表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/119

96 転生同位体

モルゼオは教室を飛び出してから、魔力の流れを感じる総合戦術演習の訓練場へと走って向かっていた。きっと召喚系の儀式の(たぐい)だろう。今度は何が召喚されるのか、楽しみで楽しみで仕方がなく、期待に胸を躍らせていた。


訓練場へと向かう途中、研究棟の前を横切ろうとしたところで不意に声を掛けられる。


「ジャルマ先生!」


自分の名を呼ぶ若い声が気になり振り返ってみれば、学園長らを率いたカロゥの姿を認めた。


「カロゥ・ドナフト。授業中であろう。こんなところで一体何をしている」


「待て、モルゼオ。お前も授業中であったじゃろ。授業を放り出してこんなところで何をしてるのじゃ」


学園長が間髪入れずにツッコんだ。


「見ればわかるだろ。これから何が召喚されるのかを見に行く」


「見に行ってどうする!お前は止める側じゃろ!!!」


学園長激昂!当たり前である。


「で、そんなことよりも……」


「そんなことってなんじゃ!!!大事なことじゃろ!!!」


「カロゥ・ドナフト。ここで何をしているのだ?」


「えい!話を聞け!モルゼオ!!!」


学園長が怒鳴り声をあげるが、涼しい顔で聞き流し、カロゥの顔を覗き込むばかりだった。


「えぇっと。僕のクラスメイトが変な召喚の儀式を見つけちゃったので、儀式がされる前に止めてもらおうと先生方を……」


「ほぉ。つまりこの魔力の不自然な流れはCクラスの者たちが作り出したものか」


大変興味深そうにうんうんと頷いているものだから学園長は溜息を吐きながら「どうしてCクラスは毎年こうなのじゃ」と(なげ)いていた。そんな学園長の思いなど(つゆ)にも気にかけないようにモルゼオは興味の(おもむ)くままにカロゥに尋ねる。


「して、今回の召喚儀式はいったいどのようなものか、カロゥ・ドナフト。君は何か知っているか?」


尋ねられたカロゥは戸惑いながらも「よく分かりません」と言う。


「そうか……。ならば見に行くしかないな。聞いて極楽見て地獄!ここで見ずしては研究者の名が(すた)る!!!」


「地獄と分かっとるなら止めに入らんか!!!この馬鹿垂れ!!!!!」


学園長の怒声を無視してモルゼオは走り出そうとした。


「あ、でも、過去の召喚例については何か言ってた気がします」


カロゥの言葉に走りだそうとした足を踏みとどめ足踏みをしながら「何が召喚されたんだ?」と目をキラキラさせながらにこやかに尋ねた。


その姿を見て学園長が頭を押さえたのは言うまでもない。


「えぇっと…………。確か、『奴隷侯爵』だったかな…………?」


「…………なんだと?」


突如モルゼオの表情が強張(こわば)った。突然の彼の豹変(ひょうへん)にカロゥと学園長をはじめ(かたわ)にいた教員たちが(いぶか)しむ。


「急にどうしたんじゃ?モルゼオ」


「まずい!急いで止めるぞ!」


モルゼオの突然の態度の変化に戸惑いながらも、あのモルゼオの鬼気迫るような口ぶりに皆は不安を抱かざるを得なかった。


と、その時、突如総合戦術演習の訓練場から光の柱が立つ。


その場にいた全員が何事かとその柱を見上げた。


「しまった。儀式が成功しそうだ!」


苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべモルゼオが駆けだす。カロゥ達もあわててモルゼオの後を追いかけた。


「待て!モルゼオ!あの儀式がどのような(たぐい)のものか知っておるのか!?」


「ああ!魔族で知らないやつは頭が悪いどころじゃすまない!1500年前にあの儀式が使われた後、儀式に関わる書物を焚書(ふんしょ)したレベルの禁術だ!!!」


「禁術?禁術じゃと!?それほどまずいのが召喚されるのか!!!?いや待て、この間の変な召喚の時でも十分まずかったと思うが、それよりもヤバい召喚儀式なのか?そうでないのなら、これで血相を変えて以前の時はワクワクしていたのはどういうことなのか説明してもらえんかの?」


学園長は正直、モルゼオがいつもと違って焦っている理由が分からなかった。召喚儀式が敢行(かんこう)されるたびにそれを止めようとする教員陣を妨害するあのモルゼオが、今回に限っては儀式を止めに入る側に入ったところで、まさにオオカミ少年のごとく、信頼するには足らなかった。どーせ、儀式の場についてから自分たちの邪魔立てをするんだろうなと考えていた。


やっぱり信用って大事だね。


「一言で言えば、あの儀式で学園長の首が物理的に吹っ飛んでも文句は言えんぞ」


「…………。いや、待て。本当に何の儀式なんじゃ?」


「異界召喚の類であれば大きな問題は……、なくはないが、天界にとってはよくあること。ある種諦めもついて後始末を考えれば良い。どうせローザンヌが外界のクレーマーからクレーム処理に当たるだけだ。天界で転生待ちをしている魂を召喚するのも天界としては輪廻転生の秩序が崩れる火種となるのであまり好まれぬが、それでも後始末がつかないわけではない。だが、今回のはいずれでもない。転生召喚の一種ではあるが、転生の対象となる魂は、この世界の、この時代の転生待ちの魂だけではない。異界、並行世界問わず、そして過去、現在、未来を問わず、無秩序にランダムに選ばれた身体を持たぬ任意の魂。それがこの世界で召喚されるのだ。この世界だけでなく異界の秩序も崩れかねん。下手をすれば、相反する二つの魂が同じ世界の同じ時代に生まれることになるのだからな」


「先生!言っていることがよく分かりません!」


話を聞いていたカロゥが理解しやすいように注解を求める。


「例えば。カロゥ・ドナフト。君の魂は今この世界のこの時代にその身体と共にまさしく存在することは疑いようがないな?あの儀式を通すとこの世界の過去或いは未来、或いは並行世界の任意の時間点に於けるカロゥ・ドナフトの魂を引きずり出すことができる。するとこの世界にカロゥ・ドナフトと同じ魂が同世界の同時間の上に2つ存在することになる。まったく同じ性質をもった魂があたかも違う魂であるかのように2つこの世界に現れるのだ。君とまったくと言っていいほどに同じ存在が君とは別にもう一人現れることになる。この世界と並行世界が呼び出された魂を中心に双方で影響を与え合い、相反する二つの平行世界がある種の連結を持つことになる。同じ魂が二つの世界を股にかけている、という点でな。儀式が失敗すれば両方の世界が消滅することもありうるが、仮に成功した場合は反動で二つの世界が無理やり融合させられることもありうる。いずれにしても天界が騒ぎを起こさないわけがない」


完全に理解できないまでも、何やらまずいことにはなりそうだと言うことは理解できた。


「それにこの手の混雑は天界だけでなく異界でも好まれん。下手すればローザンヌすら責任を取らさせることになるだろうな……」


分かったように淡々と告げるモルゼオの言葉を厳密に理解できたものはいない。モルゼオの頭の中では一体何が見えているのかこの場に居る誰も知ることはできない。それでも、あのモルゼオが焦るほどなのだから、相当にまずいことにこれからなるのだろうことは嫌でも伝わってしまい、カロゥも学園長も背中に冷たい汗を伝わせていた。


訓練場に辿り着くと、光の柱の周りでCクラスの生徒たちが儀式実行の祈りをささげているのが見えた。彼らのすぐそばには止めに入ったはずのオーヴォエが泥まみれになって気を失っていた。止める際に生徒たちから攻撃を受けたのかもしれない。


モルゼオは他の教員たちを置き去りにするように地面を蹴ってその光の下へと駆け寄る。


「おまえら!さっさとそこから離れろ!!!」


普段のモルゼオからは皆目見当がつかないような鬼の形相と気迫に後を追いかけていたカロゥ達も祈りをささげていたCクラスの生徒たちもびくりと肩を震わせて彼の姿を見る。


「◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆。◆◆◆◆◆。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆。◆◆。◆◆◆、◆◆◆◆◆◆、◆◆、◆、◆◆◆◆。◆◆◆。◆◆◆◆、◆◆◆。◆◆◆◆◆、◆◆◆。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆、◆◆◆◆。」


突如人語とは思えない何かを呟き始めるモルゼオ。光の柱に向けて左手を突き出す。それはまるでこの儀式を意地でも潰そうとしているように見えた。


「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆。◆◆◆◆・◆・◆◆◆◆に告ぐ。この儀式の履行に対する無効を認め、それを運命とせよ!」


つぎの瞬間モルゼオの左手から黒い魔力が触手のように光の柱に絡みつこうとした。ぐるぐると巻きながら天へと昇っていき、同時にその光の柱を握りつぶそうとしているかのように黒い魔力は細くなる。


「モ、モルゼオ!止められそうか!?」と追いついた学園長が声を荒げて尋ねる。


「儀式はすでになっている!既に魂はこちら側に来ている!どうにかして受肉だけでも避けたいが、間に合うかどうかわからん!運が良ければ魂を送り返せる!運が悪ければその魂はここにとどまることになるだろうな!」


額から大量の汗を流しながら何かを握りつぶすように左手を閉じていく。汗と黒い魔力の波動で額に巻いていたバンダナが外れ、風に吹かれて飛んで行ってしまった。バンダナに隠されていた彼の三つ目の目が赤く光っている。


黒い魔力はその数を増やし光の柱を覆い隠さんとする。本当に握りつぶそうとしているようで、見れば光の柱からヒビのようなものが見え始めた。


徐々にそのヒビは広がり、光の柱は崩れ落ち始める。


天から崩れ、光の粉となり、その姿は徐々に消えて行った。


周囲は粉塵のように光の粉が舞い、辺りが見えなくなる。


だが、少なくとも先程までの光の柱の気配はなくなった。


モルゼオは魔力を使い切ったのか、膝を地面につける。


「先生!大丈夫ですか!?」


カロゥがモルゼオの傍に寄り、彼の肩を支えた。モルゼオはかなり消耗しているようでカロゥの言葉には返さず、ただしきりに荒い息をたてているだけだった。それでも消耗しているだけで命の別状はなさそうだと感じ、「何とか食い止めましたね」と(ねぎら)う。





































































































「転生の順番待ちをしていたところで引きずり出されるとは…………」





































































































柱のあった場所から声が聞こえ、皆が顔をあげた。


光の粉塵が徐々に晴れて行き、三つの影が見え始める。


「我、オーク大帝。マーニー=ロドリゲス」


影の一つは鉄の鎧を身に着け鉄の兜をかぶったオーク。


「我、コボルト大帝。イーズリット」


もう一つの影は皮の鎧と兜を身にまとったコボルト。


「我、ゴブリン大帝。デノグリフ」


そして最後の一つは鉄の鎧をのぞかせた赤いマントを身にまとった王冠をかぶったゴブリン。


この三人の名前にカロゥとモルゼオは聞き覚えがあった。


今、ゲイルと共に輪読をしている魔族の交渉の記録に出てきた三人の代表者の名前。


「さて、転生待ちをしていた我らを引きずり出したのはどこのどいつだ……?」


どの世界の、どの時代の魂が引きずり出されたのかはわからないが、700年前の政治家三人を呼び起こしてしまったようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ