0519話 イムロット教の司教
「えっ……」
信者たちがバタバタと倒れていくさまを見てテレーザが驚いた様子で声を上げる。
「こ、これは……?」
「ああ……おそらくはアイツが……」
俺が視線が一点を見ている事に気づいたテレーザとガブリエルが、視線の先を追う。
そこには細身の覆面が小さく手を振っていた。
「あれは?」
「なるほどな」
ガブリエルは覆面の正体が誰か分かったようだ。
「顔が見えないからどっちかは分からないが隠密双子のどっちかだろう」
「えっ、では!」
細身の男が覆面を取っていた。
「マルタンだな」
「……マルタンも付いてきてくれていたんですね」
「ああ、そのようだな……そして……」
俺はテレーザを抱えたまま壇上から飛び降りた。
「この機会を逃す手はない!」
「ああ!」
どういう方法か分からないが覆面の信者たちがバタバタと倒れていく。
「お、おい!、お前らどうしたんだ!……くそっ!、動けるものでアイツらを止めろ!」
そうしてる間にも覆面の信者が倒れていく。
まだ動ける覆面の信者も多数いる。
「……ふむ……大騒動じゃのう」
「こ、これは司教様……お騒がせして申し訳ありません」
司教に対してはアスピアも畏まっているようだ。
その振る舞いから宗教上だけではない二人の立場の違いを感じた。
「……そろそろワシの出番かのう」
「し、司教様……いえ、そうですね……お願いできますでしょうか?」
「よいよい」
アスピアの言葉を受け、司教がゆっくりと立ち上がる。
その横には同じく覆面を被った女性と思しき者もいる。
不思議なのはその女性と思しき覆面が手に持っている鎖だ。
その鎖の先には首輪に繋がれた獣人がいた。
獣人は女の子のようで、ずっと俯いたままだ。
「おい、オマエ……」
「……なんだ?」
「そろそろ言うことを聞いて異端者と裏切り者を置いて去れ……そうすればオマエだけは助けてやってもいい」
「さっき断ったはずだが?」
「ふん、それはワシと話す前のことだろう……司教たるワシの言葉を受けて心変わりもするじゃろうて」
「……いいや、まったく?……なぁ、テレーザ」
「え、ええ……そうですね」
「ふん、いまさらお前らの言葉などで心変わりなどするか」
「キ、キサマら、司教様になんという失礼な態度を!」
アスピアが抗議の声を上げるが知ったことではない。
「キ、キサマら……ワ、ワシをバカにするのか!」
司教も大きな声を上げている。
イムロット教としては位が高いのかもしれないが、俺たちには一切関係ない。
まったく反応しない俺たちの様子に司教は更に怒りをヒートアップさせる。
「キ、キサマらっ!……ワ、ワシをバカに……バカにしているのかっ!」
「バカにしているというわけではないがテレーザやガブリエルを渡せという要求は断らせてもらう」
「ク、クソォッ!」
「落ち着いてアナタ……やはり信者たちに捕らえさせましょう、アナタが言えば信者たちもきっといつもより力が湧いて異端どもを捕らえますわ」
「そ、そうじゃな……ふっふぅぅぅ……さぁ、信者ども!、アイツらを……異端者を捕らえよ!」
自分の言葉になにか特別な力があると言うふうに考えているのだろう。
だが、司教が魔法などを使った形跡はない。
ということは考えられることは一つ。
自分の立場から発する言葉に従うものがいる……権力者のそれなのだろう。
「くだらない」
俺は思わず言葉を漏らす。
「本当にな……こうなるともはやイムロット教がどうのこうのではなくコイツらの問題なのだろう」
ガブリエルがため息をつきながら言う。
まだ立っていられている何人かの覆面の信者が俺たちを捕らえようと向かってくるが、それをガブリエルが叩きのめす。
他の覆面の信者たちは、その様子を見て、どうしていいか分からないようだ。
「くっ、こ、このぉ!」
うまくいかない現状に苛立ったのか司教が殴りかかってくる。
だが、ブヨブヨとした腹を揺らしながら向かってくる司教の拳を躱すのは簡単だ。
戦いについても素人なのだろう。
俺が拳を躱したことで目標を失った司教はそのままバランスを崩して前方に倒れ込む。
「ア、アナタ!」
恐らく奥方なのだろう覆面の女性が声を上げる。
「ア、アナタも戦いなさい!」
そう言って獣人の子に繋がった鎖を強引に引っ張っている。
「わ、私は戦えません……」
「なんなの!、その牙や爪は何のためについているの!、役に立たないペットだね!」
そう言いながら覆面の女性は獣人の子の頭をバシバシと何度も叩く。
獣人の子は必死に頭を押さえている。
「……!」
俺はその様子に怒りを覚えた。
覆面の女性と獣人の子のところに歩いていく。
「……リュウ、私も同じ気持ちです」
「ああ」
覆面の女性は俺たちの動きに気づいておらず獣人の子への折檻を続けている。
「このっ!、このっ!このっ!」
「……」
獣人の子はただ黙ってその暴力を受け続けていた。
「おい」
「誰……ヒィッ!」
俺が声をかけたことでようやく近くまで俺たちが来ている事に気づいたようだ。
本来、そういった事を気にするはずのアスピアはいまは司教を助けてに行っているため、誰もこの覆面の女性に声をかけなかったようだ。
「な、なんですの!」
「見ていられないんでな!」
俺は覆面の女性が手にしている鎖を斬る。
ジャランと音を立てて床に落ちる鎖。
「ヒッ、ヒィィィ!」
覆面の女性は何が起こったのかを理解すると驚いて尻もちをついた。
「……」
獣人の子は黙って俺を見ている。
「大丈夫か?」
「……あ、ありがとうございます」
「キミを縛る鎖は斬った……いまのうちに逃げるんだ」
「……ダメです……どこにも行けません」
「……どうして……だ?」
俺がそう言うと同時に獣人の子は首元のスカーフをずらす。
そこには首輪がガッチリとはめられていた。
その首輪に俺は見覚えがあった。
「これは……ミノスと同じもの……まさか『隷属の首輪』か」
「はい……」
獣人の子は俯いて小さな声で答える。
「なんでこんなものがキミの首に?」
「……それは……あの人達が突然、村にやってきて……」
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