20,優くんは地縛霊にシャンプーされます
202×年4月中旬、水野優13歳
「さぁさぁ優くん先に入って入って!」
愛川はそう言いながらお風呂場の前で手招きしている。相変わらず今日の愛川のテンションは高めだ。髪は濡れないようにお団子ヘヤーに結び直している。
「ほ、本当にやるんですか?」
「そうよー。じゃないと優くん、切った髪がそのままであっちゃこっちゃに飛んでいってお部屋汚くなっちゃうよ」
「そ、そうですけど……」
恥ずかしい、優の気持ちはそれに尽きている。
今優自身の格好も、髪が服につかないようにビニール袋を纏っているため、てるてる坊主のようになっているがそれ以上にお風呂場に愛川と、異性と、年上のお姉さんのような人物と入ることが恥ずかしい。
そもそも誰かとお風呂場に一緒になるなんていつ以来だろう。
(というかそもそも誰かと入った記憶がないな……)
父と母、お風呂場付近で見かけた記憶それすらもあっただろうか。普通の家族なら親子で入るものなのだろう。クラスメイトから訊いたことはないのであくまで推察、実際どうなのか。
普通の家族とはどんなふれあいなのだろうか。
「ほら、隙あり!優くん入ってもらいまーす!」
「にょわ!」
優は愛川にポンっと押され、お風呂場にスルッと入る。あくまで優しく、お風呂場で強く押されてはたまらない、危ない。今回は大丈夫。
ただ精神面は大丈夫ではない。
「もしかして恥ずかしいのですかお客様~?」
「え、あ、え……はい……」
ばれてしまいそれすらも優は恥ずかしい。
愛川はそのままシャワーを片手に準備を進めている。逃げることはもうできないようだ。
(というか目を閉じれば誤魔化せる……!?)
シャワーが目に入ってはいけない。いつでもスタート出来るように優は目を閉じる。
「それじゃ流していくね~」
キュッとシャワーのレバーを回す音が聞こえ、頭部に当たり始める。
愛川は空いている右手で優の頭を優しくといて、汚れと切った髪を落としていく。
(これは本当に心地良い……)
シャワーが止まりシャンプーが始まる。愛川の指がシャワシャワと音をたてながら入ってくる。擦れる指が、その音が気持ち良い。
優は今自分のがどんな状況におかれているか忘れるくらいにそれを堪能する。
本来家族であればこういうことを何回かやるのだろうか。分からないがこの瞬間が止まることなく、どこまでも続いて欲しいと優は思う。
やがて愛川は再びシャワーを流し始め、リンスに変わり、最後のシャワーが終わる。
「お客様、終わりましたよ」
「ありがとうございます」
優は目を開ける。髪から水が目に入りそうになる。
「おっと、タオルだね!よっと!ふいていきますよ~」
それに気づいた愛川が近くに置いていただろうか、掛け声と共にタオルを取り出し優の頭に乗せられる。さわさわと頭でタオルが踊る。
「どうでしたかお客様、私のシャンプーの加減は?痛くなかった?」
「大丈夫でした。その……気持ち良かったです」
「それは良かった。流石に誰かの散髪とシャンプーをするなんて初めてだからね~。緊張しましたよ」
「そうだったんですか?全然そんな感じに見えなかったです……」
「それより優くんがどんどんさっぱりするのを見ているのが楽しかったからね~。さぁオッケーかな!」
愛川は緊張していた。優はそれを感じ取れなかった。手が震えているような、呼吸が乱れているようなそんな仕草が無かったから。
しかし初めての試み。誰だって最初は緊張というか、慎重になる。
(やっぱり愛川さんには敵わないな……)
その後優たちは片づけをして元の部屋の配置に戻し、くつろいでいた。
(だいぶ軽くなった、気がする)
前が結構長すぎた。優自身そこまで髪を長くしたかったわけではない。顔の知らない床屋に行くのが怖く尻込みしていたらあっという間に伸びてしまった。
先ほど鏡を見たが、すっきりした自分を見るのは嬉しかった。
「ごめんね~。洗うとやっぱり所々に素人感が出ているところ見つけちゃって……」
「全然、気にならないです。明らかに失敗しているところなんて見えなかったので」
流石に今回の散髪チャレンジは初めてなため、強いて見れば左右のバランスが若干アシンメトリーになっている所。しかしそういう髪のセットもあること、優は分かっているので気にするレベルものではない。後は頭をさわると所々ツンツンと引っかかる箇所が何個があるが、触れられることがなければこれも気にならないレベルだ。
愛川がじっと優を見つめ、
「やっぱりすっきりさっぱりした優くんは可愛いね」
「か、可愛いなんですか……?」
「そう。不服なの~?」
優の元に近づき、抱きつかれる。ぎゅっと優しく。
びくっと優は反応する。けして嫌ではない、そのように誰かの肌の温度が分かるくらいに近づかれることに免疫がない。恥ずかしい。
(前よりは過敏になっていないかな……?)
愛川のこの行為が優に対しての愛情だと分かっている。それを無下にしたくない。でも恥ずかしいと怖さがある。臆病だと気づいている。
このままではそんな感情でグルグルしてしまうので何か話して誤魔化そうと優は
「きょ、今日はその……あ、ありがとうございます……」
「はい、どういたしまして。こちらこそありがとうね」
「え?」
愛川の方から感謝される。今回散髪をお願いしてやってもらったのは優の方だ。どうしてそのように言うのか優には分からずリアクションをしてしまう。
愛川は綺麗になった優の髪を撫でながら、
「こうしてまた誰かと一緒に何かすることが出来ることがね。ほら、私は幽霊じゃない?」
「あ……」
こうして触れ合ったり、普段の生活を遜色なく送れているのでついつい忘れてしまいそうになる。愛川は地縛霊の幽霊、優が解放するまでは一人だったのだ。
「そう……だからさ、それに優くんで良かったって。だってオジサンの散髪なんてしたくないよ。若い子バンザイ!」
「は、はぁ……」
愛川はたまに毒舌になる。特にいい年の方に対しての物言いが乱雑な節があった。
「なんて冗談……でも本心……優くんみたいな子が欲しかったから……」
優の耳元で独り言のように愛川は呟いた。それを優はしっかり聞く。
しかし優はなんて返せばいいのか分からない。どういう意味なのか、分からない。
「最近優くん学校行ってばっかりだから、もう少しこうしててもいい?」
「は、はい」
そう言って愛川は優を何事もなかったかのように撫でまわす。
(少しずつ、少しずつ……)
優自身、親が不在のように愛川にも何かしらの事情があるのだ。その節もどことなく感じ取っている。そういう話は凄くナイーブなことも優は分かっている。
ただこうして同じ部屋で暮らす同居人(幽霊)にかなりお世話いただいている。いずれ聞ける日が来るだろうか。
優はそう思いながら、愛川にされるがままに力を少し抜いた。
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