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龍翔記  作者: GIN
522/693

0522話 被災者たちの思い

女性の言葉に驚いたのはラウルだ。


「ちょっ、ちょっと待ってください……私達がどこへ向かうかは言っていませんよん、どんな危険があるか分かりませんよ」


「ええ、チーム:龍翔<ドラゴニア>の皆様は冒険者ですから危険は付き物でしょう……ですが」


女性は続ける。


「私達にとってはここに……モトロワに残っても旅に出るのと同じくらい危険なのです」


「……」


「領主に問題があることはラウル様もお気づきでしょう?」


実際に領主ヘンドリスと会い、その人となりを確認したラウルは反論できない。


「このままではマクシミリアン様が残してくださった備蓄がなくなったタイミングで私だけでなく子供も含めて死を待つだけになります……」


「しかし……」


「ラウル様……少なくとも私はモントロワに残るよりチーム:龍翔<ドラゴニア>の皆様と一緒の方が生き残る可能性が高いと考えているのです」


ラウルの領地はここモントロワから見ると遥か東になる。


そこまで無事にたどり着けるかどうかは保証できない。


だが、それを言ったところで無駄だろうとラウルは感じた。


なぜなら既にこの女性はモントロワに残ることとチーム:龍翔<ドラゴニア>と一緒に旅をすることを天秤にかけ、後者を選択しているのだから。


魔獣や盗賊に襲われる危険、天候などによる中断、病など旅の危険は多いが、それらは一般的な知識でもある。


すなわちこのような危険性は普段、旅をしない者でも知っている知識なのだ。


その知識がありながらもモントロワに残るよりも旅を選択しているのだ。


知識内のことを説明したところで心変わりはしないだろう。


「念のためにお聞きしますが、旅をしたことはありますか?」


「……生まれてからずっとモントロワで暮らしていますので、ありません」


「旅の危険性についての知識はありますか?」


「……一般的に知られていることくらいであれば、知識としては知っています」


やはりだ。


「こりゃ、諦めるしかありませんね旦那」


「にゃー(えらいことになったな)」


「お、おい、ラウルさん……わしらも付いていっていいかの?」


「私達もよ!」


「お、おれらもだ、モントロワはもううんざりだ!」


女性の言葉を切っ掛けに会談に参加していた住民たちも同行を希望する。


「……よほどモントロワの領主は嫌われているんですねぇ」


「にゃー(ラウルの報告やフォルカたちの様子を見ている限り性格を推し量れるがな)」


「それにしてもですね」


わいのわいのと話し始める住民たち。


大変な事になったと言いながら、どこか楽しそうだ。


「では、我々と一緒に行く方とモントロワに残る方、それぞれ何人くらいいるか確認しましょうか」


「にゃー(そうだな、ただ人数が増えると歩みが遅くなるし、物資の減少も早い、準備を十分にしておく必要がある)」


「そうですね、そちらはシゲンお願いできますか?」


「あっしですかい?……でもまぁ、仕方ないですね」


シゲンはポリポリと頭を掻きながら答える。


「では、この屋敷に避難されている方のうち、ここモントロワに残る方が何名で、一緒に行く方が何名おられるか確認したいと思います」


ラウルの言葉に住民たちは、またわいわいと話しはじめる。


「にゃー(こりゃ、子供の方も同じような話しになっているかもな)」


さんじゅーろーが伸びをしながらそう言う。


「確かに」


「ありえやすね」


そこにムギが慌ててやってくる。


「ラウルさん、シゲンさん、さんじゅーろーさん、ちょっとご相談が!」


「……」


「……」


「……」


息を切らして駆け込んできたムギを黙って見つめる3人。


「こ、子供たちが……」


先の厄災で親や家族を失った子供たち、いわゆる孤児たちにはムギを中心として話しを行ってもらっていた。


ムギは孤児たちの姉のような存在として、子供たちからの信頼が厚い。


そのため、子供たちへ話しをするのはアスタに頼み、アスカ、ムギとセラ、ステフにそのフォローをしてもらっているという状態のはずだ。


そこに居たはずのムギが走ってくるということは、何らかのトラブルもしくはあちらのメンバーでは解決できない事が起こったということだろう。


「わ、私達と離れるのが嫌だって言ってて……」


はぁはぁ、と肩で息を切らしながら何とか呼吸を戸と寝ようする。


「やはりと言いますか」


「にゃー(予想通りだな)」


「こりゃ、本格的に兵站を考えないとですね」


「……ど、どうかしました?」


「ああ、すみません、こちらの話しです……」


「私は絶対についていきます!」


女性は力強く宣言した。


それに呼応するように会談に出ていた住民たちはその場で全員が同行を希望したのだ。


更に会談には参加していなかった者たちも話しを聞いた上でモントロワを出てチーム:龍翔<ドラゴニア>に同行することを選んだ。


「にゃー(全員とは……)」


「こりゃー、えらいことになりましたね」


「こうなっては仕方ありません、腹をくくりましょう……」


そう言ってラウルは住民たちの代表として選ばれた3名に対して伝える。


「まず皆さんにお伝えしておかないといけないことがあります……我々としては皆様の同行は拒否いたしません、その上で今からお伝えする言う話しを聞いて最終的な判断をお願いします」


「分かりました」


「私たちがモントロワを出るのは領主様とのトラブルが原因です……そのため普通に街を出ることは叶わないでしょう」


「ということはつまり?」


「……街を出る際に戦闘になる可能性があります……もちろん皆様に戦ってほしいという意味ではないのですが門を守る兵の規模によっては激しい戦闘になる可能性があります」


「私達が怪我をするかもしれない、ということですか?」


女性の問いにラウルは頷く。


「もちろんそうならないように全力は尽くしますが戦闘中に起こる全てのことを予測したり対策できるわけではありません……場合によっては怪我人や領主様側に捕らえられるような人が出てしまうことも考えられます」


「もうひとついいやすと、我々が守備兵に負けて門を出られずに全滅する可能性もありやす」


シゲンはさりげなくフォローする。


「シゲンの言う通り、我々がモントロワを脱出できずに全滅すれば皆さまをお守りすることができなくなります……その結果、領主様に反逆と取られる可能性があります」


「……」


「……」


「無事にモントロワを出られたとして向かう先までの旅は過酷なものとなります……物資が途中でつきたり、魔獣や盗賊の襲撃、病など一般的に知られる危険が待っています」


「天候の問題、増水などによる足止めなども考えられやすね」


「なんとか目的地にたどり着いてもモントロワほど栄えた場所ではありませんので暮らしていくなかで不便なこともでてきます」


「……」


「……」


「……」


ラウルとシゲンの話しを聞いて押し黙る住民たち。


「私がお伝えしたかったのは決してバラ色の道のりではないということです……それでも同行を希望されるのであれば準備をして2時間後に離れの外にお集まりください」


「荷物は最低限にしたほうがいいですか?」


「荷物の運搬に関しては優秀な仲間がいますので、量に注意いただく必要はありません……必要なものをご持参いただければ結構です」


「危険がありますので、そこだけは忘れないようにしてくだせぇ」


「……それは、覚悟の上だ」


「ああ、どうせここに残ったところで対して変わらんし、その上、希望もない……だったらあんたらについてく方に賭けるほうがマシだ」


「分かりました……では、他の住民の方にも今の話を伝えてもらってその上で同行する人には同じように準備を……残る方には必要な物資を選択しておいてもらってください」


「分かった、それは任せてくれ」


住民の代表格の男が自分の胸をドンと叩きながら言う。


ラウルはムギに向かっていう。


「では、子供たちにも説明にいきましょう」


「はい」


「向こうは荷物もないだろうから準備はいりませんがね」


ラウルが説明した結果、孤児たちは全員が同行を希望した。


アスタやムギらが子供たちの準備を手伝うことになり、離れに残る。


こうしてラウル達は本邸へと戻った。

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