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17/21

17,さみしがり屋の優くんはジゴロでした

202×年4月中旬、水野優13歳


 春が進みもうすぐ新芽を眩しく太陽が反射させる季節、それも傾きかけている17時過ぎの整理整頓され清潔感のある生徒会室。そこに優と女性の生徒会長で応援リーダーの田中夢の2人きり状態。ここだけの表現上ならウラヤマ設定だが、上司で部下、そして呼び出されている。青春ではなく社畜の風景がこれから待ち受けるのだ。

 そんな戦々恐々している優は頼りの星野が帰ってしまい、半べそ寸前。

 田中はジッと優を見つめ、


「どうですか、異性の先輩しかも学校のリーダーと生徒会室に2人きりの感想は」

「……ほぇ?」


 優は今日の応援関連のことを言及されると思い、生つばを吞んでいたがあまりにも想定していないことを聞かれすっとんきょんな声が出る。

 そんな優に田中は微笑むように、


「ふふ。だって水野さん……誰もいないから水野君て呼ぶけど、あまりにガチガチになっているから。私が怖いっていうよりこういう呼び出しに慣れてなさそうだから。そんな状態な水野君に注意するほど私は厳しくしたいわけじゃないし、ただしっかりお話したいからさ」


 ちょうど昨日同じ時間帯、クラスメイトで隣の席の丸井夏希からそのように言われた。毎日、そして同居人にも言われたことがある優は不思議な気持ちになる。


(自分ってそんなに言われるほど、ガチガチブルブルしてるのかな……)


 そう思うと少し落ち込む。



「あ、ちょっと。和まそうとしているのに落ち込まないで。それに水野君には怒るなんてことないんだから……というか単純に話すの苦手?」

「……はい」

「そっかそっか。なら私が申し訳ないよ。どうしてもクセでペラペラ喋るから。そういう感じでやっていないと務まらないからさ。まあしかし、あの星野君と簡単に友達になるなんて。雰囲気含めて相性が良いんでしょうね」

「……そんなに、ですか?」


 優からすれば気さくに話しかけてくる星野は確かに田中の言う通り、相性がいいのかもしれない。しかし何回も言われるほど凄いことなのだろうか。


「ええ。まあ動画とかニュース観ている限りで言えばかなりストイックで物静か、インタビューなんかも多くは語らないから。なんだろう現役時代の一郎みたいな?」

「……いちろう?」

「な……!伝わらない……だと……!まあいいや気にしないで。つまり結構話しかけ辛いオーラがあるというか、少なくともサッカーをしているときはそんな感じ?」


 田中は先ほど星野がいた時は違いリラックスし、表情豊かに話す。

 優は、一郎というおそらくサッカー選手なのだろうが分からなくて首をかしげる。それに星野に田中のイメージと優のイメージにはだいぶギャップがある。


「その……星野君は結構気軽に話しかけてくるというか……確かに物静か、というかあんまり周りと話したがる感じではないと思いますが……分とよく勉強とか、色々話します……」

「そっか……相当気にいったんだろうね。本人も言っていたけど、特別扱いしないし何よりこう、守ってあげたくなる雰囲気あるね水野君は」

「え?」


 守ってあげたく、どういうことなのだろうか、優はたまらず変な声が出る。

 それについて考えるがおそらく小動物ような見た目、雰囲気ということなのだろうか。自分はそんな風に見られているのか。確かに今の優は身長、体つきは同じ男子生徒に比べ小さく、そして週末に愛川に散髪してもらうため髪も今は長め。


「こればっかりは説明だけじゃ難しいよね。例えば私の雰囲気ってどう思う?」

「そ、それは……」


 言葉にするのが苦手な優は口を紡ぐ。

 田中の雰囲気、生徒会長で応援リーダー、今は2人きりだからか少しピリッとした雰囲気は感じられず、温厚にすら思える。間違えなく言えるのは、


「や、優しい……?です……」

「……初めて言われました……」


 田中は驚き、目を丸くしながら変な口調になる。


(え?もしかして間違った……?)


 しばらく放心している田中に、優は間違った筋違いなことを口走ったのではないかとおどおどする。確かに厳しい面も役職柄見られるだろうが、相手を思ってのこと。もしそうではないのなら優には応援の注意をしてすぐ終わりなはずだから。

 田中は表現を緩やかに戻し、


「そっか……そりゃ星野君も気に入るわけだ……」


 独り言のように、自分に言い聞かせるに口を開いた。

 それから田中は一度咳払いし、


「ありがとう。いい加減本題に入らないとだね。あの時、水野君は具合が良くなかったのよね?」

「は、はい……!」


 田中は姿勢を正し、表情もきりっとした風貌に戻る。

 ただ優の気のせいだろうか、その雰囲気にどこか微笑みよう、僅かな柔らかさを感じていた。それを聞くわけにもいかず優も姿勢をピシッとする。


「それで誤魔化すために、星野君がああして取り繕ってくれたと」

「は、はい。合っています。なので悪いのは自分で……」

「そう思うところがあるなら周りなんて気にせず移動して良いんだからね……って口では言えるけど、それが出来なかったんだよね?あんな雰囲気の中だもんね。せめて外でやれたら良かったんだけどね……」


 今は晴れているが、応援練習時は雨が降りそうだったため大事を取って体育館。本来は校庭で行うはずだった。


「今時応援練習なんてーって思うだろうけど、これも団体行動出来るようになるための訓練というか予行練習だからね。もちろん苦手な人がいるのも分かっているよ。そもそも私も人気ひとけ多いの好きじゃないから」


 そう言って田中は微笑む。


「さて、私もそろそろ部活にいかないとだからここらで終わりにしましょう。水野君……」

「……はい……?」


 田中は優の名前を呼んだ後、椅子から立ち上がり、


「また何かと声かけるかもだから、その時はよろしくね!」


 田中の今までは違う声色、表情。生徒会長田中としてではなく一人の少女として夕陽に映えるそのはにかみに優は見とれた。



(つ、疲れた……)


 優は下校中、凝り固まった体をほぐしながら今日のことを頭の中で振り返る。今週のことを振り返る。

 新しい生活の始まり、中学校生活の始まり、やはり何かと忙しくなることは充分に理解しているつもりだったが、想定以上に体力を浪費している。想定外の出来事が何個か起きたからだ。

 来週には隣の席の女子、丸井の友達と昼食会がどこかで催される。

 始まりとだけあって本当に様々なことが湯水のごとく湧き出る。それが嫌だ、ということは決してないが人付き合いが苦手な優にとっては大変だ。


(戻って今週はゆっくりしよう……)


 しかし今日は週末の金曜、今夜からじっくり体力を回復することができる。

 それに愛川との約束、散髪をしてもらうこと。それが優にとって小さな楽しみだ。

 優は長い髪をいじりながら、いつもより足早に愛川のところに帰った。


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