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19,優くんはお姉さんに散髪されます

202×年4月中旬、水野優13歳


 自分の部屋が様変わりしている。いつもご飯食べる居間の床には新聞紙とビニール袋が敷き詰められ、中央にはお風呂で使っている椅子がちょこんと置いてある。


「それではお客様、席にどーぞ~!」


 愛川はいつも以上にテンション高め、少し上擦るような声で優を招き入れる。優は緊張しながら恐る恐るその中に入っていく。

 休日の午前、天気も良く窓を開けたら爽やかな陽気が入ってくるだろう。今は開けると髪が飛ぶので無理だが。

 愛川の格好は散髪屋をイメージしているのだろうか、上は白めのTシャツに下はダメージジーンズ。かなりラフな格好ではあるが愛川の髪お団子に結われているからだろうか清潔感も感じる。

 いつも以上に見た目が変わってしまっている愛川に、優は尚更緊張する。そんな優は服に髪がつかないように大きいビニール袋を被っている。


「優くん、てるてる坊主みたいで可愛い~」


 直球に感想を述べる愛川、優はますます緊張と恥ずかしさを募らせる。


「あー、そんな丸くなったら髪切れないよー。ピッと背筋を伸ばして」

「は、はい……!」


 せっかく切ってもらうのだ、優は愛川に言われた通り姿勢を正す。


(愛川さんのテンションが高い……)


 今回散髪をお願いしたのは優だ。そのためまさかここまで愛川が乗り気でやってくれるとは思っていなかった。


「その……よろしくお願いします」

「はーい!よろしくね!それじゃ切りますよ~」


 愛川ははにかみながら、チョキンとハサミを進め始める。手つきは慣れているようで迷いなく、髪が切れる音、ハサミの音が軽やかに部屋に響く。

 流石に床屋のように話しながらは難しいようで、黙々と散髪が進んでいく。

 途中、髪をならすために櫛で優しく優の髪をとく。時には愛川の手で優の頭を撫でるように切った髪を払ったりもする。その感触は優しく、温かさがある。

 温かさまでは今の優は感じることに気づかないが、愛川の丁寧な散髪にすっかりリラックスしていた。これが床屋であればやっぱり無理だろう。どれだけベテランの店員に任しても警戒心の強い優は中々こうして緩やかに目を閉じることなんてできない。

 優はそんな心地良さを堪能していると、後ろから質量を感じた。慌てて目を開けると愛川が優の頭に抱きついていた。


「ふぇ!愛川さん!」

「お客様、凄い安らかに眠りそうなのは嬉しいけど、そのままだと変なとこ切っちゃうから起きてくださ~い」


 そう言いながら愛川は姿勢は変えずに、ぎゅーとしている。


「あ、ごめんなさい。なんだかリラックスできて……寝そうだったんですね自分……」

「落ち込まなくていいのに。最近、学校の生活が本格的になってきて疲れが取り切れてなかったんでしょ?それにさっきも言ったけど優くんのそういう表情、凄く嬉しいんだ」


 確かに愛川の言う通り、今朝起きた時まだ体が重かった。今週の学校イベントは優にとってたくさん発生した。あまり他人と話さない、積極的に動かない優はそれだけでずいぶんと体力を浪費した。

 ただ愛川が言っているそういう表情、寝そうでウトウトとしている所が見たのが嬉しいのだろうか。恥ずかしい。


「ん?ちがうちがう。優くんが安らかーな、リラックスしている表情にできたのが嬉しいなーって。優くんは中々そういう表情出さないからさ……まだまだ子供なのに周りに気を使っちゃうせいで、様子見るような表情が常だからさ。せめて家にいる時ぐらい色んな表情出していいんだよ。喜怒哀楽、今は喜びなのかな?それが見れたから、次は怒っているところも、哀しみはいらないね!楽しいところなんかもさ……」


 愛川は優にくっついているのでそのまま囁くように耳を撫でた。

 感情、とりあえずは態勢と結構恥ずかしいことを言われたので顔が赤く発火し始めているのを優自身感じる。

 満面の笑顔、一生懸命に泣くこと、そんなことはとうの昔に卒業していた。自分は早く大人になり、一人でも生活できるように生きていけるようにしないと。頼れる親はもういないのだから。


「さてさて……こんな感じかな……お客様、出来ましたぞ」


 愛川はハサミを止めてその場を離れ小さい手鏡を持ってきた。


「あ、ありがとうございます」


 想像以上に自分の髪が優自身の好みの髪型にセットされていて驚いた。というよりだいぶさっぱりした。

 全ての方向に長めだった優の髪を、まず横はばっさりと地肌が見えないギリギリまでスッキリしている。後ろも同様に上はバランス良く、そして前髪はある程度斜めに残っている。髪で目が覆われることはなくなるくらい、ただ短すぎない。眉毛より少し下くらいだが空いてもらったおかげかかなり軽くなっている印象。

 そんなイメージチェンジした髪を優はさわる。


「喜んでもらえて何よりですよ!せっかくだしシャンプーもする?」

「え?家で出来るのですか?」

「うん。優くんのそのまま恰好ならあんまり濡れることないと思うし、私はほら、着替えるだけでいいからさ!先に髪の毛一本のお代はいただくけどね」


 そう言ってやる気満々の愛川は下に落ちている先ほど切った髪の毛を手でつまみ自身に吸収する。そうすることで自身の体調が整い、服装を自在に変化出来る便利な幽霊機能。

 優は流れるようにお風呂場に移動する。


(あれ?これって実質一緒にお風呂に入るのとそんなに変わらない……それに髪洗ってもらうって……)


 これから行われることはいつも騒がしいクラスメイトに言えば絶対羨ましいと言われること間違いなしだ。

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