89 運動後の食事1
休養日明け二日目 (火曜日)。午前中、ゲイルは他のクラスメイト達とは別に弓術用の訓練場でエレナの指導を受けながら弓の練習をしていた。
レーニアリス学園で弓の練習を始めてから4週目。エレナに初心者専用小屋の使用の許可を得てから毎日のように朝練に励み、今は的から30メートルのところで的に当てる練習をしている。少しずつ距離を離しているが、ど真ん中に当てるにはまだまだ時間がかかりそうだった。
他方で、姿勢や弓の構え方などについては、入学前から練習をしたことがあるだけあって、エレナから特段指摘することはなかった。もはや感覚の問題。感性の問題。ゲイル自身でどうにかするしかない点に彼への指導の難しさに頭を悩ませている。
的に当たりはするもののど真ん中にはまだ当たらない。とにかく練習して慣らしていくしかない。
授業時間が終わりに近づき、エレナが声をかける。
「もうしばらくこの距離で練習しましょう。来週の授業の時にしっかりと真ん中に当てられるようになってたら少し距離を離しましょう。朝から練習してるんでしょ?もう終わりにしていいわ。お疲れ様」
「あーい」
ゲイルは借りている弓と矢を元の場所に戻しに行き、エレナは軽く片づけをしてから小屋に鍵をかけた。
弓矢を元に戻してからそのまま更衣室へと向かう。更衣室にクラスメイト達の姿はなかった。まだギルバートが熱心に指導しているのだろうか?それともいつもより早めに終わったのだろうか?剣術用の訓練場を通っていないので分からない。もし授業が早めに終わっているならきっとミリーは学友と一緒に学食で食事をとっているだろう。仮にまだ終わっていなかったとしても、自分がいなくともファーノたちと食事をするに違いない。それなら、わざわざ自分がいなくてもいいだろう。
「んー。妹離れするお兄ちゃんって感覚かな?」
訳の分からない言葉が漏れた。
着替えを終えて訓練着の入った手提げ袋を持ちながら更衣室を出たところで、ちょうどクラスメイト達の姿が見えた。みな訓練着のままであり、今訓練場から帰ってきたばかりのようだ。
クラスメイト達とお互いに「お疲れー」と言いながらすれ違っていく中、後ろの方の女子の集団の中にミリーの姿を認めた。
「おー!ミリー!お疲れー!」
「……お疲れさまです、ゲイル様」
間をあけてからミリーの返事が返ってきた。隣にはノエル、アイン、ファーノがいて彼女たちとも労いの言葉を掛け合う。
「どうした?ちょっと疲れてるように見えるけど?」
ゲイルの言葉にミリーは特段表情を変えることなく「いえ、きっと気のせいです」と言葉を返す。
「そういえば、これからお食事ですか?」
「ああ」
「でしたら今日はご一緒いたしませんか?」
「別にいいけど……。俺が混じっていいの?」
ゲイルはファーノたちに確認するように顔を向けた。けれどもファーノたちはきょとんとした様子だった。何やら勘違いしているようだと踏んだミリーは補足もかねて口を開く。
「えぇっと……。私は今日の昼食についてはまだご一緒させていただく約束をしておりません。ですので、今日はゲイル様と二人で食事をとらせていただければと思いまして……」
表情こそ変えないものの、どこかよそよそしさを感じる振る舞いにファーノとノエルはピーンと来たようにニヤリとほくそ笑んだ。
「今日のミリーさんはゲイル様と二人きりで食事がしたいのですね?」
「ふふ。でしたら私たちがいては邪魔になりますね」
二人の言葉にミリーは慌てたように二人に顔を向けたのに対して、ゲイルはきょとんと首を傾げた。
「昨日はミリーさんと食事をご一緒してませんよね?でしたら、今日は一緒にお食事をなさってあげてはいかがですか?私たちがいない方ができるようなお話しやご相談があるかもしれませんから。私たちがご一緒したいと思ったときは改めてこちらからお願いしますので」
アインがミリーへのフォローとばかりに丁寧にゲイルに告げる。その言葉に納得いったように「おーけー!今日は兄ちゃんが一緒にご飯食べてあげるぞ!」と上機嫌であるかのように言った。ミリーはすかさず「違います。兄妹ではありません」とツッコむ。
「では私たちはここで失礼いたしますね。……寮の学食にでも向かいませんか?ファーノさんは貴族寮でお食事なさる機会はそれほどないでしょうからどうです?」
アインはノエルとファーノに提案しながら更衣室へと入っていく。
「ミリーも着替えるんだろ?教室……だと待ち合わせに不便だから食堂の前で待ってるよ」
「承知いたしました。少し時間がかかりますので大変お待たせすることになるかもしれませんが、ご了承お願いいたします」
ペコリと頭を下げてミリーも更衣室へと入っていく。
「まったく……。相変わらず硬いんだから……」
ゲイルは相変わらず偉そうに嘆息しながら学食へと向かった。




