0692話 進む準備
「ラウル!」
ギルドからの緊急クエストを終えた翌日。
ジャンベルデッドの町から出発するための準備をしていた。
モントロワから一緒に来た住民たちを乗せるための馬車に加え、新たに仲間が乗るための馬を用意し、必要な物資を買い揃えた。
物資についてはレムやアスタが持つマジックポーチなどに格納していく。
そこに近づいてきたのはエリックだ、ラウルの一つ上の兄である。
モントロワで一緒になって以来だが、画家である彼もジェンベルデッドに来ていたようだ。
「エリック兄さん!、兄さんもこちらに来てらしたんですね」
「ああ、国都ルーラーンに行こうかと思ったんだが、ちょっとキナ臭い感じがしたんでね、予定を変更したんだ」
「そうですか、やはり」
「ああ、僕も気をつけたほうがいいかと思ってね」
「そうですね……ところでそちらは?」
エリックは一人ではなくエルフの女性を連れていた。
「ああ、紹介が遅れたね……ジャンベルデッドに来る前に知り合ったメロディだ」
紹介されたメロディはペコリと頭を下げる。
「はじめまして、弟のラウルと申します」
ラウルは丁寧に頭を下げる。
「メロディは音楽に造詣が深くてね……僕はそっち方面は全くなんだけど同じ芸術を志す者同士、妙に息があったというかね」
「そうですか、お仲間ができたようで何よりです」
「ラウルたちはこれから自領に向かうのかい?」
「そうですね、その予定です」
二人の話しを聞きながら俺も会話に加わる。
「どうも」
「ああ、リュウ殿、お久しぶり」
そう言いながら手を差し出してくるエリック。
「ええ、エリックさんもお元気そうでなによりです」
俺は差し出された手を握り返す。
「酒場で聞きましたが、この町でも大活躍だったみたいだね」
「仲間のおかげです」
「ははっ、リュウ殿ならそういうでしょうね」
「本当のことですよ」
「リュウ殿、ラウル……頼みたいことがあるんだが」
和気藹々とした会話から一転、表情を固くしてエリックが言う。
「どうしたんですか?、兄さん」
「私とメロディを君たちのクランに参加させてもらえないだろうか?」
「兄さんが冒険者クランに?、いきなりどうしたんですか?」
「ああ、はっきりというとエリステル姉さんの変貌が理由なんだ、このスーシアンはいま歪んでいる、それを打破したいが私は戦闘のほうはからっきしでね、それ以外のことでなんとか民の役にたてないかと考えて画家になったんだけど、統制が厳しく風刺画の一つも書けない、筆ひとつで対抗することに限界を感じていたんだ…、正直にいうと諦めてもいた……だけどモントロワで聖女様、テレーザ嬢の絵を書いたときにまだまだ筆でも戦えると感じた」
「あの絵は見事でした」
俺は素直な感想を口にする。
「ありがとう、リュウ殿」
「テレーザの絵がきっかけということは分かりました、ただそれと我々のクランに入るというところが繋がりません」
「ああ、当然そうだろうな、私はモントロワでの瘴気騒ぎを解決した君たちに希望を見出したんだ、きっと大きなことを成し遂げるんだろうと。それと同時に自分にその力がないことにも絶望した……だが、君たちの仲間には戦う力がないものもたくさんいる、私はその一員となって君たちの近くで成し遂げることを見届け、それを絵に残したい、そう思ったんだ」
「そうですか、リュウが大きなことを成し遂げるという点は私も同感です、もっともそうなるように全力で支えるつもりでもありますが」
「俺一人でできることなんて高が知れている、だが仲間と一緒ならきっとできると思っている……俺達の目的は絶対に達成してみせるつもりだ」
俺の言葉を聞いてエリックは笑顔を見せる。
「ええ、私には戦う力がない、だけど得意な絵を書くことで君たちの力になれるのではないかと思う……そして私も君たちが成し遂げる世界を見たい……そしてメロディは歌が得意なんだ……絵と歌でリュウ殿やラウルたちを支えたい、こんな理由じゃダメだろうか?」
「……いえ、絵にも歌にも心を震わせる効果があるのは間違いありません、そして仲間になりたいという思いも分かりました、リュウはどうでしょうか?」
「俺は構わない、むしろ大歓迎だ」
俺の答えに笑顔を見せるエリックとメロディ。
「ありがとうございます、エリック兄さんにメロディさん……仲間になっていただくにあたって私達の目的を共有したいと思います、もしこの目的に賛同できないのであれば仲間になることを取りやめてもらって構いません」
「分かった、聞かせてくれ、君たちの目的というものを」
エリックはそういながらメロディに目をやる、するとメロディも同じように頷いていた。
「ではこちらで説明します」
そう言ってラウルはエリックとメロディを連れて行く。
そうして俺は出発準備の手伝いに戻った。
程なくして戻ってきたエリックとメロディから正式に仲間になったことを聞いた。
「……」
「……」
「……で?」
「えっ、どうしたの?」
俺はエリックらの話しを聞いた後に目の前にいる意外な人物に気づいた。
目があったその人物は不思議そうに首を傾げる。
「いや、そのリアクションはおかしいだろ」
「えっ……そうかな?」
「そうだろ……大体、昨日のクエスト終了後に別れただろ」
「そうなんだけど……その後にリュウたちから使いをくれたんじゃない」
「使い?」
「えっ……?、リュウの使いだって言ってたけど?」
その人物の言う使いに俺は心当たりがない。
「いや、俺は知らないんだけど?」
「えっ……?」
「……」
「……」
思案顔の俺たち。
「で、その使いはなんて言ったんだ?」
「そうね……その使いの人は私達に仲間にならないか的なことを言っていたわ」
「仲間に?、それでここにいるのか?」
「そうね……私達も特に行き先があるわけじゃないし……それに貴方達の考え方には賛同できるし、叶えたいって思う」
「そうか、ならいい」
「いいの?」
俺のあっさりした答えに相手のほうが驚く。
「いい……俺達は考えに賛同してくれる仲間を常に求めている、リズが賛成してくれるなら大歓迎だし、リズが優秀な分析官であることは昨晩のクエストで分かったしな」
「そう……」
リズは俺の言葉を受けて少しモジモジしながら背を向ける。
そう、俺が見つけた意外な人物とはリズだ。
昨晩ジャンベルデッドの冒険者ギルドでの説明を終えたあと、俺達とリズ達は別れた。
それなのに今朝になると俺達の出発の準備を手伝っていたのだ。
「仲間の件はあとでラウルに詳しい話しを聞いてくれ、ところでリズのもとに現れた使いってのはどんなやつだった?」
「そうねぇ、それがなんかよく分からないのよね……なんというか影みたいな感じというか」
「影?」
「リュウ!、それにリズ様もこんなところでどうされたのですか?」
「ラウル、いや、リズが俺達の仲間になってくれるらしいんだ」
「そうですか!、それはありがたい、歓迎しますよ」
「ありがとう」
「それで昨晩リズのもとに俺からの使いが行ったらしいんだが、心当たりがなくてな……特徴を聞いていたところだ、ラウルも一緒に聞いてくれ」
「あー、なるほど、使いですか……もしかしたらシゲンあたりがスカウトのためリズ様に使いを送ったのかもしれませんね」
「シゲンが……うーん」
「ま、まぁ、私の方で確認をしておきます、リズ様……仲間になるにあたっての説明をしたいので、少しお時間いただけますか?」
「あっ、ちょっと待って……父やジェレール、グラシャンも一緒でいい?」
「皆さんで我々の仲間になってくれるのですか?」
「そのつもりだったけどマズかったかしら?」
「いえ、歓迎します、では皆さん一緒にどうぞ、ああそうだ、リズ様たちに紹介したい仲間もいますよ」
「ん?、私の知り合いでもいるのかしら?」
「そうですね、ほら彼です、昨日気を失って治療していた」
「えっ、アイツも仲間になっているの?」
「ええ、意識を取り戻したあとに話しをしたところ仲間になってくれました、彼は今日からヴェイセルという名を名乗るそうです」
「その名前って?」
リズが何かに気づいたような表情を見せる。
「ええ、彼を殺そうとし、仲間たちを皆殺しにしたボスの名前ですね」
「どうしてそんな名前を……?」
「どうやらヴェイセルというのは彼らのグループのボスが代々引き継ぐ名前のようです、彼からすれば先代ヴェイセルがダメなボスだったというだけで名前自体に罪はない、むしろひとり生き残った自分がその名を引き継ぐべきだと話していました」
「そう……アイツ……いえ、ヴェイセルとも話してみないといけないわね」
「そうしてあげてください、ヴェイセルも知り合いがしれば少し安心するでしょうし」
「分かったわ」
ラウルとリズが話しながら、この場を後にする。
俺はリズの元を訪れたという使いのことが気になってはいたが、出発の準備をするうちにいつの間にか忘れてしまった。




