14,さみしがりの優くんの好きという感情
202×年4月中旬、水野優13歳
「あら、随分私と気が合いそうな子ね」
学校から帰宅し、夕食後の休憩タイムで優は今日のことを愛川に報告した。身体測定があったのに体調が悪くなったこと、放課後に身体測定行ったこと、丸井に乱入されたこと、一緒に帰ったこと。
そして愛川の第一声が丸井と気が合いそうだと言うのだった。
確かに押せ押せな感じ、しっかり優・相手を見ている感じ、似ているところは多そう。
「まぁとはいえ裸ツンツンは流石にびっくりするわよねぇ~」
「本当にびっくりしました……」
「私まだ優くんにツンツンしたことないな~」
「え?」
確かに愛川とは他の人に比べスキンシップはあるし、裸も上裸ではあるが何回も見られている。男の上裸なんて減るものはないというが、もちろん恥ずかしいし、勘弁願いたい。たまに愛川がにまにましながらこちらを見ているときがあるのでそういう趣味なのかと意味をこめて睨みつけていた。
ただ改まって言われるとは思わず、優は蠟梅する。
「さ、触りたいんですか?」
「そんな怪訝そうな顔で身構えている子を襲ったりはしないよ。冗談冗談!」
若干前かがみで腕で胴体を隠し、目を細める優に愛川はゲラゲラと笑う。こういう所も丸井と似ている。
「今度散髪する時、髪をお願いするのでその時まで我慢してください」
「はーい、そうしまーす」
愛川ははにかみながら手を上げ、約束する。
優は普段、物事をお願いして取るときは何気なく触れあうことはある。そういう時は特に何とも思うことは無い。しかし、意識的に触る触られると話は別、恥ずかしいと、恐怖。
また触れてもいいのだろうか、そういう不安がどこかにある。触れられるときは、普段そのようなスキンシップとは皆無なので何事かと丸井に触られたときのように跳ね上がってびっくりしてしまう。
本当は愛川に頭を撫でてほしい。その想いは片隅にある。しかしびっくりしてしまう自分が情けなくも感じる。この雁字搦めから脱却したい、でもどうすればいいのだろうか。
そんなことを考えている優を怪訝そうに見つめる愛川。
「な、なんですか?」
「優くんは丸井ちゃんのこと好き?」
「はぇ?!」
身構えていた優は愛川から予想だにしていないことを聞かれ、変に上擦った声を上げた。
この好きの問いは明らかに恋愛対象としてどうかだろう。答えは決まっている。優は表情を戻し、
「その、好きとか……そういう感情がわからないです」
「おお……おふざけで聞いてしまった答えが、重い一撃になってしまった!ごめんね……」
愛川はそう言いながら立ち上がり優の方に近づく。そして優の後ろに座り両手で囲ってきた。抱きしめられた。
「ん?!」
「しばらくこうしたいけど、いいかな……?」
「は、はい……」
抱きしめられた瞬間、優は一瞬暴れたが愛川の言葉を受け静止する。
(やっぱりこうやってびっくりしちゃうんだよな……)
優は一瞬暴れてしまったことを反省する。もう少し力が強くなってしまえば頭同士が衝突して愛川を傷つけることになってしまっただろう。ある程度慣れている愛川に対してすら、こうした反応になるのが嫌気だ。
ただ急に愛川に抱きしめられたことに、優は理由が分からなかった。むしろ冗談な質問だと気づかなかった自分に非があるのでは、と思っている。
それも束の間、愛川は優の頭を撫で始める。
優は再度驚きはしたが意識している最中だったので暴れるまでには至らずに済んだ。
愛川に頭を撫でられる。優自身の体が強張っているのを実感する。こそばゆさを感じる。優しさを感じる。
「優くんに言われて思い出した。好きって難しいよねって」
愛川は優の耳元で優しく囁く、頭を撫で続けながら。囁やかれたことによりこそばゆさが増す。またここまで近くで話すことになることが久しぶりのように感じる。先週そのようにした気がするのに。
「そ、その……愛川さんも何かあったんですか?す……好きってことに……」
優は慣れない状況で言葉を上擦りながら、愛川のように優しく返すように努める。
優はさっき愛川に言ったように好きという感情が分からない。いや、知らない。ポジティブな感情なのは周りの反応から分かる。ただそれだけじゃ感情のハードルは高くならない。人との向き合い、それが分からない、知らない。本当は知っていたはずだ。でも蓋をしてしまった家族の記憶も。今は思い出そうとは思わない。
後ろで包む愛川の表情は今どんな感情なのだろうか。それも優は想像だけでは理解できない。
「私は色々経験したんだぞー。まぁ周りから見ても自分から見てもいい経験とは言えないけどね……」
自嘲しているようなそんな声色、内容。何があったのだろうか。愛川は変わらずに優の頭を撫で続ける、その手は優しく。
「……いつか教えてください」
「今じゃなくていいの?」
「……はい。今はその……この態勢は恥ずかしい、ですけど……その……もう少し撫でて欲しいです……」
「……わかりました、お殿様……」
愛川は冗談任せにそう言いながら、手の動きは優しい。
知りたい気持ち、確かに優には確かにある。でも自嘲気味に言う愛川を見たくない聞きたくなかった。これはわがままなのかもしれない。どうしてそうしたいのかまだ理由は分からないのに。
ただ愛川に撫でられるのは心地良い。前にもそうしてもらったように、この感覚はやすらぎがある。そのことは優は分かる。
態勢は慣れていくしかないだろう。撫でられるには、近づかないといけない自然なこと。愛川から自分と同じ洗剤の匂い、でもそこから愛川自身の女性の香りなのだろうか、甘いようなちゃんとした表現に困るもの。そして背中は熱い、優が勝手に火照っているだけだが密着されている、優と同じ人なのに性別が違うだけでこんなに優しく柔らかいのだうか。優にはない平均的なそれが一番に主張しているのはあるかもしれないが。
これが家族のぬくもりなのだろうか。それを愛川に要求してしまったことを優はまだ知らない。
優しくゆったり撫でられながら時間を過ぎていく。




