76 代打ノーマス
食堂には早めに授業が終わったり、午前中に授業が入っていない生徒達がすでに席をとって談笑していたが、やはり午前の就業の鐘が鳴る前であるので半分以上が空席であり、席取りに時間が割かれるようなことは無さそうであった。ミリー達はまだ混んでいない配膳の列に並び、それぞれ自分の欲しいものを頼む。
普段よく集まるガールズに追加して今日はゲイルではなく、ノーマスが追加された。平民出身でさらにネルカ達とこれまで接点らしい接点を持ち合わせていなかった彼としては居心地が悪い思いをしていたのは言うまでもない。かといって相手は貴族令嬢にして前世が姫騎士リズのネルカ。断れば何が起こるのかも分からず、言われるがままにペコペコと付き従っていた。これが平民の性か…………。
ちなみに居心地の悪さを感じていたのはミリーも同様。普段ネルカ達女性陣で会うときは大抵ゲイルが傍に居たのだが、今日はムザックを追ってどっかに行ってしまった。その上、接点のないノーマスが追加され、どう接すればいいのかと悩んでいたのだ。
そんなこと気にも留めないネルカ達。しばらく続いた冷戦の影響で中々ミリーに声を掛けづらかったので、久々のミリーとの昼食に浮き足立っていた。
(ゲイル様もいらっしゃればなー)
…………。
聞かなかったことにしよう。
「この面々でご飯食べるのも久しぶりだよね!」
席につくなりネルカが口を開くとノエルが相づちを打った。
「ええ。ノーマスさんとは初めてですが……。まあそういうことはありますよね。クラスメイトだからと言ってすぐ打ち解けあえるわけではありませんし」
「そそ!そう言うわけでふとした偶然でこんな美少女達と一緒にご飯が食べれる幸せを君はとくと味わうんだよ!」
ハイテンションなネルカに指差され、ノーマスは思わず隣の席を見てしまう。ふと同じようにミリーも彼の目を覗いていた。
「…………」
「…………」
その二人の様子はまるで目と目だけで通じあってる男女のようで……。
(ねえ。彼女はさっきから何を言ってるの?)
(ごめんなさい。私も時々ついていけないことが……)
実際通じあっていた。淡い恋バナではないけれど。
「そういえば、ノーマスさん。ものすごい勢いで飛び出されてしまいましたけど、うまく着地できたのですか?」
ノーマスのその後について若干気になっていたアインが尋ねる。それを聞かれたノーマスは何となく恥ずかしそうに「木に引っ掛かったので難を逃れました」と呟いた。
「そうでしたか。ご無事で何よりです」
ニコリと笑みを浮かべるアインに年頃の少年は耳を真っ赤にした。
ネルカ。正真正銘の美少女はこの子のような娘を指すんだぞ?というか自分で美少女とか言わない……。
「ところでミリーさん。思わずお誘いしてしまいましたが……。ゲイル様は放っておいて大丈夫ですか?」
ファーノの問いに「良いんじゃない?」とネルカが答えた。いや、お前に聞いてない。
「ま、まあ……。学園内ですから……。たぶん大ケガをなさるとは……」
「…………勢いよく窓から飛び出しましたけどね。私たちのクラス、3階でしたよね?」
「…………」
「ゲイル君、ミリーちゃんのことになると、妙に勘が良かったり、運動神経よくなったりするからねー…………。その勢いでそのうち禁術とか使ったりするんじゃないかな…………」
なぜか遠い目を浮かべるネルカ。その瞳の奥には剣術決闘で起きた無駄に体力のあるゲイルの姿が浮かんでいた。実は若干のトラウマに……。
「あ、あの……。さっきからなんの話を……?」
「ゲイル様がミリーさんのことで頭に血をのぼらせて、同級生を一人追い回しているのです。まあ、さすがのゲイル様も無茶なことはなさらないかと……」
再びアインが解説する。
「私の辞書の中ですと、3階から飛び降りるは無茶のうちにはいるのですが……」
ファーノの言葉に事情を知らないノーマス以外がコクコクと頷いた。するとアインはクスクスと笑って応える。
「だってゲイル様ですし」
あ、学園長と同じようなことを言った。そして何も言えなくなった面々。うん、そりゃそうだ。だってゲイルだし。
「今は放っておいても午後の授業までには戻られるでしょう。そのうちお腹を空かせてこちらにいらっしゃるかもしれないですし」
「こ、子供じゃないんですから……」
ノエルが顔をひきつらせると「だってゲイル様ですよ?」と返される。
だってゲイルだもん。
これでもう驚かないね?
だってゲイルだもん……。
「便利な言葉ですねー」とファーノが目を逸らしながら呟いた。
「ま、まあ、午後の授業になっても戻ってこなかったらそのときに探しに…………。あれ……?」
ネルカが顔をひきつらせてしゃべる途中、突如言葉が止まった。ノエルが「どうしたのですか?」と怪訝そうに尋ねる。
「あ、えぇっと……。あの男子生徒、どこかで……」
ネルカの指差す先を皆が揃って眺めると、昼食時になり、生徒達で混雑し始めた入り口付近に、物凄く疲れたような表情を浮かべた男子生徒が並んでいた。
「…………カロゥ様…………」
忘れやしない。
剣術決闘の時、暴走したCクラスの中でも唯一の常識人、カロゥ・ドナフトが過労で倒れそうになりながらふらふらとしていた。
……………………。
駄洒落じゃないよ!
ほんとだよ!




