0686話 ラウル領への旅路 その1
広大な大地の中、風を切って進むトロッコ台車。
そのトロッコに乗っているのはセラ、フォライー、ジョセフ、ヒヨシマル、そしてモントロワから同行を希望した者たちのうち10名だ。
スーとヒーとアブちゃん、コダマの水・火・油のスライムと木の精霊であるコダマが協力して作成したレールの上を、トロッコはまさに風きって走っていた。
すでにリュウたちと分かれて3週間がたち、当初の見立てではあと10日もすればラウル領に着くはずだ。
もっとも走り始めた最初は皆が慣れていないこともある今よりも速度は落としていた。その分。到着までの時間がずれることも考えられた。
「そう少しかかるかしら?」
「仰るとおりです、しかしながら、かなり近づいてることは間違いございません、この速度であれば後10日ほどと言ったところでしょうか」
「そう」
長い髪を手で抑えながら答えるセラ。
先行組の行程は間違いなく順調だった。
トロッコに慣れ始めたころから、止まるのは睡眠以外では食事のときくらいで十分で、その食事を準備している合間に食料の調達をセラとフォライーが行うことで更に効率化できていたのだ。
ヒヨシマルはスーらに適切に指示を送り、トロッコは更に大地を駆け抜ける。
そして夜。野営の準備を終えると、殆どのものが眠りにつく。
見張りをしているのはフォライー。本来、悪魔に睡眠は必要ない。
しかし瘴気の薄い場所では活動に制限がかかるため悪魔とて睡眠を取る必要がある、だがその時間はヒトらに比べると短くてすむ。
そのためフォライーはこの移動期間中の夜間の見張りを担当していたのだ。
「……お客さんかな」
そう呟くとフォライーはさっと気配を消し、近づいてくるものに忍び寄る。
襲ってくるのは、この辺りを生息地にしている魔獣クマ、魔獣トカゲ、魔獣ワームなどだ。
餌がやってきたと思って集まってきたのだろうが、フォライーの敵ではない。
「弱いね」
音もなくその魔獣たちを倒していくフォライー。
ついでに獣も倒して食料も確保していく。
「さてさて、ここまでは順調……このあとはどうなるか」
そう呟いたフォライーが魔獣が残した魂石や獣の肉などの素材を集めて戻ると3人ほどのヒトが起きていた。
「どうしたんだい?」
「魔獣が襲ってきたんですかい?」
「ああ、でも全部倒したから心配ないよ」
そう言いながら手にした肉を持ち上げて見せる。
「それに明日の食料も手に入った」
「……いつもありがとうございます」
起きてきていたうちの一人である、女性が頭を下げながら言う。
「お礼なんていらないよ、ボクはボクの役目を果たしているだけさ」
「それでもお礼は言わせてください、モントロワを出るという決断をしてからチーム:龍翔<ドラゴニア>の皆様にはお世話になりっぱしですので」
「ただで世話しているわけじゃないさ、それに食事なんかはキミたちが作ってくれるじゃない、持ちつ持たれつだよ」
「そう言っていtだけると……」
「さぁ、もう寝たほうがいいよ、明日も朝からトロッコで移動だからね」
「分かりました……あのこれ」
そう言って女性が差し出してきたのはコップに入った水だ。
「せめて喉を潤してください」
「ありがとう、ちょうど欲しかったところだよ」
そう言って笑顔でコップを受け取ると一気に飲み干すフォライー。
「ふぅ、生き返ったよ」
「あっ、片付けはこちらでしておきます」
「そう?、ありがとう」
フォライーからコップを受け取ると女性と他の2名は何度も頭を下げながら自分たちのテントに戻っていった。
その姿を見守ってからまた所定の位置に立ち、見張りを続けるフォライー。
「……」
少し前までは魔王領にいて戦い明け暮れた日々だった。
他の魔王勢力や国との戦いは主であるベルゼバブのために戦ったが、それ以外のほとんどの戦いは自分のためだった。
強さをみせ成り上がっていく。それが悪魔の生き方だ。
他人のために戦うなんてありえない、そう思っていた。
だが、上官であるサルガタナスとともに魔大陸を出た後は、それまでの価値観が激変することばかりが起きている。
この見張りにも先ほどの戦いにも自分が得るものは大きくない。
しかし、礼を言うためだけで起きていた者たちの顔を思い浮かべると、胸に熱いものを感じる。
この不思議な感覚に少し戸惑うフォライー。
「これがベルお嬢様を引き付けて離さない感情なのか」
主である魔王ベルゼバブの娘であるベルは、リュウという冒険者に夢中のようで、その流れで自分たちもチーム:龍翔<ドラゴニア>の一員となり、ここにいる。
最初は命令だからという思いでいたが今は少し違っていた。
今もし、魔王から帰還命令があったらどうするか。
以前なら何を捨ててでも駆けつけていただろう。
しかし今は……。
「まぁ、その時がきたら考えることにするか」
それだけ言うとフォライーは再び漆黒に包まれた周囲に目を向ける。
そんなフォライーに近づいてくる気配が一つ。
「……起きてらしたんですか?」
「ええ」
暗闇から姿を見せたのはセラだ。
夜間の見張りはフォライーが担当することになっているが魔獣退治のためにキャンプを離れるときはセラがその薬を引き継いでいる。
今夜はそれほど距離も離れなかったのセラには声をかけていなかったがフォライーの行動を悟り、起きてきていたようだ。
「起こすつもりはなかったのですが」
「お気遣いありがとう、私が勝手に起きただけよ」
サラはそう言って焚き火を挟んでフォライーの正面に座る。
「このあたりの魔獣に大したやつはいません、僕たちふたりだと過剰戦力ですよ」
「そうね……でもたまにはいいんじゃないかしら」
「……まぁ、そうですね」
チーム:龍翔<ドラゴニア>がラウルの領地に向かうと決めたあとトロッコで先行できると分かった際にラウルが選んだ護衛役がなぜセラとフォライーだったのかは聞かされていない。
特にそれまで接点らしい接点がなかったセラとフォライー。
直前で仲間になったヒヨシマルも含め、それまで共闘も何もなかった。
もっともフォライーとセラは敵として戦った経験はあるのだが。
「しかし、よもやあなたとこうして一緒にいることになるとは考えもしませんでした」
「そうね、あなたも私が目覚めたところにいたものね、縁とは不思議ね」
「そうですね」
「あなたは魔王ベルゼバブの部下にあたるのよね?」
「形式上はそうなります」
「形式上?」
「ええ、悪魔は強いものが正義ですからね、僕もいまは魔王様の下についていますがいずれどうなるかはわかりませんよ」
「ふふっ、そうね、フォライーが魔王ベルゼバブを倒して新たな魔王になる日を楽しみにしているわ」
「魔王様とは限りません、他の魔王を倒して僕が成り代わる可能性だってありますからね」
「ああ、そっちの可能性もあるのね、八柱もいるんですもの、誰か一人くらい倒せても不思議はないわ」
「八?……七ではなくてですか?」
「あら、いまは七柱なのね」
「……いま仰った話しからすると昔は違った、ということですね」
フォライーの言葉にセラはニコリと笑う。
「そうね……2000年前は八柱だったわ……魔王から陥落したのは、いったいどの柱なのかしら」
「魔王は八柱だったのか……そんな話し聞いたことありません」
「そうでしょうね、陥落した魔王もそうだけど、ほかも魔王にしても魔王が減らせるって事実は避けたいでしょうしね」
理由はわからないが八柱だった魔王が七柱になった。
勇者に倒されたのか、それとも他の魔王に倒されたのか。
いずれにせよ不可侵と思われた魔大陸に鎮座する魔王の数が減るというのは魔王自身にとって大きな問題だろう。
「それにしても……!」
フォライーがなにか言いかけたところでセラはスッと手を挙げ、手のひらをフォライーに向けた。
話すのを止めろという合図だ。
そして言われるまでもなくフォライーも言葉を止めていた。
「何か来る!」
フォライーは立ち上がると焚き火に砂をかけて火を消す。
瞬間、辺りは月明かりだけの闇の包まれた。
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