチラと見える耳まで真っ赤になった顔をして、だんだん声まで小さくなっていく。

 いつも自信満々な美桜ちゃんが、今は弱々しく反応に困っている。明らかに恥ずかしがってて、すごく、普段とのギャップを感じて、その……。


「……なんか、美桜ちゃん、可愛い!」


 と、心からそう思った。


「や、やめてよ! ……恥ずかしい」


 そしたら美桜ちゃんが、上擦った声をしながらそんなことを言う。


「え? でもさっき、私になら恥ずかしい所を見せたいって……」


 って言ったら、美桜ちゃんがバッと、真っ赤になった顔を私に見せて、

 

「それは! ……言った、けど。……うー」


 でも、すぐに目を逸らして、また俯いて、せっかく照れまくってて可愛い横顔を長い髪で隠れるようにしてしまった。(しま)いには、謎の鳴き声をあげてしまう始末である。

 昨日は、あんなにパンツも見せて肌も晒して、みっともない姿も見せてキスまでしたというのに、ここまで恥じらった顔は見られなかった。それが、私には逆に新鮮で、なんだか優越感が湧いてきて、嬉しくなって、


「ふひひっ」


 と、変な笑い声まで漏れ出てしまう。

 美桜ちゃん、今はそっぽを向きっぱなしで顔も合わせてくれなくなったけど、決して嫌な気分じゃないということは分かった。というか、本人がついさっき言ったばかりのことだし。


(ここでまた、美桜ちゃん可愛い! なんて言ったら、どうなっちゃうかな)


 なんて、出来心の悪戯心まで湧いてきてしまうけど、今は辞めておいた。

 まだ私達は、美桜ちゃん()に向かって歩いている最中だし、前にも後ろにも人はいる。こんなところでこれ以上(からか)ったりなんかしたら、二人して狭い道の上で立ち止まってしまいそうになるから。


(その代わり、(うち)に着いたら思いっきり弄り倒しちゃおっかなー)


 なんて、小悪魔的発想を浮かべながら、段々とトボトボ歩くようになった美桜ちゃんの手を引いて、上機嫌で歩き出す。そのまま、可愛さ抜群な(くせ)して危ない考えまでしている、要注意人物な彼女を家まで連行してやった。

 それから、私も美桜ちゃんも、何も言葉を交わさないまま粛々と道を進んで、ほどなくして一件の家の前までやってくる。


「着いたよ、美桜ちゃん」


 と、私は隣にいる親友に声をかける。

 

「……あ、うん」


 いつもと様子が違って、妙に内気になっちゃった親友が、ワンテンポ遅れて返事をする。

 家の扉の前までやって来た私達は、美桜ちゃんが手に取り出した鍵を使って開けてもらって、中に入る。そして、靴がない玄関で靴を脱いで、勝手知ったる誰もいない家の二階へと進み、数ある部屋の一角へとお邪魔する。後から親友もやってきて、部屋の扉を閉じる。

 ここは、美桜ちゃんのプライベートスペースだ。なのに、今の美桜ちゃんは、ぎこちない動きでソワソワしてて、落ち着かないでいる。なのに、ただのお客様に過ぎない私の方が、なんでか堂々とリラックスできていて。なんだかあべこべな様子に可笑しくなってしまう。


「ぷふっ」

「……なに?」


 美桜ちゃんが、不思議そうに私を見る。


「いや、ここ、美桜ちゃんの部屋なのに、まだそんなに緊張しちゃっているんだなーって」

「しょうがないでしょ! ……果歩の前で、恥ずかしい話をしたから……」

 

 美桜ちゃんは文句を言うように大声を上げて、でもすぐに、不貞腐れた顔で床を見ながら、手の傍にあったスカートを握り締めてボソボソと訳を喋る。

 いや、恥ずかしい話以前に、恥ずかしいこともここでやってたはずだけどね? しかも、割とノリノリな態度で。

 なのに今日は、何故だが打って変わって、いじらしい美桜ちゃんが、私の前にいる。一方で私は、そんな美桜ちゃんを見てて気持ちが(たか)ぶってしまっている。完全に、昨日この部屋でやり取りしていた時とは、気持ち的な立ち位置が逆転していた。

 いや、昨日に限らず、いつもは大体、私が弱気で陰気なせいで何に付けても美桜ちゃんにリードしてもらっていた。

 滅多に経験してない優越感に、私は失礼も忘れて、ついつい調子に乗ってしまう。でもまあ、相手は美桜ちゃんだし、私の親友だし、仮にも恋人同士になった仲だし、別にいいか。


「えーでも、昨日は美桜ちゃんから恥ずかしいことしてたよね? あの時の余裕さはどこ行っちゃったのかなー?」

「あれはっ! ……あの時は、そういうのに慣れてない果歩に色々とヤらせるために、必死だったんだから! ……平静を装っていたから、果歩にはいつも通りに見えたのかもしれないけど」

「えー、ほんとー?」

「ほんとだよ! ……っそんなに言えるなら、もう一回やってみなよ」

「え……」

「……あたしは……。いつでも……じゅんび、できている……つもり、だから」


 私でも言えること言って煽っていたら、逆に美桜ちゃんから挑発され返されてしまう。さらには、顔を真っ赤にさせて、辿々(たどたど)しくも意外な暴露をぶち撒けながら、全身の力を抜くようにへたり込んでM字に座り出す。

 今日はピンク色なパンツが、スカートの奥から私の視界に映り込む。


(いやいや、そうじゃなくて……え?)


 あまりにも無抵抗で無防備で、可憐で可愛くて乙女で、隙だらけな大好きな美桜ちゃんの姿に、思わず私は固まってしまう。


「……果歩ぉ」


 美桜ちゃんが、これ以上無いくらいに恥ずかしそうな顔をしながら、とうとう潤んだ瞳までして、(あま)えるような、(すが)るような声で私の名を呼んでくる。

 今まで一緒に過ごした中でも初めての、あられもない美桜ちゃんのメスっぽさ全開の姿に、私はドキッとしてしまう。


「っはい! ななななん、で、しょう?」


 あまりにも衝撃的な展開に、一気に全身が震えるくらいガチガチに緊張してしまう。それに対し、美桜ちゃんは、


「果歩……あたしを……す、好きに……いじって……」


 なんて、追撃に爆弾発言をかましてくる。


「え……」

「果歩が笑っていられるようになるなら、あたし、どんなことされてもいいよ……。だから、お願い……。果歩の好きなように、あたしの身体を(いじ)りまくってよ……!」


 唖然として固まっていたら、美桜ちゃんが、私の性欲を呼び覚まし、あまつさえ理性すらも打ち砕かんとする勢いで、私に懇願してくる。

 これはきっと、冗談なんかじゃない。本気で美桜ちゃんは、私に恥ずかしい所すらも捧げている。


(……っ!)


 渇いた喉に、(つば)を飲み込む音が鳴る。

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