第54話 風呂場の熱戦
今回は女性陣のお話です。
とある浴室に女子二人が仲良く入っていた。
「ハクアちゃんのしっぽ、とても綺麗ね!」
「でもまだ一本しかない……お母さんは九本あるのに……」
「それはハクアちゃんがまだ子供だからしょうがないんじゃない?」
ハクアはソフィーアに、優しい手つきでしっぽを洗われている。
ソフィーアが触りたいだけかもしれないが。
それからお互いの背中を流しあい、湯船に浸かった。
「私……こういうお風呂初めて……温かい……」
「今まではどうしていたの?」
「水浴び……住んでいたところの近くに……川があったから……」
「それはそれで気持ち良さそうね!今度ゲスト様に水浴びできる場所に連れてってもらいましょ!」
「うん!そうしよー!」
白い耳としっぽが生えてるハクアだが、まるでソフィーアと姉妹のように、湯船の中で話している。
お互い兄弟がいないのもあってか、まだ会ってから1日経ってないのに仲が良い。
「ソフィーアはお姉ちゃんみたい……お姉ちゃんって呼んで良い?」
「私がお姉ちゃん?良いですよ!私はハクアちゃんのお姉ちゃんです!!」
「お姉ちゃんとお兄ちゃんが一気にできちゃった!!」
ソフィーアは急に立ち上がり、主張の薄い胸を張り、ドンと叩く。
ちなみにこういう時は湯気で、隠される場所は隠れてしまう。
浴室の中にある魔物が潜んでいたのだが、見たいものが湯気で隠されているため、悔し顔をしていたのは本人しか知らない。
「でもソフィーアはお姉ちゃんだけど、小さい……よね……」
「ぐはっ!どことハッキリ言わないハクアちゃんの優しさが刺さる……」
「だって……私とそんなに変わらない……」
「がぁっ!そんなに抉らないで……これから!私はこれから大きくなるからいいの!!」
ハクアの衝撃の一言に胸を押さえ踞るソフィーア。
精神力がレッドゲージになるが、開き直ることで持ち直したソフィーア。
腰に手を当て胸を張る。
そのタイミングでリリスとフローラが入ってきた。
「ソフィちゃん何してんの?そんな貧しい物張って!」
「こらっ、リリス!!そんなこと言っちゃダメでしょ!思っていても言っちゃ……ハッ!!」
「二人とも、この家にいられなくしてあげますよ……」
リリスとフローラの発言にキレたソフィーア。
低いトーンでキレるパターンの人は、大体怖いパターンだ。
まるで操り人形かのように、ゆらりと立ち上がり二人に向けて指を指す。
「私……ゲスト様に言ってませんでしたが……魔法が使えるんですよ……『火球』……」
「や、やめよ!今、二人とも裸だから大火傷しちゃう!」
「ボクは平気だよ!レベルが違うからね!」
「そういう問題じゃないわよリリス!!少なくとも私は大変なことになるから!」
ソフィーアの指先で、少しずつ大きくなっていく火の球。
それを目にして焦るフローラだが、ゲストの黒炎でもダメージが少なかったリリスは余裕の表情だ。
ちなみにハクアは、よっぽど風呂が気持ちいいのか、湯船に浮かんでいる。
「ソフィーアちゃん!謝るから許して!」
「考えたんですけど、ゲスト様につく悪い虫は早く駆除しなきゃですよね?」
「それってどういう……ソフィーアちゃんはゲストさんが好きなのね?なら大丈夫よ!一国の王女の私と一介の冒険者のゲストさんがくっつく分けないもの!」
実際、帝国の王女のフローラとただの冒険者のゲストでは、結婚することはまずない。
しかしソフィーアはあり得ない話ではないと考えていた。
「ゲスト様がただの冒険者で終わると思っているのですか?すぐに貴族位くらいもらうと思いますよ!」
「そ、それは……」
「そうなったらフローラさんだってゲスト様のところに行きたがるでしょう?だから今のうちに正妻の座を決めるのです!覚悟ぉ!」
ソフィーアが二人に向けていた腕を振り上げ、火の球が二人に向かって飛ぶように振り下ろした。
バスケットボール程に肥大した火の球が、綺麗にジャイロ回転して真っ直ぐ飛んでいく。
フローラは顔を背け、 しゃがみ込んでしまう。
「いやぁー!!」
「ふんっ!!ボクだって正妻の座を狙ってるんだからね!!」
しゃがみ込んだフローラの前にリリスが立ち、右腕で払うように火の球を消し去る。
そして仁王立ちでソフィーアに向けて言い放った。
「負けないですわ!私はゲスト様とだ、だ、抱き合って寝たことがあるんですから!!」
ソフィーアは顔を真っ赤にして、子供がするように自慢した。
しかしリリスも負けじと腰に手を当て言い放った。
「ボクはゲスト様と熱い熱い戦いをしたもんねー!!死にかけるくらいに!!」
「「……」」
リリスが言ったのは、戦争でゲストと繰り広げた戦いのことだった。
それに対してソフィーアとフローラは、返す言葉が出なかった。
ソフィーアはゲストにどれだけ近いか、どれだけ脈があるかを自慢したつもりだったが、それに対してリリスの答えが予想の斜め上過ぎて、何も返せなかったのだ。
「と、とにかくあなた達には負けませんわ!吹っ飛びなさい!!」
「ボクも負けない!!うぉりゃー!」
ソフィーアとリリスはお互いに『火球』を発動。
両者の火の球が衝突し爆発音が響いた。
浴室内は蒸気で満たされる。
爆発音に飛び起きたゲストが浴室に乱入した。
「な、なにがあった?!大丈夫かぁ?!」
「痛ぁっ!」
「う、う~ん……」
ゲストが浴室の扉を開けたことにより、蒸気が排出され浴室の内部が露になった。
浴室内では、リリスとフローラ、そしてソフィーアがひっくり返ったカエルのような姿で倒れていた。
もちろん湯気で見えてはいけないところは隠れている。
「おいっ!お前ら大丈夫か?!」
「何してるの?お兄ちゃん?」
しれっと風呂から上がり、脱衣場で着替え終わったハクアが、ゲストの背後に立っていた。
「いや、すごい音がしたから様子を見に……」
「お兄ちゃんのエッチ!!」
「ぐはっ!!」
ハクアはゲストを笑顔で睨み、綺麗な右の正拳突きを鳩尾に決めた。
それも普通にやったらゲストに効かないのを理解しているのか、右の拳に強化魔法を使い、威力を増大させていた。
おかげで正拳突きを鳩尾にくらったゲストは、浴室の外までぶっ飛び、意識と浴室内での記憶を刈り取られていた。
華麗な一撃を決めたハクアは、両手をパンパンと払い、満足げに女性陣を起こした。
「お姉ちゃん達!起きないと風邪引くよ!!」
「ハクアちゃん……さっきゲスト様の声が聞こえた気がするのだけど……」
「さっきお兄ちゃんがお風呂に入ってきたんだよ……大きい音がしたからって!みんなの裸を見られると思ったからぶっ飛ばしたけどね……」
「ボクは見られても良かったけどね!」
倒れていた三人も起き上がり、湯船に浸かる。
未だ険悪な感じではあるが、ハクアが止めを刺した。
「あと、ケンカ止めないと幻術で怖いの見せるからね!!」
「「「は、はぁーい……」」」
仁義なき女の戦いは、ハクアの一人勝ちで終わったのだった。




