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73 昼食会2

昼食を済ませたミリーは上級生達と別れ、クラスメイトと共に教室へと向かった。


「いやぁ、女の子と一緒にご飯食べるなんて初めてかも」


「でも大丈夫かな?ゲイル君に怒られない?」


「その時は友達としてって言えば……………………」


「ワイ将、ゲイル氏は男友達だと不可と予想」


「いえ。恐らく大丈夫だと思います。ゲイル様は私に友人ができないことばかりを気にかけておりましたので。ご自分のことを優先すべきだと思うのですが…………」


ミリーが男子生徒たちにフォローを入れたあと、ふと思ったことが湧き、質問する。


「あの…………。私は皆さんと友達なのでしょうか?」


「ん?どーゆーこと?」


「その……、奴隷を友達だと言う方は普通いらっしゃらないので……。ネルカ様やファーノ様は私を友人だと言ってくださりますが…………。やっぱりそれが例外ですよね?」


ミリーは相変わらず無表情であるが、気になって仕方がないように周囲には感じられた。


「普通はそうかもだけど、僕はミリーさんとだったら友達になりたいけど?」


「ワイ将、右に同様」


「え?てか、クラスメイトなら友達じゃないの?違うの?」


男子生徒らの振る舞いを見て、ミリーは心の中で安堵した。


(友達……。増えました…………。これでゲイル様も安心してご自分の振る舞いを考え直してくれるかな?)


「友人だと思っていただけるのでしたら、ゲイル様も目くじらをたてないと思います。私も友人が増えたこと嬉しいですし」


無表情ながらも友達になってくれたことが嬉しいとハッキリと言ってくれたことで、男子諸君はガッツポーズを決めた。掴みよしと。


「ならこれからも昼とか夜とか一緒にご飯食べようぜ?どうせみんな寮一緒なんだし」


「はい」


ミリーの返事で一緒に顔をあわせる機会を得ることができ、男子諸君は大層ご満悦の様子。彼らはにこやかな笑顔で教室の扉を開けた。


「……………………………………………………………………………………」


扉をあけ、そして無言のまま立ち止まった。男子生徒達が立ち止まってしまったので中には入れないミリーは「どうしたのですか?」と質問する。


「え?いや、あの…………」


男子生徒はなにやら言葉に詰まってしまった様子でミリーの顔を見ながら固まった。(らち)が明かず、男子生徒達の隙間を縫って教室の中に入る。


「……………………………………………………………………………………」


ミリーも思わず固まってしまった。ミリーだけではない。教室にいる男女全員がある席を見て固まっている。




その席にいる生徒は、非常に真面目な顔つきで、普段かけない眼鏡をかけ、肩肘をつきながら本を広げて眺めていた。机の上にはいくつもの本があるが、メインとして読んでいるものは1冊だけで、他の本については調べものとしてだろう、時折何か思い出したように眺めだし、見比べて、再びメインの本へと視線を戻していた。そして、思い付いたことがあれば、赤ペンを取り出しては、その本に何かを書き込み、筆をおいてじっくり眺める。それの繰り返し。


普段の様子からは考えられない様なゲイルのその姿に誰もが息を呑んで見守っていた。




次の算術の授業の時間が近づいてきたので、ハッと我にかえったミリーは、てくてくとゲイルの近くへと寄る。


「随分と集中なさってお読みになりますね?」


ミリーの問いかけに最初、自分にかけられた言葉であるとは露にも思わなかったのかすぐには反応がなかった。暫くして目をちらりと右上に向け、彼女を暫く見つめる。目に映った人影がミリーだと認めると、パッと笑顔になり眼鏡をはずして顔を向けた。


「ミリー!お昼どうだった?」


「新しくできましたご友人の方々とご一緒させていただきました。直接お話しするのは初めてだったので深い話しはしておりませんが、とても楽しかったです」


「そっか!良かったな~」


自分のことのように嬉しそうに笑いかけるゲイルに「はい」と小さく呟いた。


「眼鏡、もってらしたのですね?」


机の上に置いたままの眼鏡に目を向けると「眼鏡と言うよりもルーペかな」と返答がくる。


「本の中には文字が小さいやつがあるからさ。拡大させないと目が疲れて疲れて…………」


目元を右手で揉みながら、左手で伸びをして見せる。


「随分と集中されて本を読まれるのですね?」


「ん〜?前にグルアーノにも言われた気がするなあ〜。集中しなきゃ頭に入ってこないだろ?ただでさえ俺は覚えが悪いんだから、これくらい集中しないと……。何よりもモルゼオの課題だからな……、普段特に嫌味を言ってこない分、こういう時にやってこないと何を言われるやら…………」


引き()った表情を見せながら最後の言葉はボソリと呟く。


「…………普段からそう真面目でしたら他の方の印象も違うでしょうに」


「…………真面目な俺は俺じゃない」


なぜか威張ったように言うが、ミリーは確かにその通りだと思った。教室に入ったとき、ゲイルだと理解するのに時間がかかっていたのだから。ただ、彼女の心はほんの少しだけ高揚していた。長年一緒に居たのに気づかなかった側面を見つけることが出来た気がして。


「どうせどんなに頑張ったってミリーに勝てるものなんて何もないんだから、不真面目な方が愛嬌のある兄ちゃんに思えるだろ?」


だから違います、という言葉よりも、それは違います、との言葉が先に思い浮かんだ。自分が出来ることなんてたかが知れてる。今はゲイルよりもできることが多く見えても、ゆくゆくは彼はフォアワード侯爵家の家督を継ぐ人で、自分に課せられた(おもり)よりももっと重たいものを背負わなくてはならず、それと引き換えに自分には出来ないことを行うだけの権利と権力を手にすることが出来る人。

 その時。

 学園を離れて学園から守られることもなくなったその時、奴隷の自分を護ることが出来るのは、自分自身手はなく、ゲイルだけ。


そんな想いが胸のうちにうずくまり、けれどもそれを口にすることが(はばか)られ、どの言葉に対しても反論することが出来ずにいた。


そんなミリーの様子に「どうした?」と尋ねてくる。


「…………いえ。ゲイル様の妄言はさておき」


「妄言扱いされちゃったよ…………」


「先の休養日にネルカ様より服をプレゼントしていただきました」


「え?そうだったの?俺、聞いてない」


「お伝えしようとしたとき、ゲイル様はお取り込み中でしたので」


ミリーの回答に「課題に追われてるからなあ」と嘆息した。


「それでお見せしたいと思うのですが…………。次の休養日にご一緒にお出掛けいたしませんか?」


ゲイルは目を瞑って腕を組み、暫く考え込んでから「アリだな……。そうしよう」と呟いた。


その呟きにミリーは心なしか小さく微笑んだ。ゲイルの目には映らなかったが、他のクラスメイト達、特に男子諸君はそれを見逃さなかった。


「ではよろしくお願いしますね?」


「あいよー」


ゲイルの返事を聞き、ミリーはそのまま席について、授業の準備をする。今は無表情に戻ってしまったが、クラスメイト達は彼女の機嫌がいいことに気がついた。


かくいうゲイルの心のうちは。


(ふぅ。よかったぁ……。機嫌なおってくれて…………。とりあえず今度の休養日は意地でも予定あけとこう。せっかく機嫌治ったのにここでまた崩されてもたまんねえからなぁ…………)


10日間無視されたことについて、かなり気にしている様子で、解決の糸口が見え安堵していた。


こうして、ゲイルとミリーの冷戦は静かに幕を閉じようとしていた。






(…………ミリーさん。ズルいなぁ…………)






……………………………………………………………………………………若干修羅場の気配はするが。

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