0684話 ジャンベルデッドの町でのクエスト その30
「すっかり片付いていますね」
ラウルたちが戻った大広間には座り込んでいるエリスとハインの姿があった。
あれだけ大量にいた魔物はすっかり姿を消し、瘴気溜まりもすでに消失していた。
「おつかれー、ハイン、エリス!」
クレイジーバーニーが二人の周りをピョンピョンと飛び回っている。
「ほんとーに疲れた」
「ああ、ほんとに……」
ハインとエリスは息も絶え絶えである、ただし怪我はしていないようだ。
召喚によって手数を増やし、『剣聖』のエリスもいてのこの状況。
やはり瘴気溜まりが巻き起こす影響は途轍もないものがある。
「二人とも、よく無事でいてくれました」
ラウルの言葉に二人は軽く手だけを上げて答える。
「極小とはいえ瘴気溜まりが消滅するまで戦い続けたのですか……」
この状況に驚きの声を上げたのはカルフロンだ。
「すげぇだろ、オレたちの仲間はよ」
自慢気に語るアーガス。
別館からベルたち、二階からアイリーンとハンナが大広間にやってくる。
「ラウル……リュウは上階に行くと言っていた、二階には領主たちの姿はなかったぞ……って見つけたのか」
アイリーンはアーガスが抱えている領主の家族と思しきものの姿を見てそういう。
「ええ……探し人もこちらに」
ラウルの横に立つ執事風の男が片手で抱えている格好になっているが、鎖で拘束されているのが領主オルレッジなのだろう。
そこに三階からガイル、リサ、ニコルが大広間にやってくる。
「よぉ、みんな無事か」
「当たり前だ」
ガイルの問いにベルが代表して答える。
「そいつは?」
ガイルがベルたちの後ろで静かに立つ少年を見る。
「コイツはウェルスだ!、ウェルスはスゴイんだぞ、なんせあのっ!」
ベルが言いかけたところで、けたたましい音が聞こえてくる。
「なんだ!」
ガイルは大剣を手に音がする方に向かう。
「うぉぉぉぉ!」
飛び込んできたのは数体の魔法人形とそれに抱えられているゴクウらだ。
「到着~」
エルフの男が軽い調子でそういうと魔法人形は動きを止め、四階に向かっていたゴクウたちを降ろす。
「よぉ、その様子じゃ苦労したようだな」
「……うるせぇ」
ガイルの差し出した手を取り、立ち上がるゴクウ。
イヴもエイルも重症だが、命に別状はない。
「こいつは?」
「どうも、お初にお目にかかります、冒険者のマキシムと申します、今回はとあるクエストでこちらの館に来ておりました」
「内容はともかくオレ様たちはマキシムと戦ったんだよ、んでこの有り様だ」
「ほう……」
ガイルはゴクウの言葉を受け、目をマキシムを見る。
「僕自身に戦闘力はありません~、戦ったのは僕の作ったこの子達さ~」
そう言って魔法人形たちに手のひらを向けて胸を張る。
「ふっ、こいつらが……とんでもないな」
「ふふふ、僕の自慢の魔法人形ですから~」
「一回手合わせ願いたいもんだな」
「ご勘弁を~、正面から戦って皆さんと勝負になるなんて思っていませんよ~」
マキシムの言葉に苦笑いを浮かべながら、ガイルはベルに向き直す。
「すまん、話しが途中だったな」
「んっ?……いや、構わない」
ベルもマキシムの魔法人形に興味シンシンだ。
「あわわ、ちょっと、剣でツンツンするのはお止めください~」
ベルの行動を見て、慌てて止めに行くマキシム。
「リュウはまだですね」
ラウルが皆を見回しながら言う。
「上に向かっていったってことはオレ様たちと行き違いになったか」
「だろうな……先に話しを進めるか……ラウル、頼めるか」
「そうですね、まずクエストの目的でした領主オルレッジ様とそのご家族を見つけ、助け出すことができました」
「ふっ、クエストは成功だな」
ガイルの言葉にラウルは頷く。
「もちろんギルドの確認はいりますが、ここにる執事殿が、この方が領主であることを証明してくれています」
ラウルの言葉を受けて、カルフロンは一礼する。
「なら問題ないな……いや」
ガイルは言葉を切ってオルレッジを見る。
「悪魔憑依……か」
「ええ……オルレッジ殿は悪魔憑依の状態にあります、いまはこうして抑えられていますが……」
ガイルはオルレッジからラウルに目を向ける。
「……理由は聞かないでおく」
「助かります……クエストの目的は果たしましたが、まずはこの悪魔憑依をどうにかする必要があります、そこでリュウの力を借りられないかと思いまして」
「あー、なるほどな、確かにリュウは悪魔憑依を解いたことがあったな」
「ええ、勿論あの時とは状況が違うことは理解していますが」
「そうだな、実績はあるがすぐには難しいかもしれねぇな」
「おい、悪魔憑依ならウェルスが解除できるぞ」
ラウルとガイルの会話に入ってきたのはベルだ。
「どういうことですか、ベル?」
「我らが行った別館にはソイツと同じように悪魔憑依されたやつが大量にいたんだ。それを解除したのがウェルスなんだ」
ベルの言葉に横で頷いているのはアスタだ。
「そんなことが……」
ラウルの呟きに呼応するように前に出てきたのは等のウェルスだ。
「初めまして、僕がウェルスです」
サッと腰を折って頭を下げるウェルス。
「ベルの話しですと悪魔憑依を解除できるとのことですが?」
ラウルが尋ねる。
「ええ、僕は……払魔師なんです」
ウェルスの言葉にラウルは驚きを隠せない。
いやラウルだけはなく、この場にいた全員が同じ感想だ。
「失礼しました、払魔師とは……」
「驚かれるのも仕方ありません……世間的には払魔師は……滅びたということになっていますので」
ウェルスが言ったとおり、払魔師はすでにこの世に存在しないと言われている。
悪魔にとって天敵ともいえる払魔師。
その能力は名前の通り、悪魔を払う。
天敵の名に相応しく払魔師自身のレベルにもよるが低位のものでも悪魔に対して有効な結界や攻撃手段を保持していると言われている。
そのような存在がいれば今ほど悪魔が跋扈していることもなかっただろう。
「生き残り……というわけでもなさそうですね」
「ええ、払魔師は今も存在しています、最も数は多くはありませんが……」
「そうですか……貴方がここにいるのはどういった理由ですか?」
「……僕は皆さんと敵対するために来たのではありません……」
ウェルスはチラッとベルたちに目をやる。
ラウルの質問の意図を理解しているようだ。
「ただの偶然なのです……」
「偶然ですか」
「はい……町に着いて冒険者ギルドに顔出した際にたまたまこちらの館での護衛任務の募集を見かけまして、それで」
「そうですか」
ラウルはそう答えながら目だけでアスタを見る。
アスタはラウルと目が合ったその瞬間、目だけを少しすぼめた。
問題ないという意味だろう。
アスタの合図をそう理解したラウルはウェルスに目を向ける。
「払魔師であることには驚きましたが、ともかく仲間を助けていただいてありがとうございます」
「いえ」
「……それで申し訳ないですが貴方のそのお力を貸していただきたいのですが」
「……領主様ですね」
「ええ」
「分かりました」
ウェルスはオルレッジの前まで歩み出ると目を瞑り、小さな声で何やら言葉を紡いでいく。
その声に反応するように小さな魔法陣がウェルスの眼前に現れる。
そこから一筋の光がオルレッジへと伸びていく。
弱く見えるその光がオルレッジに触れたその瞬間、カッと瞬くと同時に一体の悪魔が姿を現した。
オルレッジに憑依していた上級悪魔は姿を見せると同時に何が起こったのかを理解したのかすぐに魔法を放とうとしてくる。
「……!?」
しかし、その魔法が放たれることはなかった、ベルの剣が悪魔の胸を貫き、ガイルの大剣が悪魔の首を斬り飛ばしたからだ。
「……凄まじいですね、上級悪魔をこんなにアッサリと」
「ええ、頼もしい仲間です……しかしあなたの能力もすごいですねウェルス……噂以上ですね、払魔師は」
「この能力のせいで隠れ住む必要がありましたし、恨んだこともありました……しかし今は人の役に立てることのほうが嬉しいです」
「ふむ……払魔師どののおかげで主であるオルレッジも無事のようです」
カルフロンがオルレッジを支えながら言う、オルレッジ自身の意識はまだ戻っていないようだが息をしているのはラウルから見てもわかった。
「ふっ、なんにせよ、これで一段落か」
ガイルがオルレッジを支えるカルフロン、そしてラウルを見ながら言う。
「そうですね、クエストは無事に達成できました、外にいるナタリーに報告して帰りましょうか……と思いましたがリュウがまだですね」
「そうだったな、リュウのやつ四階に上がったままだよな」
「我が呼びに行こうか」
ベルがそう言いながら大広間を出ようとする。
「いえ、ここに向かってくるでしょうし、待ちましょう、行き違いになってもまた問題ですし」
「ではこの間に私は奥方とご子息を起こしましょう」
カルフロンはそう言って二人の前に立つと指先で小さな魔法陣を描く。
その魔法陣がパンと弾けると、これまでピクリともしなかった奥方とその子がううんと身じろいだ。
「お二人も無事、と……カルフロン、あなたはこのあとどうするんですか?」
「あなたに着いていくと言いましたが、まずはこの騒動の後始末をします、そのあとこの屋敷を辞してあなたのもとに駆けつけますよ」
「そのほうがいいでしょうね……我々は今日立つ予定でしたがさすがに今回のクエストが長引きすぎました、予定を1日延ばしてジャンベルデットに滞在していますので可能であればド合流してください」
「わかった、そうさせてもらう」
その時、バタバタと廊下を走る音が聞こえてくる、足音はこの大広間に向かってきているようだ。
「ふっ、リュウだな」
「そのようですね」
待ちに待ったリーダーの登場にその場にいた全員の意識が大広間の扉に向かった。
それはガイル、ゴクウ、ベルやアスタといった手練れたちも同じだった。
戦いは終わった。誰の胸にもその思いがあり、そしてそれは油断となって現れた。
つい先程まで身動き一つしなかったオルレッジの奥方、カルフロンに魔法によって眠らされており、それは解けたものの意識を取り戻してはいなかった。
そのはずだった。
扉が開く。その音に反応し、全員の目がそちらに向いた刹那。
奥方はカッと目を見開くと内太ももに隠していたナイフを手にラウルに襲いかかった。
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