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龍翔記  作者: GIN
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0691話 思惑

大国スーシアンにある謁見の間。


玉座に座るのは女王エリステルだ。


王は健在だが長く姿を見せていない、エリステルも一時期、姿を見せないことがあったが最近は王に変わり玉座に座ることが多くなっていた。


優雅に足を組み、眼下を見下ろすエリステル。


そんな彼女の前に跪いているのは国都ルーラーンの国都守備隊を率いるバルワーである。


バルワーはエリステルとも親戚関係にあり、公爵の地位である。


公爵といえば貴族の中でも最高の地位だ。


だが、そんなバルワーであっても、より高い権力の前には無力である。


「特にバルワー卿、貴殿の娘はいまどこにいる?」


エリステルが冷たい声で問いかける。


親戚という間柄でもありバルワーはエリステルが幼少のころから知っている。


よく笑う優しい子だったが、いまの冷酷な顔からは、その頃の面影を感じることはできなかった。


「はっ……不肖の娘であるミーアトリスはいまは、ある冒険者のもとに身を寄せているとのことです」


「そう……」


「……」


バルワーの回答に短く頷いたただけのエリステル。


宰相アルフレッド、近衛大将マイアールもピクリとも動かない。


「……その冒険者というのはギルドでの登録後、異常な短期間でAランク認定され、クランまで設立した優秀な者とのことです、そのため私としても……」


そこまで言ったバルワーの言葉を手を上げて制するエリステル。


「それだけじゃぁ……ないでしょう?」


「……はっ」


エリステルのより一層、冷たい声にバルワーは身を固くする。


「……くだんの冒険者のもとには……ラウル殿もおられるとのこと……ミーアトリスはラウル殿を慕っていたこともあり、その冒険者クランに身を寄せているようです」


「そうね……愚弟と一緒にいるのよね」


「……」


バルワーはエリステルの言葉に反応しない、女王の弟であるラウルに対する良くない評価が含まれている言葉に反応すべきではないと考えたためだ。


「……それで?」


バルワーの反応を楽しむようにエリステルは問いかける。


「はっ……それで、とは?」


「……貴方はどうするつもりなのかしら?」


「……どう……とは?」


バルワーの回答にエリステルは、ハァァと大きく息を吐く。


その様子にバルワーは一層、頭を低くする。


「……私はね、従姉妹でもあるミーアトリスのことを心配しているのよ」


「ははっ……お心遣い感謝いたします」


「そうでしょう、だからミーアトリスは安全なここ、ルーラーンに戻すほうがいいと思うのよ」


「……と言いますと?」


エリステルは足を組み直す。


「ミーアトリスをその冒険者一行から引き離しなさい」


「そ、それは……」


「王命よ、それともできないのかしら?」


「お、王命ですか……」


王命とはその名の通り、王からの勅命である、本来はこのような私的なことに使うことはないのだが一度、王命と言われてしまえば臣下にそれを拒否することはできない。


「そうよ……意味は分かるわよね?」


「しょ、承知いたしました……このバルワー……王命に従いましょう」


「手段は任せるわ、結果だけ見せて頂戴」


「はっ」


「下がっていいわ」


「……はっ」


バルワーはエリステルに一礼すると謁見の間を出ていく。


「王命とは驚きましたぞ」


エリステルに声をかけたのは宰相アルフレッドだ。


「可愛い従姉妹が心配というのは嘘ではないわ、ああでもしjないと娘を連れ戻すことができないでしょう」


「さすがは女王陛下、そこまで臣下のことをお考えとは、お優しいことです」


「……それで冒険者の一行はいまどこにいるの?」


「ほほっ……暗部の報告によると例の冒険者たちはモントロワを脱出後、モントロワ軍と一戦交えこれを退け、その後は東に進路を取りいまはジャンベルデット付近に移動しております」


「モントロワ軍と一戦、それを退けたですって?」


「報告によるとそのようですな、もっともモントロワにはその直前に突然、瘴気溜まりが発生したとの報告もありましたので本来の力が出なかった可能性もございますが」


エリステルはアルフレッドの報告を上の空で聞いている。


「もっともモントロワ領主ヘンドリス殿からは街を脱出した賊を追ったものの逃げられた、という報告しか届いておりませんがの」


ヘンドリスからの報告を信用していないのか薄笑いを浮かべながらアルフレッドは手にした紙の束を捲る。


「賊を国内に置いておくわけにはいかないわね」


「もっともですな」


「だったら国軍を差し向けなさい」


「ふむ……それは王命ですかな?」


「……そうしたいなら、そうしてあげるけど?」


「いやいや、結構でございます……仰せのままにいたしましょう」


「……」


アルフレッドの言葉に若干苛立ちの表情を浮かべるエリステル。


だが、何も言わずに謁見の間を退室した。


エリステルが退室したあとは、宰相アルフレッドが中心となって下された命令を実行することになる。


もっとも今回は軍部の協力も必要になる。


アルフレッドが側に置いてあった鈴をチリンと鳴らすと数名の近中がやってくる。


「軍部のミスト殿との会談を設定してくれるかの」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


スーシアン大講堂。


王族による演説や式典などの際に使われる国が保有する施設だ。


そして軍部と文部が集まる今回のような大人数の会議の際にも使われる。


軍部は最高司令官である元帥であるミスト以下、四将軍であるマテウス、バーン、フランソワ、ガーランドに加え、スーシアンの誇る二十四将が勢揃いしていた。


「おまたせしましたかの」


そう言いながら大講堂に入ってきたのは宰相アルフレッドだ。


「軍部の皆様、ご足労ありがとうございます」


そう言いながら軽く頭を下げるアルフレッド。


「至急の用件として軍部を集めておいて自分は遅れてくるとは、我らを愚弄しているのか!」


大声を上げたのは四将軍の一人バーン。


血気盛んな若手の将軍だ。


「愚弄などとそのような気は全くございません、今回はエリステル女王からの勅命なれば、その準備にいささか手間取ったまで」


アルフレッドの言葉を受けて元帥のミストが手を上げてバーンを制する。


「……ふん、まぁいい……それで女王陛下からの勅命というのは、どういった内容だ……まぁ、軍部の我等を呼ぶのだから大体の察しは付くが」


「はいはい、ご説明いたしましょう……今回のご命令は賊軍の壊滅となります、モントロワを抜け出したおよそ100名ほどの賊軍を軍部に壊滅していただきたい」


「賊軍だと?、そんなもの文部から指示して各地の領主の軍で対処すればよかろう、わざわざ国軍がでるまでもあるまい」


「通常であればそのように対処させていただくのですが、今回は何分、女王陛下のご意向もありますので」


「……」


元帥として国軍に対する全権を守るミストであっても女王からの命令には逆らえない。


「いかがですかな?」


「……分かった、女王陛下の命に従い、国軍で対処しよう」


「おお、快諾いただけて感謝いたしますぞ……では、あとはお任せしても?」


「うむ、編成などはこちらに任せてもらう」


「専門の方に決めていただくのが一番ですな、ではよろしくお願いいたしますぞ」


そう言ってアルフレッドは大講堂を後にする。


「チッ……頭でっかちの連中は面倒事ばかりオレたちに押し付けやがる」


残された軍部の中でこういった場合に最初に口を開くのは大体が四将軍の一人バーンだ。


だが、バーンも軍部に所属する軍人である、いかに納得のできない命令であっても国の上層部、それも王族からの命令であれば実行せざるをえないことは分かっている。


「それで元帥どの、誰を向かわせる?」


「そうだな……」


「たった100人の賊軍ってことだろ、ここにいる将軍たちが出るまでもないと思うが……」


「バーン、君を始めとする四将軍を出すまでもない、とりあえず軍部が動いて片付けたという実績があれば陛下も満足していただけるだろう」


そう言って立ち上がるミスト。


「女王陛下からのご命令を遂行しようというものはおるか?」


二十四将軍に向かってそう問いかけるミスト。


「末席から失礼しますぞ!」


「……君か」


大声を張り上げたのはアズラック将軍だ。


「はっ、このアズラック、身命に変えても女王陛下のご命令を達成してみせましょう、何卒この私めをご指名ください!」


「ふむ……」


ミストは少し思案顔をしたあとに四将軍の面々に目をやる。


だが四将軍のマテウスとフランソワは興味なさそうに目を閉じたままだ。


ガーランドはミストに向けて両手を広げて肩を竦めるだけ。


バーンは自分の出番ではないと考えたのか腕組みをして座っている。


四将軍の実力は間違いないが協調性にかけるところがある、そこが唯一の弱点といっていい。


だが、ミストのそんな気持ちを察するものはいない。


「いかがされました、元帥どの?」


立候補したアズラックが、動きの止まった元帥ミストに声をかける。


「ああいや、なんでもない……分かった、今回は君に任せよう」


「はっ、ありがたき……」


「あー、ちょっといいですか?」


指名をもらったアズラックが嬉しそうに返礼をしようとしているところに割り込んだのは同じ二十四将の一人モードレックだ。


「貴様、なんだ!」


モードレックの態度に声を荒げるアズラック。


「どうした?、モードレック、なにか意見があるのか?」


「いえ、アズラック将軍はまだ二十四将になられてからまだ出陣されたことがないと思うんすよ、補佐とかつけないで大丈夫っすかね、なんなら自分が行ってもいいっすけど」


「ふむ……モードレックの意見ももっともだが、アズラック将軍としてはいかがか?」


「ふん!、このアズラック、二十四将になってからの出陣の機会がなかったのは事実ではありますが、参加の貴族軍と合わせ戦の経験は豊富なれば、モードレック将軍の危惧されているようなことはないと考えております!」


「だそうだ、どうだ?、モードレック」


「あー、自分としては女王陛下のご命令なんで失敗の少ないようにと考えただけなんでアズラック将軍が大丈夫というなら大丈夫なんでしょ」


ミストはこのモードレックという将軍の目の付け所の良さに感心していた。


軽い口調ながら他の将軍らが危惧しているアズラック将軍の問題点を指摘、対応されるなら良し、本人が大丈夫といったということであれば最悪、軍部としては責任逃れができるという状況を作ったのだ。


「分かった、では今回の陛下からのご命令についてはアズラック将軍に任せる、見事に命を果たしてみせよ」


「はっ!」


「では、これにて解散する!、アズラック将軍には命令書を配布するので後ほど私の執務室へ来るように」


ミストの号令で大講堂に集まった軍部は解散する。


急ぎ軍備を整えたアズラック軍は賊軍認定された冒険者一行の後をおいスーシアンから出陣したのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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