0689話 ラウル領への旅路 その4
「うらぁっ!」
フォライーの蹴りが長身を襲う。
だが、その体躯に似つかわしくないほどに身軽にひらりとその攻撃を躱す。
ある程度、予想できていた襲撃ではあったが、だからといって簡単に迎撃できるというわけではない。
すでに戦いが始まって30分近くが経過している。
フォライーは間合いを詰めて蹴りで攻撃を繰り出すものの長身には当たらず躱され続けている。
一方の長身は間合いを取りながら攻撃を繰り出している。
長身が攻撃をする度に手脚に傷を追うフォライー。
だが、その攻撃手段はまだフォライーは掴みきれていない。
投擲に似た攻撃だということは分かっている。
間合いを取り、攻撃をしてくるが詠唱を行っている様子はなく魔法の類ではないのは分かってはいる。
一箇所に留まるのは得策ではないと判断したフォライーは移動しながら攻撃を繰り返していた。
もう一人、腕組をして現れたものと対峙しているのはヒヨシマルだ。
腕組の武器は刀だ。
暗闇での戦いに向いた刀身から柄まですべてが黒く染められたその刀は鍔がない。
それでも体格で勝るヒヨシマルの両手剣を捌きながら、斬撃を繰り出してくる。
「やりやすね!」
そう言いながら繰り出した袈裟斬りを後方に跳んで躱す腕組。
「はぁはぁはぁ……」
息を上げるヒヨシマルに比べ、腕組は息一つ乱れていない。
この戦いの主導権は腕組にあった。
単純に武器の使い方がヒヨシマルより腕組のほうが上手なのだ。
一見、打ち合いをしているように見える攻防においても、腕組はその一撃一撃が重く早い。
両手剣であるが故に重さでは負けていないが早さでは分が悪い。
常に遅れを取る形になっているヒヨシマルは打ち合いのなかで繰り出されてくる予想外の斬撃を弾くのが精一杯であり、そのためにリズムを狂わされていた。
それが息が上がる要因となっているのだ。
セラは既に膝をついて蹲っていた。
左手を右肩に受けた傷に添えるような姿である。
そのしなやかな右腕には一切、力が入っていなかった。
最初に長身と対峙した際に貫かれたのだ。
さらにもう一撃の攻撃が来たところに割って入ったのがヒヨシマルであり、そのまま二人の戦闘が継続しているという状態だった。
3対2という構図で始まりながら、セラが離脱状態であり状況は悪い。
さらにフォライーも次第に怪我が多くなり、ヒヨシマルも劣勢であることが見て取れた。
「マズイな」
「……」
フォライーが漏らした言葉に反応しない長身は戦い方を変えずに距離を取りながら攻撃を繰り出してくる。
「チッ!」
フォライーの蹴りは凄まじい早さである。
だが、長身の身のこなしも同じくらい早い。
さらに距離を取ることが目的でもあるので、攻撃された際は躱すことに専念すればいいだけ有利である。
そのためフォライーの攻撃が長身に当たる気配はまたくなかった。
「はぁはぁはぁ……ふぅ……」
いったん攻撃を止め息を整えるフォライー。
長身は一定の距離を保ちながら様子を伺っていた。
「ジリ貧だがやるしかない!」
フォライーがダッと地面を蹴り、長身との距離を一気に詰める。
そのスピードはこれまで見た中で一番の早さだった。
危険を察知した長身がこれまでより早く後方へと跳ぶ。
その時、ガキィンという音が闇夜に響く。
その音に顔を上げたセラ。
逆袈裟から振り上げた刀を持つ腕組、そしてその正面に対峙シているヒヨシマル。
だが、ヒヨシマルの手には武器である両手剣はなかった。
激しい打ち合いの末、ヒヨシマルの両手剣は腕組の刀に弾かれ、上空に舞っていた。
そのまま無防備に両手を上げた状態になっているヒヨシマル。
そこに上段から刀を振り下ろす腕組。
「ヒヨシマル……」
よろよろと後方に数歩下がったヒヨシマルはそのまま背中から倒れた。
「ぐあっ!」
更に声が響き、そちらに目をやるセラ。
そこには蹴りを繰り出そうとしたフォームのまま四肢を捉えられたフォライーの姿があった。
「くっ……やっと分かったぜ、お前の攻撃手段が……」
雲間から姿を見せた月によってもたらされた明かりがフォライーと対峙する長身を照らす。
その一瞬でけ手元できらりと光るものがあった。
悪魔でもあるフォライーを捉えて離さないのは強靭な糸だ。
その糸でフォライーの全身を捉えたのだ。
「チッ……だがここまでか……」
その言葉に呼応するかのように長身が指先をクイッと動かすとフォライーの全身から血が浮き出す。
全身をぐるぐる巻にした糸がフォライーを締め上げたのだ。
そのまま倒れ込むフォライー。
「……フォライー」
セラの呼びかけに答えないフォライーとヒヨシマル。
前回の襲撃からの傷が癒えていないことに加え、ずっと強いられていた緊張感からくる疲れのせいもあり、フォライーとヒヨシマルは本来の力と程遠い状態だった。
「くっ……二人とも……」
そう漏らしたセラに長身と腕組が迫る。
その歩みはゆっくりだ、残るはすでに手負いであるセラのみ。
余裕の態度である。
「……くっ」
ヨロヨロと立ち上がる途中に苦しそうな声が漏れるセラ。
その様子をみて歩み止める長身と腕組。
二人はセラの様子を見ても声を発しない。
油断しないその立ち振る舞いにセラは生半可な行動では状況を打破できないことを理解した。
立ち上がったセラは長身と腕組の二人に目をやる。
「……」
互いに言葉は発しない。
異様とも思える緊張感が場を包む。
何かあるのか、と考えたのは長身だ、その思いがピクリと身体を動かす。
一方の腕組はすでに立ち上がるだけ精一杯のセラの様子から空元気だと決めつけていた。
静寂が包んだその場にパンという小さな音が響く。
そしてそれを合図にゴォォという轟音を立てて走り出したトロッコ。
「……!」
襲撃者たちはトロッコに目をやるがすでに加速に入っており、瞬く間にその姿を消す。
チラリと互の目を合わせる長身と腕組。
「ふふっ……余裕の態度が裏目に出た……わね」
セラの言葉に鋭い目線を向ける長身と腕組。
だが、実際にトロッコが走り出したのは事実だ。
これまでトロッコの運転をしていたのはヒヨシマルだったが、すでに倒れている。
当然ながらトロッコを走らせることはできない。
セラたちには分かっていることだが、いまトロッコを走らせているのはジョセフだ。
ここ数日はヒヨシマルに変わってトロッコを動かしていたジョセフ。
万が一のときに住民を乗せて離脱するための作戦だ。
トロッコが見えなくなったとろこでセラに向き直す長身と腕組。
立ち上がってセラにとどめを刺そうと二人とも半歩足を踏み出す。
その時に地面が濡れていることに気づいた。
水ではない、感触からもっとヌルッとしたなにか。
その考えが纏まった瞬間に二人はセラから距離を取ろうとする。
だが。
「付き合ってもらうわよ」
セラは右手を二人に向けるとパチンと指を鳴らす。
セラと長身、腕組の足元を満たしていたのは油だ。
長身と腕組の二人がトロッコに目を取られた隙に油スライムであるアブちゃんが周囲一体を油で満たしたのだ。
「……爆裂魔法:破壊≪デストラクション≫」
セラの爆裂魔法が放たれると同時に油にも一気に火が付く。
ドォォンという轟音と共に響く地響き。
それはセラや襲撃者の二人だけでなく周囲も巻き込んだ大爆発を起こしたのだった。
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