0690話 暗躍
時はリュウたちがジャンベルデットの町へ到着したころに遡る。
「……それで信用できるのかしら?」
冷たい声でそう問いかける。
見下ろすように玉座に座っているのは、スーシアンの女王エリステル。
だが、その冷たい目でも眼前にいる者の姿を捉えられない。
ここは謁見の間ではない、奥の院に作られた隠された部屋とも呼ぶべき場所だ。
部屋の明かりは女王の直ぐ側にある燭台にのみ灯されており、部屋の中はほぼ漆黒の闇に包まれている。
そしてそこにいる者も月明かりの位置まで計算した場所に立っており、姿を伺うことができない。
だが、そこにいることは間違いなかった。
噂通りの影だとエリステルは感じていた。
「証明してみせましょう」
嗄れた声でそう答える。
「……そう」
短く答えるとエリステルは一枚の紙を取り出す。
羊皮紙のような紙ではなく、上質な紙だ。
それを軽く巻き、紐で縛ってある。
「ここに貴方達への依頼が書いてある、これを達成して、この私に貴方達を雇う意味があると証明してみせなさい」
そう言い終わると同時に手に持っていた依頼書が消えていた。
そして眼前で開いている音が聞こえる。
「……ほう……」
影が依頼書を確認して短く漏らす。
「できそうかしら?」
「報酬次第かと」
その言葉に小さく頷くエリステル。
こういう裏の組織はできないことは受けないものだ。
弱小組織ならいざ知らず、眼の前にいるのは各国に名を轟かせる組織である。
そんな組織はリスクを取らず、確実にこなせる依頼しか受けない。
もっとも組織が強いだけあって確実にこなせる依頼の幅がとてつもなく大きいのだが。
影の答えはエリステルにとっては満足のいくものだった。
報酬次第ということは依頼自体の達成は可能であるということだ。
あとは彼?らが満足する報酬を用意すればいいだけなのだから。
「報酬については考えてあるわ、それも貴方達が喉から手が出るほど欲しいものよ」
「それはそれは……」
影はそれだけ言って口をつむぐ。
「……まずはお金よ、前金として大金貨を10枚、成功報酬として追加で20枚を用意するわ」
大金貨は1枚で金貨1000枚分の価値を持つ。
一度の依頼としては把握の金額だ。
「それはそれは」
「まだあるわよ」
「……」
「貴方達をこのスーシアン公認にしてあげるわ」
国の公認組織になるというのは裏組織にとって大きな後ろ盾となる。
それがスーシアンほどの大国であればこれからの仕事のやりやすさ、仕事の依頼量などの問題は一切なくなる。
裏組織にとっては破格の報酬と言っていい。
「私が言うのも何ですが、よろしいのですか?」
「それだけ本気ということよ……で、どうなのかしら?」
「こちらは我々を試すための依頼ということでしたが、報酬はいついただけるので?」
「……」
エリステルはチラリと影を見る。
「その手にしている依頼を達成すれば金は全額払うわ、国の公認についてはその後の依頼も成功した後とさせてもらう」
金であれば国にとってはそれほど大きな話ではない。
大金ではあるが母体が大国なのだ、実際には微々たるものだろう。
それに対して公認を行うというのは大きな決断になる。
だが、それであっても悪い話ではない。
「ふむ、承知しました……報酬の内容からしても当然の話しでしょう」
「では受けるということでいいのね」
「もちろんでございます、こちらの依頼、必ず達成し信用も勝ち取ってみせましょう」
そう言うと影はスッと姿を消した。
その行方は高い魔力を持つエリステルにも追うことはできない見事なものだった。
「……」
見計らったように部屋の扉がノックされる。
「……空いてるわ」
その声に答えるように扉が開く。
「我らが女王エリステル様、このような場所でいかがされたのですか?」
そう言いながら部屋に入ってきたのはスーシアンで宰相を務めるアルフレッド、そして近衛大将であるマイアールだ。
「何か用?」
アルフレッドの問いには答えずに苛立ちの声を上げるエリステル。
「エリステル様、すでに夜半ですぞ、このような場所にお一人でおられてはマイアール殿もお困りになられるでしょうぞ」
そう言いながら横にいるマイアールに視線を送る宰相アルフレッド。
「……我は女王陛下が何処におられようとも役目を果たすのみ」
その答えに手を頭に当てながら首をふるアルフレッド。
「それで?」
エリステルは再び短く問う。
「おお、そうでした……実は困ったことが起こっておりましての、エリステル女王陛下のご意見を伺いたく参上した次第でございます」
「それこそこんな夜更けに?」
「おお、そうですな、起きておられれば至急お耳に入れなければと参上した次第でして、幸い起きておられたようで何よりでした」
そう言いながらアルフレッドはゴソゴソと懐から一つの封書を取り出す。
「おおっ、これだ、こちらを」
そう言いながらエリステルに手渡そうとするが、それをマイアールに手で制される。
「おお、そうでしたな……では、お願いできますかの」
国王と女王の身の安全を最優先に考える近衛大将マイアールの行動に理解を示したアルフレッドは封書をマイアールに手渡す。
「封書は慣例に従い先に私の方で確認をさせていただいております、その内容について女王陛下のご意見を伺いたく……」
アルフレッドの言葉を手を上げて制すエリステル。
そのままマイアールから封書を受け取ると中から紙を取り出し、バッと開くと内容に目を向ける。
これまで一度も動じなかったエリステルが封書の内容に驚きの表情を見せる。
「これは本当……なのよね?」
エリステルの言葉に頷くアルフレッド。
「我らの放っておりました暗部からの情報ですので間違いないかと」
「そう……」
エリステルはそれだけ答えて封書をマイアールに向けて差し出す。
「いかが致しましょうかのぉ、エリステル女王陛下」
「どうかしようがあるの?」
「取れる手は多くはありません、しかし手を打てないこともない、といった状況ですな」
「そう……」
アルフレッドの言葉に小さく頷くエリステル。
「スーシアンとしては感知しない、ということにして」
「それは放置ということですかな?」
「……感知しない、よ」
微妙な言い回しを修正するエリステル。
「ほっほっほっ、承知いたしました、ではそのように」
「ええ」
それだけいうとエリステルは手のひらをヒラヒラと振る。
それを受けてアルフレッドとマイアールは一礼して部屋を退出する。
二人が退室したことを確認してふぅと息を吐くエリステル。
「……まったくブラウカ王国も余計なことをしてくれる」
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