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13,優と隣の女の子との邂逅(下校トーク

202×年4月中旬、水野優13歳


(誰かと帰るなんて初めてなんだけど……!!)


 どきまぎしながら下駄箱から外靴を取り出し優は履いていく。丸井はすぐに準備を終え優の支度を期待するように待っていた。

 玄関をぬけると夕暮れの日差しが橙色に輝いている。絶好の下校日和になりそうだ。

 誰かと一緒に帰るなんて集団下校の訓練でしかしたことがない。任意で、しかも異性と帰るなんて。小学校のころも何かと理由を作って断ってきた。人が怖いから。

 本当は今回も断ってそそくさと帰りたい。しかし隣の席の女子、迂闊に断って今後の学校生活の評判に、それが身近に関わってくるのはマズいと思う。そのためこうして流されるままに丸井と帰ることになった。

 それに丸井の雰囲気的に断り辛い。パッと見は優にとって苦手な相手に思えたが、丸井はただ明るいだけでなく、ある程度こちらのことも考慮してくれている。優をしっかり見ているので尚更断れなかった。


(流石に周りを気にしないほど神経図太くないし……一緒に帰るしかない……)


 というわけで、クラスのカーストトップ女子との下校だ。


「優ってさ、確かここに越して中学に入って来たんだよね?」

「は、はい。そうです……」

「最初、ここらじゃ見ない顔だなーって思ってさー。そしたら優って可愛いの。友達と昼食食べるときとか話題しまくりでさー」

「は、はぁ……」

「優ってクラスの女子って覚えてる?」

「そ、それは……」


 優はそもそもクラスメイトの顔と名前がまだ一致しない。名前を言われたら思い出せるかなといったところ。


「ははは!大丈夫、大丈夫。優って他人にあまり興味なさそうって感じだし」

「そんなわけではないのですけど……苦手、なので……」


 図星をつかれたような、そうじゃないような。あっているようで、あっていないような。

 他人に興味がない、他人に関心が持てない。どちらなのか優は分からないが居心地が悪くなったのは確かだ。


「うんうん。まぁそういうのはひっくるめて人気の要因だからねー。うちの小学校上がりの連中はさー、結構喋る奴が多いから優みたいなタイプ珍しいんだよねー」


 確かに優のクラスはわりと賑やかな方だ。授業中もたまに盛り上がっていたり、盛り上がりすぎて先生に怒られてしまったりしている。そういうところでクラスの雰囲気は悪くないと思っていた。ただ自分が馴染めるかは問題のひとつだったが。


「全員がお調子者ってわけじゃないんだけどねー。私の幼なじみでクラスメイトの南と令奈って分かる?」

「え、えーと……」


 先ほども突っつかれたが、クラスメイトを全員把握しきれていない。まだ入学して1週間経つかぐらいというのもあるが、自分のことで精一杯過ぎて周りにまで手を掛けられないからだ。それとさっきの理由。


「あ、ごめんごめん。下の名前だけじゃ分かりにくいか。横沢南に上野令奈って言うんだけど……ってその顔だと分からなさそうだね。今度紹介してあげるよ。ていうのもさ、2人は優みたいに結構大人しくて気が合いそうなんだよねー」

「そ、そうなんですか……」


 丸井のガン攻めトークに優は終始苦笑しっぱなし。

 横沢南よこさわみなみ上野令奈うえのれいな、名前は聞いたことがあるが顔までは分からない。

 そしてしれっと新たな約束を取り付けられた気がする。ガン攻めトークは終わらない。


「優ってさ、休みの日は何してんの?」

「え?えーと……勉強と買い物、ですかね……」

「えぇ、なにそれ偉すぎ。勉強とかって自信もって言えないよ。買い物もさ、家族の分のお使いって感じでしょ?」

「そ。そうですね」


 正確にいえば違うかもしれない。浅からず遠からず。

 愛川とは家族なのだろうか。いや違う、あくまで幽霊で優しい同居人だ。


「すげー、ちょー偉すぎ。私とか家族のためにしたこと全くないから。いえばアニキたち絶対過保護してくるしさー」


 アニキたちに何か思うことがあるのだろうか、うげーとした表情を丸井はしている。


「そ、その丸井さんてお兄さんがたくさんいるんですか?」

「たくさんて、あんなのが4・5人とかいたら流石にヤになるよ。2人、私入れて3兄妹って感じ」

「そうなんですね、すみません変な風に聞いて……」

「ううん。面白かったからオーケー」


 眉尻を下げながら言う優に丸井は白い歯を見せるように明るい笑顔で返す。


「てか、そんな謝らなくても大丈夫だよ。それいったら私の方が色々聞いたり、優にごめんなことすでにたくさんしまくってるから。保健室のやつとか」

「そ、それは!」


 思い出すだけで悶えたくなる。まさかに誰かに触られるなんて思いもしなかった。ましてや女子に。


「だから私の時は謝らなくていいから、ガンガン色んなこと聞いたり、頼ってちょうだい。せっかくの隣の席なんだし」

「わ、分かりました」

「そしたらそろそろ私は家着くからこの辺で、今日はさんきゅー。一回優が私に聞いてきたこと嬉しかった!またねー!」


 そう言って丸井は分かれ道を見送る前に駆けてしまった。


(嵐のような人だ……)


 優は一息、深呼吸する。緊張で息が詰まっていたようだった。

 まさか放課後でここまでのイベントが起こるなんて、優は精神的にも肉体的にもいつも以上に疲労感が募っていたことを、リラックスしたことで感じ始める。

 ただこれで隣の席の女子と親睦を深めることができたのは良かったかもしれない。どんよりな雰囲気よりよっぽどマシだ。

 それに久しぶりに外でここまで他人と話せた。それもきっと丸井のおかげなのだろう。

 少しずつ、少しずつ変わっていくために。


 優は重い体を振り絞りながら残りの帰宅路を進んだ。

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