16,優くんは入学早々に生徒会長のお世話になります
「さてっと……それじゃ、事の顛末を説明してもらおうかな?そっちの背が高い方、名前は?」
そう言って田中夢は堂に入った慣れているゲーミング椅子を回し、髪をたくし上げながら告げる。
(うう……怖いな……)
生徒会室、まさかこんなに早く中を拝見することになるとは優は思いもしなかった。きっと隣にいる星野昇も少なからず思っているだろう。
他の教室と違い、少しゆったりして余裕を感じる広々とした掃除がしっかり行き届き、空気も澄んでいるように思わせる内装。入るとすぐにいくつもの長机で作られた正方形、その外側にたくさんのパイプ椅子が綺麗に縁取っている。
そしてその奥に構えているのが、会長用のシックに重厚感を感じるこれぞお偉いさんがいかにもな使っていそうな机。その上には性能がよさそうなデスクトップPCセットに書類が均一に置いてある。そしてゲーミング椅子にどっしり座っている田中がいる。
優は広い空間に自分含め3人しかしないことに、焦りのようなそわそわとした感覚に襲われている。これから田中生徒会長に問い詰められるよりもシーンと静まり返っている雰囲気が非常に居心地を悪くさせていた。
早く愛川がいる狭い部屋に戻りたい。今日も放課後の寄り道は過酷だ。
田中に自己紹介するように言われた星野は、
「星野昇と言います」
生徒会長の田中に臆することなく、飄々(ひょうひょう)と自分の名前を言う。
すると田中は目元を僅かに上げ、
「へぇ~、君があの星野さんなんだ……ふーん……背が一気に伸びたみたいだね」
星野を値踏みするように見回す。星野は表情を変えず、
「それはどうも」
「サッカーはシニアに入るでしょ?そちらの方は期待してるよ」
「いえ、クラブではなく部に入ります」
「そうなの?それはそれで嬉しい。ぜひ全国大会に連れていってね」
田中と2人は淡々と話していく様に、優は全くついていくことができず、首をかしげそうになるが余計なアクションは起こさないようにとどめておく。
するとそんな優を田中は見透かし、
「あれそっちの子は星野さんのサッカーのこと知らないの?ごめんね、お名前は?」
「み、水野優、です。ほ、星野君がサッカー好きなのは知っていますけど……」
体育館から場所を変え、あらためて凛としている生徒会長の前で話すことが、優はやはり緊張する。
あまりにもガチガチになりすぎている優に田中は苦笑し、
「ふふ。そんなにかしこまらなくていいのに。別に怒るわけじゃないよ。星野さんは水野さんに自分のこと言っていないの?」
「はい、別に自慢にすることのものではないので」
「謙虚なんだ。だけど星野君クラスになれば、それはそれで謙虚になり過ぎると僻まれそうだけど。そっか水野さんは星野さんのサッカー関連で友達になったわけじゃないんだ」
「そうです。純粋に自分を見てくれているので」
「でも、水野さん星野さんのサッカーのことも理解しないと、純粋に見ているとは言えなくない?」
「それは……」
星野は優の方を見ながら申し訳なさそうに眉尻を下げている。
(どうゆうこと……?)
おそらく田中のニュアンスからするにサッカーで有名か何か成績を残したのだろうか。しかし優のマンションの部屋に小さなテレビはあれどニュースを頻繫に観るほど活用していない。どちらかといえばスマホで大きい記事のトップニュースを見て時事を取り入れるくらい。星野には申し訳ないがスポーツ関連のニュースはさっぱりだった。
「まぁ、でも、ふーん……」
田中は目を細めながらジッと優を見つめる。今日も優は見つめられる、女性は皆そうなのだろうか、そう思うくらい全身を異性から見つめられる。そんなに面白いことなんて起きないのに。
田中は表情を戻し、
「水野さん、そちらの星野さんはサッカー凄く強いのよ。『小学生ナンバーワン蹴球男児』と異名がつくくらいにはね」
「ほ、ほえ……」
優は驚き、変な声を出してしまう。
だがそれと同時に星野が入学当時やたら話しかけられていた理由が分かった。やたら表現なのは星野本人が嫌そうにしていたから。話の内容までは聞かないようにしていたがサッカー関連のことだったのだろう。何らかの理由で優と同じここの学校に越してきた、そしてサッカーのことでとやかく言わないことが星野のお眼鏡にかなったのだろう。
「優、ごめん。黙っていたいわけじゃなかったんだ……」
「う、ううん。むしろ気づかなかった自分が……」
申し訳なく隣で話しかける星野に、優はむしろ自分が無知で申し訳ないことをしたと感じる。
「水野さん、今度星野さんの動画でも見てみればいいんじゃない?全国大会とかのならあると思うから」
「そ、そうします……」
さっそく今日の夜に観ることを自身に予約する。
こほん、と田中は咳払いし、
「話が脱線したけど、今日の応援のことだけど……」
田中は真剣な表情、真剣な声色に変わり、優は喉を鳴らす。これから自分はどのように注意されるか体が震える。
ただ田中が言いかけたとき、学校のチャイムが鳴る。17時を知らせる合図だった。
「会長、すみません自分ちょっと帰らないといけないです。このように申し立てることが良くないとは思っていますが、家庭の事情的にどうしても帰りたいです」
星野は田中と同じくらい真剣な面持ちで話す。今この状況が好ましくないから逃げたい、という意味ではないことが伝わる。
「そうなの?家庭の事情って言われると詳しくは聞き辛いけど、どうしてもなの?」
「はい、すみません。話せば長くなるので端的にすると母子家庭なので家事を手伝いたいです」
教室で見かける星野の普段の表情とは全く違う、星野は田中を見ているはずなのに遠くを眺めているような、寂しいとは違う今の優には表現できない目つきに変わっていた。
自分とは違った家庭の事情、母子家庭で早く帰らなければならない、それでいて春にこの学校に転校、何かしらの事情があることは明白だ。
それに優の通うこの学校、サッカーは全国大会に行くほどの名門ではない。詳しいことまでは分からないがもしそのように有名になっていれば、嫌でも耳に目に届く。しかし元サッカー部の叔父がそこらについて言及していないあたり、言ってしまえば普通。もし田中の言う通り異名がつくくらいの強さがあるのなら名門の中学に進学するはず。それなのに今優の隣にいる、このことからも理由は複雑なのかもしれない。
「分かりました。それ以上の事は聞きません。こちらも端的に今日の応援の事注意するけど、もしあのようにふざけるくらいならしっかり先生か応援団に知らせること」
「はい、今回はすみませんでした」
星野のしっかり腰を曲げ謝礼する。
「水野さんはまだ残れる?もうちょっと話したいから」
「え?あ、はい、大丈夫です……」
隣の星野が本当に申し訳なさそうに優にアイコンタクトする。そして生徒会室の扉の前に移動し「失礼しました」と礼をし姿が消える。
その様子を優は眺め、田中に視線を戻す。
(うう……1人は怖い……)
これから生徒会長田中夢に何をされるか、主に今日の応援について言及されるのだろうが心細く今すぐここから逃げ出したいが、少し不気味にすら思える田中の笑みが優の足をガクブルさせる。




