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龍翔記  作者: GIN
520/693

0520話 イムロット教会からの脱出

シェリィの首につけられているのは『隷属の首輪』。


人の意思に反して命令をきかせることができる非道な魔道具アーティファクトだ。


「俺はリュウ、キミの名前は?」


「シェ、シェリィ……」


「シャリィか……犬人族か?」


「はい……」


犬人族の里はモントロワの北部にあり、狩りや農耕を営んで慎ましく暮らしていたそうだ。


シェリィも幼い頃に母を亡くしていたが、働き者の父に優しく育てられ、里の者にも可愛がられていたらしい。


里の人口も100名程で、それほど大きな規模ではなかったが、それだけに里の者は皆、仲もよく協力しあって暮らしていたようだ。


だが、そこに突然、武装した騎士団がやってくる。


騎士団の要求はシェリィの引き渡しだった。


ひと月ほど前にモントロワへ買い出しに来ていた犬人族の中に居たシェリィを見た領主の奥方が所有を希望しているから、というのが理由だった。


当然、シェリィの父はそれを拒否する。


それに対して騎士団はあっさりと剣を抜いてシェリィの父を斬ったのだ。


そしてシェリィに対して言う。


里の者を皆殺しにされたくなければ大人しく従えと。


里長はそれでも反対の意を示すが、それを押し留めたのはシェリィ自身だった。


父を目の前で殺されたシェリィは、その傷も癒えないままにモントロワへと連れてこられ、逃げないようにと領主の奥方に『隷属の首輪』をつけられたというのだ。


そして許可なく領主の館を離れると『隷属の首輪』の呪いが発動し、シェリィ自身の首を絞めると説明されていたらしい。


自分が死ねば里にどんな報復をするか分からないと考えたシェリィは領主の館で大人しくすることしかできなかったのだ。


「なんということだ」


「ひどい……」


テレーザがそっとシェリィを抱き寄せる。


「つらい目に合いましたね……」


「はい」


テレーザの包み込むような優しさに触れたためかシェリィの瞳から涙が溢れる。


「シェリィ、お前も俺たちと一緒に来い」


「えっ……?」


「そうね、それがいいわ」


「一緒にって……」


「俺たちは冒険者クラン:チーム:龍翔<ドラゴニア>だ、ここを出て仲間たちと合流したら、この街を出る……だから一緒に行こう」


「えっ……いまチーム:龍翔<ドラゴニア>って?」


「ああ、俺はチーム:龍翔<ドラゴニア>のリーダーをやっているリュウだ」


「……おにーさん……ラウルさんのいる冒険者も」


「ラウル?……ラウルは俺たちの仲間だぞ、知っているのか?」


俺の問いかけにシェリィは頷いてそれを肯定した。


「そうか、なら余計に一緒に行こう、そのまま里まで送って行く、その後のことは里の人と相談するといい」


シェリィが逃げ出せば犬人族の里に報復をしかねない。


もちろん領主とトラブルを起こしたシェリィは里には戻れないかもしれない。


だが、里を追い出したと言っても報復をやめることはないだろう。


シェリィを置いていけばいいのだろうが、理不尽な暴力を受けている姿を見て置いてはいけない。


もう連れて行くことは俺の中では決まっているのだ。


「さぁ、一緒に行こう」


「はい」


「ちょっ、ちょっとアナタ、人のペットに勝手なことをしないでくださる!」


覆面の女性がドスドスと歩いてくるなりそう言う。


俺がシェリィに話しかけているのを見て、慌てて近寄ってきた感じだ。


「その子は私のペットなんですのよ!」


「なにがペットだ……獣人は人類だぞ……それをペットとは」


「……エルフ以外の種族などどうでもいいですわ」


「なんということを……」


覆面の女性の言葉に憤りをみせたのはテレーザだ。


「ふん……そんなことはどうでもいいのです、さぁ、その子を返しなさい!」


「……お断りだ」


「なんですって!」


そこに助け出された司教とアスピアが覆面の女性の側にやってくる。


「くそ……いったいどうしてこんなことに……」


アスピアが苦虫を噛み潰したような顔をして言う。


本来なら今頃、異端者と認定したテレーザを壇上で痛めつけていたのだろう。


「リュウ、そろそろ……」


「そうだな……テレーザ」


「はい」


俺は再びテレーザを抱きかかえる。


「俺たちは帰らせてもらう」


「……はい、そうですかと通すわけがないでしょう」


アスピアが真顔で言う。


こちらを煽るような余裕もないようだ。


「ふすぅぅぅぅ……ワ、ワシをバカにしおって……!」


「その子を返しなさい!、どうせどこにもいけないのよ!」


覆面の女性の言葉を受け、俺はシェリィを見る。


「……リュウ、この『隷属の首輪』の呪力は低そうだ……つまり粗悪品だな、確かに呪いはかかっているが街を出たからと言ってすぐに発動するほどのものでもなさそうだ」


「分かった、助かったよガブリエル」


シェリィを連れ出す最後の障害ともいえる『隷属の首輪』の呪い。


その効果をガブリエルに確認してもらっていたのだ。


いまのガブリエルに『隷属の首輪』を破壊する能力はないが、呪いの内容を調べるくらいはできたようだ。


「いいのか?、すぐには発動しないが、ずっと発動しないというわけでもないのだぞ」


「それについては大丈夫だ、アテがある」


「……ああ、そうか……向こうもうまくいったんだな」


「まぁ、いろいろあったけどな……ここから生きてでられたら全部教えてやるよ」


「なるほど……」


そう言ってガブリエルはファイティングポーズを取る。


「……だったら必ず生きてここを出ないといけないな」


「そのとおりだ」


多くの覆面の信者が倒れたままだ。


だが、それでも俺たちの行く手を遮る程度の人数はまだいる。


「露払いは私に任せてもらおう」


「ああ、頼む……さぁ、行くぞ」


俺はシェリィの手を取り立ち上がらせる。


「送れないようについてくるんだ」


「……ええ、任せてください、犬人族は走るのも得意なんですから」


「そうだな……いいか、前をゆくガブリエルの後ろをついていくんだ、周囲は気にしなくていい」


「分かりました」


「さぁ、行くぞ!」


俺の言葉を合図にガブリエルが立ちはだかる覆面の信者に向かっていく。


人数をかさに襲いかかってきた信者を次々となぎ倒す。


「道があいたぞ!」


俺たちの後ろではアスピアや司教……おそらくモントロワの領主だろう……が、なにか大きな声を出して叫んでいる。


だが、そんなものに反応をみせる俺たちじゃない。


ガブリエルが切り開いた道を俺たちも進む。


その時、倒れた覆面がテレーザに向かって手を伸ばしてくる。


自分の視界の端で倒れていた信者が動いたことも驚いただろうテレーザが声をあげる。


「きゃぁっ!」


倒れていた覆面は最後の力を振り絞ってという感じで手を伸ばしてくる。


だが、その手がテレーザに届くことはなかった。


なぜなら最初に伸びてきた手は俺が刀で手の甲を突き刺したからで、もう一本の手は飛んできたナイフによって地面に打ち付けられていた。


「さぁ、こっちだ!」


その声……マルタンの声がするほうに向かって俺たちは走ったのだった。

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