0685話 ジャンベルデッドの町でのクエスト その31
階段を駆け下り、ようやく1階へとたどり着いた俺とリズ。
正面に見える大広間に人の気配を感じ、そのままそちらへと向い、扉を開けた。
そこには見知った仲間たちと、数名知らない人物がいたが一様にこちらに注目しているようだった。
中央にいるのはラウル。
そしてラウルの背後に迫るナイフを逆手にもった女。
だが誰もその事に気づいていない。
「ラウル!」
俺の声が響くなか、女が手にしたナイフがラウルの胸を貫くとラウルはゆっくりと膝を付き、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
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そのイメージが頭に浮かんだ。
そう、久しぶりの『龍視 LEVEL.01 未来視』だ。
「龍星剣術奥義:縮地」
間に合わない、とっさに俺は縮地で一気に距離を詰めるとラウルに襲いかかろうとしている女の横に移動する。
驚いたのは女の方だ、突然離れた場所にいた俺がすぐ横にまで移動してきたのだから無理もない。
「状況は分からないが止めさせてもらう」
俺はそう言うと女の肩に鞘をつけたままの刀を振り下ろす。
ベキッという鈍い音が響き、女の鎖骨が砕ける。
「ぐぅぅ!」
その衝撃でナイフを落とすとそのまま膝をつく女、そして俺はラウルの前に立ちはだかった。
この間、1秒もかかっていない。
「……なっ!」
「ちっ、油断した!」
ラウルが驚きの声をあげ、ガイルが悔しそうな声とともに大剣を構えた。
「奥方様、何を!」
俺の知らない男が声を上げる、格好からすると、恐らくこの屋敷の執事だろう。
「俺が大広間に入ると同時にこの女がラウルを襲おうとしているのが視えた、事情は分からないが止めさせてもらった」
「あ、ありがとうございますリュウ……助かりました」
「いや」
女は俺に砕かれた肩を押さえながら立ち上がる。
「お前は?」
「……私はこの屋敷の主人オルレッジの妻……アメイル」
「そのアメイルがなぜラウルを襲う?」
俺とアメイルと名乗った女が話している間にガイルやゴクウ、ベル、イヴ、リサらが周囲を取り囲むように動く。
「……ふん、せっかくのチャンスだったがここまでだね……」
そいうとアメイルは俺達を見てニヤリと笑う。
「ふっ、逃げられると思っているのか」
「あはははっ……」
ガイルの言葉に直接は答えず、アメイルはただ堪えたような笑いを見せる。
「逃げる……そいつが無理なことは分かっているよ、だからこうするまでさ」
アメリヤは自分の奥歯を噛みしめるような仕草をするとごふっと音を立て大量の吐血をする。
「これは!」
「……あのときの傭兵と同じだな」
ガイルが言う傭兵というのはファルロッシを出てスーシアンに向かっている途中にドワーフであるルルアやドゥインを襲っていた傭兵たちのことだ。
フォルカがいうにはレギンダン王国にいる傭兵と同じ格好だったが、彼らも俺達に負けるとそのまま服毒して死を選んだ。
倒れたアメリヤの首筋に指を当てたアスタが俺達に向かって首を振る。
「ちっ……どこかの手のものだってことか」
「カルフフロン、これは?」
「……残念ながら私にも何がなにやらわかりません、少なくとも私が知っている奥方はとてもこんなことをするような方ではなく……むしろ虫も殺さないような方でした」
カルフロンと呼ばれた執事風の男がラウルの問いに答える。
「そうですか……ともかくナタリーに来てもらい事情を説明しておきましょう、誰か表にいるナタリーを呼んできてくれませんか」
「ナタリー嬢でしたらこちらに」
ラウルの呼びかけに応えるようにトリスタンがナタリーを連れて大広間に入ってきた。
「ありがとうございますトリスタン……ナタリー少しいいですか、説明したい事情があります」
「分かりました……この館でのクエストは予想以上に混乱を極めたようです……ともかく一度ギルドへ戻りましょう、マスターも交えて話しを伺います」
「分かりました」
「館のことは私が片付けます、それと奥方のご遺体もこの館で安置させていただきます……ああ、そうだ、私はオルレッジ様の執事であり、こちらにいるのが当主のオルレッジ、横で眠っているのがその御子息、それと奥方です」
カルフロンが有無を言わさぬ態度でそういうとナタリーはただ頷いた。
「ああ、そうだ、私はオルレッジ様の執事であり、こちらにいるのが当主のオルレッジ、横で眠っているのがその御子息、それと奥方です、3人は無事にこちらの大広間まで避難することができました、チーム:龍翔<ドラゴニア>の皆様のおかげでね、最後に奥方は何を思ったのか突然そこのラウル殿に襲いかかり失敗して死にました、自らね」
カルフロンはそこまでいうとオルレッジとその家族を抱きかかえ大広間を出ていく。俺達は勝手に帰れということだろう。
「いつも通りですが何人かでギルドへ向かいましょう……リュウとガイルは来てください、それとアーガスと……ウェルスもお願いできますか」
俺を含め、ラウルに名を喚ばれたものが頷く、ウェルスというのはこの少年のことだろう。
「私も行くわよ」
そういったのはリズだ。
「僕も行くよ~、君たちとは別口でここに来てたしね~」
こう言ったのは長身のエルフの男だ。別口でここに来てギルドへ行くということは冒険者なのだろう。
「……分かりました、なぜリズ様がここにいるのかは後で聞きます」
オルレッジの館を出た俺達はギルド組と帰還組に分かれる。
真夜中に始まったこのクエストだったがギルドにつく頃には白々と夜が明け始めていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「なるほど」
俺達のの報告をきいたギルドマスター:アンドレイの言葉だ。
「……しかしオルレッジ卿からのクエスト依頼が実はオルレッジ卿自身が仕組んだことだったとは……」
「それも自分のところの兵士を殺すため、だなんて……それに悪魔憑依ですか」
「ええ、悪魔憑依自体はここにいるウェルスが特殊な方法で解決をしましたのでオルレッジ卿自身は無事です」
「特殊な方法ね……」
「ええ」
アンドレイの言葉にラウルは同意の言葉だけでそれ以上、応えようとはしなかった。
「あなたは冒険者よね、たしかオルレッジ様の館でのクエストに参加した……」
ナタリーはウェルスに尋ねる。
「はい、そのとおりですがクエスト内容は随分違っていたようでした」
「そう、ごめんなさいね」
「ごほん……まず話を整理しようか……まずチーム:龍翔<ドラゴニア>に依頼したクエストだが領主であるオルレッジ卿とその家族の身の安全を守ること、だったな」
「ええ、そのクエストに関してはオルレッジ様の執事であるカルフロンどのがクエスト成功を証明しており、それを私が確認しています」
「ならそれについては問題ない、チーム:龍翔<ドラゴニア>への緊急クエストは無事に成功ということだ」
アンドレイの言葉に俺達は頷いて返す。
「で、そのオルレッジ卿の奥方に襲われたというのは?」
「それについては私達もよく分かっていません、意識を取り戻したオルレッジ卿の奥方アメリヤ様が突然私に襲いかかってきて返り討ちにあい、そのまま服毒して亡くなったのです」
「しかしなぁ」
「お気持ちは分かりますが事実は事実なんです」
「ふーむ……しかしあのアメリヤ様が……」
「……」
アンドレイの言葉にナタリーも何も答えない。
カルフロンが驚いていたとおり、アメリヤを知る者の印象はとてもナイフを持って襲いかかるというものではないのだろう。
「チーム:龍翔<ドラゴニア>の皆さまを疑うわけではないのですがアメリヤ様を知る私達からするとにわかに信じがたい話しなのです、ですがもちろん執事のカルフロン様が仰っていたことも聞いています……そのごめんなさい」
ナタリーとしても混乱中なのだろう。
俺達にアメリヤがラウルを襲う理由はわかるはずもない、そもそもアメリヤとは会ったことも話したこともないからだ。
だが、アメリヤをよく知る者たちもラウルを襲う理由については思いつかないのだろう。
「まぁ、カルフロン殿の証言もあるいる以上、ギルドとしてはこれ以上アメリヤ様のことについてとやかくいうつもりはないよ」
「ありがとうございます」
「マキシムさんにも報酬はありますのでご心配なく」
ナタリーは同席していた男に向かって言った。男の名前はマキシムというのだろう。
「助かるよ~、なにせ僕のかわいい人形たちが派手に壊れちゃったもんでね~」
ラウルから聞いた話しではゴクウやイヴらと激しい戦闘を繰り広げたらしい。
俺が見た戦闘跡はその時のものだろう。
「魔法人形に関して、チーム:龍翔<ドラゴニア>からの保障は必要ですか?」
「必要ないよ~、お互い死力をつくした結果なんでね~」
ラウルの質問に笑顔で答えるマキシム。
「わかりました」
「ウェルスさんには……」
「僕は先払いで報酬をいただいているのでギルドからいただくことはできません」
「そう言っていただけると助かります、申し訳ないのですがウェルスさんがオルレッジ卿の館に向かわれたのはギルドからのクエストではありませんでしたのでお支払いする報酬がないのです」
「ええ、そうだと思います」
「すみません」
「いえ、当然のことです」
同席していたマキシム、ウェルスとの話しもついたようだ。後は……。
「ところで……」
アンドレイは視線をリズに向ける。
「どうしてリズ様がリュウ殿たちと一緒にいるんですか?」
「あー……ちょっとした事情があって……ね」
4階の窓をぶち破って館に登場したのは、ちょっとした事情らしい。
「リズ殿がチーム:龍翔<ドラゴニア>の一員というわけではありませんよね?」
アンドレイが確認するように俺達の顔を見る。
「……」
ラウルは俺の顔を見る。リズを作れてきたのは俺だ、俺が答えるべきなんだろう。
「リズは俺達に礼をいうために来たと言っていた、特にオルレッジ……卿のクエストについて手を出したりしていない」
「そうね……たまたま姿を見かけたので勝手に着いていった、そしたら異常事態が発生しているようだったのでオルレッジ卿の手助けになればと館に入った、そうしたらリュウたちに会ったというわけよ」
「町を出たと聞いていていたが?」
「父はもう町をでています、私も今日、町を出ていくつもりでした」
アンドレイは、はぁと一つ息を吐く。
「そうか、まぁ、深くは聞かないでおこう……ともかく今回依頼したクエストは無事に達成ということで変わりない、報酬を受け取ったら帰ってもらって構わない」
「マスター、アメリア様の件はいかがいたしますか?」
「オルレッジ卿が意識を取り戻したあとに話しをするしかないだろうな、カルフロン殿の証言も重要になる、今日は忙しくなるぞ」
アンドレイの言葉にナタリーは頷く。
「リュウ、私達はこれでお暇しましょうか」
「そうだな」
「お疲れだった、チーム:龍翔<ドラゴニア>の諸君、もう町を出るのか?」
「ああ、本当は今日の予定だったが明日以降に延期になるがな」
「ふむ、こちらからの緊急クエストが原因だろう、足止めする形になって申し訳ない」
「気にするな、受けたのはこちらだしな」
「そう言ってもらえると助かる、ああ、また引き止めて悪かったな」
「いや」
この会話を最後に俺達はマスターの部屋を出た。
そのまま報酬を受け取るとギルドを出て、そのまま宿舎にしている洋館への戻ったのだ。
「……ところでお前は?」
「僕はマキシム、これからよろしくね~、リーダー」
「いつのまにそんな話しになったんだ」
「あれ~、聞いていない~?」
「館の中では別行動だったからな」
「そっか~、僕も君たちの仲間に加えてほしいんだ~」
「なぜ?」
「君たちに興味がある、ってのが理由だよ~」
「興味ねぇ」
「リュウ、マキシムには後で私が話しをしておきましょう」
「ああ、頼む」
「マキシムも私の話を聞いてから仲間になるか再度検討して答えを出してください」
「分かった~」
「ラウルさんにはお伝えしましたが僕は皆さんといっしょに行かせてもらいたいと思っています……どうでしょうか?」
ウェルスが俺を見て言う。
「俺達の仲間には魔族も多いぞ、それでもいいのか?」
「もちろんです、私は祓魔士ですが、悪魔の全部が全部、悪い存在だとは思っていません」
「人を見て判断するということか?」
「その通りです、そして僕はリュウさんたちと一緒に行きたいと思いました」
「分かった、詳しい話しはラウルから聞いてくれるか」
「はい」
ウェルスは軽く頭を下げるとラウルの元へと走っていった。
「ねぇ、リュウ」
俺に声をかけてきたのは一人残ったリズだ。
「どうした?」
「アイツはどうなったのかな?」
「アイツ……?、ああ、アイツか」
アイツとは館の中で戦った男で町の不良グループの一員だった男だ。
ボスの粛清にあいながらも一人生き残ったその男は、自分たちのボスであるヴェイセルを殺し、そのまま意識を失った。
マルタンに頼んでミリル先生のところに運んでもらったが、その後のことは分からない。
「知り合いの医者に診てもらっているとは思うが……」
「そう、リュウの知り合いなら大丈夫ね」
「少なくとも怪我のことなら心配はいらないはずだ、もっともその前に死んでしまえばどうしようもないだろうが」
「そうなったら、それが彼の運命だったってことよ」
「……リズは町を出てどこへ行くんだ?」
「アテはないわ、正直にいうとね」
事実だろう。父であるアンロンコッド伯爵も人里離れたところでひっそりと、といっていた。
「そうか」
「リュウたちはラウル卿の領地へ行くんだったわね、まだまだかかると思うけど気をつけてね」
「ああ、リズも……リズたちも」
「ありがとう、これは今の言葉に対してね……で、ありがとう……こっちは助けてもらったりしたお礼よ」
「ああ」
「キチンとお礼が言えてもう思い残すことはないわ、またどこかで会ったら、その時は……」
「どうした?」
「ううん、なんでもない……じゃあね、リュウ、アイリスさんにもよろしく」
「ああ」
なにか言いかけたリズの背中を見送る。
暫く先ではグラシャンがリズを待っているのが見えた。昨日で雇用関係は終わったはずだが、それでもグラシャンはリズやアンロンコッド伯爵の側を離れないのだろう。
「さぁ、帰りましょうリュウ!」
ラウルの声が聞こえる。
「ああ!」
こうして俺達はオルレッジの館で行われたクエストを終え、帰路についたのだった。
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