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47 一触☆即発

学食内は緊張で張りつめていた。公然となされたネルカによるグルアーノ殺害の相談。それをすぐ(そば)で聞いてしまったグルアーノご本人。


これだけでも殺伐とした空気になるというのに、あろうことかグルアーノは同じテーブルに座って食事をとり始めたのである。しかもネルカの隣に。この状況で一体どう落ち着けと言うのか?


ネルカは殺気を出し惜しみすることはなく、対してグルアーノはそれをものともせず澄ました顔で食事を進め、ミリーは身体が固まって逃げることもできなかった。


「私の隣に座るなんていい度胸してるね?」


「俺もおまえもこの学園の一生徒にすぎん。お互いに脅威にはなり得まい。それとも続きがご所望か?」


ネルカはにやりと笑みを浮かべながら左手をグルアーノの方へと向ける。グルアーノもそれを見てネルカに右手を向けた。


「お待ちください!ネルカ様!グルアーノ様!ここで魔術を使っては皆様のご迷惑になります!」


悲鳴のように大きな声を上げながらミリーが空っぽになった皿を手に取り二人の手の壁になるように間に挟む。顔を見れば今にも泣きそうだった。


ネルカとグルアーノはミリーのその表情を一瞥してから手を(おろ)した。突然のことに食堂内はパニックになりかけたが、事が起こらなかったことに皆が安堵する。さすがミリー、グッジョブである。


「そうだぞ!せっかくなんだから外でやろうぜ!」


「ゲイル様っ!!!」


ゲイルの煽りにミリーが慌てふためいた。グルアーノはふっと笑みを浮かべる。


「おまえがデュアンの末裔、ゲイル・フォアワードだな?」


「そうだぜ!」とニッコリとサムズアップを決めながら笑う。肝っ玉が据わっているとはこのことか。周囲の生徒たちはゲイルたちのテーブルを見て気が気でない様子だった。


「デュアンの面影が一切感じられんな。流石に700年も経てば血が薄まるか」


グルアーノは懐かしむように言葉を吐いた。ゲイルはというと急に腕を組みだし「うーん」と唸りながら考え込む。


「以前リズから魔王レーノの抑止力になってくれって言われたんだけどなぁ……。やっぱり俺は居てもいなくても変わんねぇなぁ」


「ゲイル様お願いします。火に油を注がないでください」


ミリーが懇願するようにゲイルに言う。グルアーノは「おまえそんなこと言ったのか?」と眉間にしわを寄せながらネルカに尋ねた。聞かれたネルカは彼に顔を向けることもなく、無視を決め込む。


「だけど分かんねえなぁ……。おまえら仲悪いんだろ?どうして相席するんだ?」


ゲイルはミリーの懇願に耳を傾けず、グルアーノに質問する。ミリーは心の中で (お願いだからこれ以上はやめて) と呟いていた。


ミリーの不安とは裏腹にグルアーノはというと特に気を悪くするようなそぶりを見せずゲイルの質問に答えた。


「お互い王都在住だからな、何かにつけて付き合いはある。昔ながらの顔なじみだ。それが想起の儀式(アナムネーシス)以来互いに口を利かなくなっただけだ。こういう時に想起は不便だと痛感する」


「なんだ?昔の方が仲良かったのか?」


ゲイルの言葉にグルアーノとネルカは一度顔を見合わせ、気まずそうに互いの顔を逸らした。


「……以前アシュリー様からロヴェステン伯爵家のご子息とスワローズ子爵家のご息女が婚約なさったと聞いたのですが。まさか……」


グルアーノとネルカは一度ミリーを一瞥し、それから再び顔を逸らした。そしてグルアーノが口を開く。


「…………こういう時に不便だ」


「草生えるww」


「ゲイル様。もう少しお気遣いなさってください」


グルアーノとネルカは元々顔なじみだった。しかも婚約者同士。ただ、レーニアリスにきて、想起の儀式を受けてみたら、グルアーノは魔王レーノの記憶を、ネルカは姫騎士リズの記憶を完全想起してしまった。


一度目の想起の儀式のとき、偶然にもネルカが先に儀式を受け、姫騎士リズであることが判明してしまい、すぐさま噂になってしまったが、その婚約者であるグルアーノの施術で彼が魔王レーノと判明してしまい、慌てて箝口令を敷いた。モルゼオの賢明な判断である。ちなみに一応、二人の両親にはその旨を伝え言いふらさないように頼んであるそうだ。


それでも『前世が魔族』専用クラスであるAクラスにグルアーノを配属せざるを得なかったため、お互いに近寄りがたくなっていた。グルアーノ自身、自分が魔王レーノだったとネルカに言えなかっただろう。


前世で殺しあっていた者同士が現世で婚約者同士になってしまったのだ。どう顔を合わせろというのか?隠したくもなる。それが二度目の儀式のときにばれてしまっただけ……。


「でもどうするんだ?今の関係のままだと婚約者もくそもないだろ?破談するのか?」


「ゲ・イ・ル・さ・ま!足を踏み込まないで差し上げてください!」


ストレートに尋ねるゲイルに勘弁してくれとばかりにミリーが苦言を述べる。本人の自覚があるのかないのか、ミリーは自分の脇腹を強くつかんでいた。胃が痛いのかもしれない…………。


「お互い前世が敵対者同士と言えど、現世の親を持つ。親同士の話し合いに任せるしかあるまい。……(もっと)も、俺の父と母は俄然乗り気になってしまったがな…………」


「…………私のところも」


ロヴェステン伯爵家としては、前世が姫騎士リズであるネルカとの婚約を維持したいに決まっている。対するスワローズ子爵家も、国軍省の大臣であるロヴェステン伯爵の息子であり、前世が魔王レーノと分かったグルアーノとの婚約を維持したかった。魔王とて魔族側の政治家。少なくとも魔族方面の外交交渉を行うような要職には就けるだろうと考えていたのだ。


どちらの家も互いの名誉のために、ノリノリであった。完全想起の弊害など気づきもせず…………。


「だったらなおのこと今のままじゃよくねえよな。いっそのこと思い切りぶん殴りあってみたらどうだ?わだかまりがなくなるかもしれないぞ?」


「簡単に言ってくれるな。前世の俺は一度ネルカにとどめを刺そうとしたことがある。互いに思うところはある。心の整理も付きづらい」


「ふーん」とゲイルが呟いてから言葉を続ける。


「でも、互いの名前は現世(いま)の方で呼び合うんだな」


「…………」


グルアーノとネルカは互いに押し黙ってしまった。ミリーはその様子を見てゲイルに再び忠言する。


「ゲイル様。お二人の問題ですから、首を突っ込まないで差し上げてください。…………グルアーノ様、ネルカ様。私が余計な一言を言ったばかりに……。申し訳ございません」


「あ!ミリーちゃんは気にしなくていいよ!」と慌ててネルカがフォローする。グルアーノはミリーを一瞥しながらも何も言わなかった。


「そうだ!ここにきて互いに話す機会がなかったんなら今がいい機会だろ!となると俺たちはお邪魔だな……。ミリー二人っきりにしてやろうぜ!」


いい笑顔で言う。そうだけどそうじゃない。


ミリーはこのまま二人きりに残していいのか困惑し、けれども先に配膳を片付けに行ってしまったゲイルを追いかけることにした。


「…………お先に失礼します」


ミリーは申し訳なさそうな顔で二人に言った。


食堂内は気まずさが増す。とはいえ、最初の一触即発の空気に比べればマシになったのも事実だった。これをゲイルのおかげと認めたくない生徒たちは、ミリーが頑張ったおかげだと脳内解釈していた。


ミリーはゲイルに追いつき、ともに教室へと向かう。正直な話、先ほどのような煽りは控えてほしいと思っていた。そのことを伝えようとしたところで、先にゲイルの口が開いた。


「しかし、グルアーノだっけ?魔王だのなんだのと言われてたから恐ろしい奴かと思ったら意外といい奴だったな!」


「…………ゲイル様。今回は偶然揉め事にならなかっただけです。次回からは余計なことをおっしゃるのは控えてくださいね?」


「そうか?あまり気にしないタイプの奴だと思うぞ?」


「何を根拠に……」


「ああいうのを一々気にするような奴だったらミリーに対してあからさまな敵愾心抱くだろ?でもあいつミリーに対しては敵意もなかったしかといって無関心でもなかったし、ちゃんと会話の相手してくれてるしさ。それなら問題ない!」


それとこれとは別な気がするミリーであったが、言われてみればそうだった。そういえばグルアーノについてはどこかで見た頃がある気がした。確か図書館で……。


「兄ちゃんよく見てるだろ?慕ってくれてもいいんだぜ?」


その言葉に色々と思うところがあったミリーは嘆息だけしてゲイルの言葉に一切答えなかった。


無視されたと感じたゲイルはショックのあまり地面に膝をついていた。

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[良い点] >「草生えるww」 そんなゲイルくんが大好きです。 サムズアップ!
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