0687話 ラウル領への旅路 その2
揺れる空気を感じ取ったフォライーは咄嗟に腕を交差して防御態勢を取る。
その腕に衝撃を感じた瞬間にフォライーの身体は後方に飛ばさた。
「フォライー!」
闇の中に消えるフォライー。
セラの叫び声が暗闇に響く。
「………!」
セラも殺気を感じ、咄嗟に身体を半身にするが脇腹に激痛を感じた。
「くっ!」
脇腹から流れ出る血を手で抑えながら目を凝らすセラ。
そこには真っ黒い装束に身を包んだ者がいた。
顔も頭巾で覆われており、素顔を確認することはできない。
ブォンという空気音を耳にし、顔を上げるセラの眼前には巨大な拳が迫っていた。
間に合わない、そう感じたセラは衝撃を少しでも和らげるために腕でガードしようとする。
一瞬目に入った拳の大きさから、襲ってくる衝撃の大きさを想像したセラは身を固くして構える。
しかし衝撃は数秒待っても襲ってくることはなかった。
顔を上げるセラ。
そこには先ほど吹き飛ばされたフォライーが右足を蹴り上げ、その拳を受け止めていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ……助かったわ」
拳を繰り出していた者はすでに後方に跳び距離を取っていた。
さきほどセラを斬りつけた者と同じく全身を黒い装束で包み、素顔を伺うことはできない。
フォライーとセラは互いの背中を合わせ、襲撃してきた者たちを見る。
セラを斬りつけたのは小柄な者で、逆手に小太刀を握っている。
他方、フォライーの前方にいるのは巨体を装束に包んだ者で、こちらは武器の類を手にしていない。
「一応お聞きしますが、あなた方は何者ですか?」
フィライーは前方にいる巨体に話しかける。
「………」
だが当然のごとく反応はない。
「何者かはわかりませんが敵であることには間違いないようですね……」
「そのようね」
セラも前方にいる小柄な者に目をやりながら答える、こちらも当然、なんの反応も見せていなかった。
「……さてどうしますか?」
「考えるまでもないわ……私たちの目的を達成するだけね」
「なるほど、分かりやすくていいですね!」
フォライーは答えると同時に巨体に向かって距離を詰めるが、巨体もフォライーの動きに合わせて拳を繰り出してくる。
「!」
すんでのところで拳を躱すフォライー。
「図体の割に早い!」
右拳を背面跳びの要領でヒラリと躱すと、そのまま両手をつき逆立ちのまま身体を捻って蹴りを繰り出すフォライー。
その蹴りは巨体の腹部に決まる、がダメージを受けた様子はなかった。
「チッ!、耐久力も抜群ということか!」
蹴りを受け止めた巨体は右、左と続けざまに拳を繰り出してくる。
それを身体を捻り、躱していくフォライー。
その拳が生み出す拳圧で地面が抉られていく。
「なんという威力だ!」
拳の威力を感じ取ったフォライーは受け止めるという選択肢を外し、しっかりと見極めて攻撃を躱していく。
隙をつき反撃を試みるが、体格差が大きすぎるためか巨体には大したダメージになっていなかった。
一撃必殺の拳を繰り出してくる巨体をそれを躱し続けるフォライー。
反撃でダメージを与えられない以上、フォライーには現状、拳を躱すという方法しか選択肢がなかった。
一方、セラと対峙しているのは小柄な者。
「……早い」
セラが発動する爆裂魔法によって、激しい爆発音とともに地面から土埃が舞い上がる。
水平にあげたしなやかな両手、その指先がパチンを鳴る度に繰り出されるセラの魔法に対し、小柄な者は途轍もない身のこなしで躱していく。
セラの爆発の威力を読み切ったような動きを見せる小柄な者の動きにより二人の距離は次第に縮まっていた。
爆発の合間をつき、一気に距離を詰める小柄な者に対し、セラは進行方法に爆発を起こし、その進路を阻む。
そのセラの動きを嫌って再び距離を取る小柄な者。
互いに有効打がないまま二人の対峙は続いていた。
二組の攻防は、そこから十数分に渡り続く。
フォライーと巨体な者。
セラと小柄な者。
いずれも優勢なのは黒装束側だ。
フォライーとセラの二人もそれを感じ取ったのか、一旦互いの相手から距離を取る。
再び背中合わせになったフォライーとセラ。
眼前の黒装束の二人は悠然と構えている。
「まさかこれほどの者たちに襲撃を受けるとは!」
「そうね……少し予想外の展開ね」
「そちらはどうですか?」
「ダメね……魔法が当たらないわ、あなたは?」
「ダメですね、全然ダメージが入りません」
「そう……」
ここまでの戦いから再度、攻防を繰り返したところで結果は明白だ。
しかし互いの相手を入れ替えることもできない。
巨体の拳を躱す体術をセラは持ち合わせていないし、小柄な者は明らかにフォライーより早い。
攻撃を受けずにここまで戦えたのは、いまの組み合わせでの戦いであったからだ。
「どうしますか?」
「答えは変わらないわ、私たちの目的を達成するだけ、よ」
「そうですね」
フォライーは短く答えると再び巨体へと向かっていく。
セラはフォライーの行動に合わせ駆け出す。
背中わせに立っていたフォライーとセラ、それぞれの前方にいる黒装束の二人。
四人が直線上に並ぶ形になっていたが、セラの動きはその直線上から抜け出すように駆けていた。
それはまるで眼前の小柄な者から逃げ出すような動きだ。
ただ、この動きは予想外だったのか慌ててセラを追うように動く小柄な者。
その動きに合わせて進路上に爆発を起こし、距離を保とうとするセラ。
しかし動きは明らかに小柄な者のほうが上、じわじわと距離は縮まっていく。
セラが走った距離はおそよ100メートルほど。
ただ、小柄な者との距離は10メートルもなかった。
セラを捉えられる距離と踏んだのだろう、小柄な者は一気に速度をあげてセラに迫る。
振り向いたセラに迫る小柄な者の小太刀、それは急所である首筋を的確に狙っていた。
「そろそろかしら」
セラがそう呟くと同時に轟音が響く。
あまりの爆音に攻撃を止め爆音が響く方向に目をやる小柄な者。
その爆音は巨体な者の後方から響いていた。
同じく爆音に気づいた巨体な者も音の正体を探るために後方に目をやる。
くしくも黒装束の者たちは予想外の爆音に一瞬、互いの相手から目を逸らしてしまったのだ。
そしてその瞬間を見逃すセラとフォライーではなかった。
「爆裂魔法:破壊≪デストラクション≫」
それまではとは違い小柄な者を標的にしたセラの爆裂魔法が炸裂する。
「うぉりぁっ!」
同じくフォライーは渾身の力を込めて巨体な者の股間を蹴り上げた。
「「……!!」」
自分たちの失敗を悟ったときには既に時遅し。
小柄な者は吹っ飛ばされ、巨体な者は膝から崩れ落ちた。
そこに爆音をたててやってくるトロッコ。
「早く、乗ってくだせぇ!」
ヒヨシマルがトロッコからセラとフォライーに声を掛ける。
その呼びかけの勢いに何かを感じ取った二人は倒れた黒装束に目をやることなくトロッコに乗り込む。
そして走り出すトロッコ、その凄まじい速度で一気に距離を稼ぐ。
「……新手がいやした」
「そう……」
短く答えたセラはトロッコに目をやる。
そこには一緒に移動していた者たちも全員乗り込んでいた。
ヒヨシマルが無音の魔法符をトロッコに貼り付けると、それまで爆音が嘘のように消える。
テントの回収はできなかったが、いまはこの場を離れることを優先し、トロッコは暗闇の中を駆け抜けていった。
お読みいただきありがとうございます。
もし気に入られましたら、
ブックマーク登録や★評価、いいねを頂けると
モチベーションに繋がります!
よろしくお願いします!!




