第55話 工作
まだ朝日が昇る前、オレはベッドの上で目を覚ました。
なんだか鳩尾の辺りが痛い気がするが、記憶がない。
昨日は伯爵が帰ってから、軽く昼寝をするつもりが夜中まで寝てしまったようだ。
なんだか良い物を見た気もするが、きっと夢だろう。
オレはベッドから降り、ある場所に向かった。
「さすがにみんな寝てるか……静かに行くか……」
夜中だけあって屋敷の中は静寂に包まれていた。
起きている者はオレ以外にいないようだ。
静かな廊下を音を立てずに歩いていく。
屋敷から出て、別館にある工房に向かった。
「とりあえず『消音』を壁にかけとくか……」
オレは工房の壁に音を漏らさないようにする魔法をかける。
工房に来たのは、スキル『武具化』を使用した際に使用する、新たな剣を作るからだ。
「さて、素材はあるからいいとして、どんな剣を作るかだなぁ。『業火炎獄』は黒炎だから反対の属性にしてみるか?」
キングを『武具化』で装備した場合、キングの意思で形状変化できるため、鞭がいらなくなった。
空いた片手にもう一本剣を持つとしたら、どういう属性が良いか難しいところである。
今までのメイン武器の『業火炎獄』の黒炎は、火属性と闇属性だ。
この二つの混合魔法を付与された剣の反対の属性は、光と水になる。
しかし黒炎の攻撃を光と水の属性では消してしまう。
「あぁー!!どうすっかなぁー!!どうせならかっこよく戦いたいしなぁー!」
今の自分に何が足りないか、どんな剣なら補えるか考える。
『武具化』したキングのおかげで、防御力が格段に上がった。
他の魔物達の『武具化』は試してないが、キングの対応力はかなりのものだろう。
しいて言うなら火力不足くらいだろう。
黒炎の攻撃もリリスには大したダメージにならなかった。
「風と水で氷結系の魔法もありかなぁー?土と火で溶岩ってのも捨てがたいしぃー。迷うなぁー!!」
このときのオレは、火力とカッコ良さを求めて、大技しか考えられていなかった。
結局は攻撃は当たらなきゃ意味がない。
付与する魔法をいろいろ唸りながら考えていると、工房の扉が開いた。
「お兄ちゃん?なに……してるの?」
「ん?ハクアか。新しい剣を作ろうと思ってね。」
「どんな剣?」
「カッコ良くて強い剣!!」
「ん??よく分からない?」
オレの答えに、首をかしげるハクア。
具体的なことは一切わからない答えだからだろう。
オレ自身、何も決めていないのだから仕方ない。
ハクアは質問を続けてきた。
「強い剣って?良く斬れる剣?すごい魔法が使える剣?」
「それを決められないでいるんだよ。すごい魔法が使える剣とかカッコ良いし。」
「でもお兄ちゃん……剣なくても魔法使える……わざわざ魔法を剣に付けなくても良い……」
「うぐっ……確かに……魔法剣士なら魔法を付与した剣じゃなくてもいいな……」
ハクアは良いところに気づいた。
オレは剣聖を使うこと前提で考えていた。
そうなるとテイマーを外せないことが条件の『武具化』を使い、サブに剣聖を入れると魔法が使えなくなる。
そうなると剣に魔法を付与するしかなくなる。
しかし魔法剣士をサブにすれば、魔法使いや魔導師ほどではないが魔法を使うことができる。
そうなると戦い方にバリエーションが増えてくる。
『蜃気楼』や『黒い霧』などの撹乱させる魔法を使ったり、自分の身体能力を上げる魔法を使ったりできる。
オレは新しい剣の方向を決めた。
「ハクア、ありがとな!新しい剣、決まったわ!」
「お兄ちゃん!頑張って!」
「おうっ!」
オレは早速作業に取り掛かった。
最初に使う材料の確認だ。
元の世界では神話に出てくる金属だが、この世界では希少な金属として出回っているオリハルコン、アダマンタイトにヒヒイロカネだ。
どれもがかなりの硬度を持ち、これらで作った武具は壊れることがまずない。
しかしその硬度のせいか、加工できる職人がこの世界には少ない。
オレはこの三つの金属を使い、新しい剣を作ることにした。
まずはデザインだろう。
使い勝手や戦闘スタイルに合わせて形状を決める。
片手で扱える重さと長さ、そして斬ることをメインとした形状だろう。
斬ることに関して日本刀が刀剣において最強だとオレは思っているが、ありがちな武器だとも思っている。
人気な武器だから仕方ないが、マンガやアニメで多用されているからだ。
そこでオレは日本刀のデザインはなくなった。
「ハクア……どんな形がいいと思う?」
「私に聞くの?こんなのは?」
ハクアは紙にサラサラと剣の形状を書いた。
それはククリ刀と呼ばれる物だった。
ククリ刀はグルカ族と呼ばれる民族が使っていた武器だ
湾曲した特殊な形状で、かなりの切れ味を誇る。
元の世界でも配備されている軍隊が多い。
「ハクアはこれ見たことあるのか?」
「腰にぶら下げてる人いた……変わった形だから覚えてた……」
「なるほどな……よしっ!!これにしよう!!」
オレはククリ刀を作ることにした。
三つの材料を並べ、いくつか試しに作ってみた。
どのように材料を使うかで、剣の強さが変わるからだ。
材料の特性を理解して組み合わせるのは難しいことだった。
剣の部位ごとに材料を分けるのではなく、三つの材料を合わせて合金を作ればいいのでは?という答えに行き着いた。
鍛冶士のスキルと『鑑定』を駆使し、新しい合金の作成に着手する。
材料の比率を変え、いくつものパターンを試す。
しかしうまく結びつかないのか、元の材料の方が強度が高い。
「ダァッ!!うまくいかない!!なんでだぁ!!」
「難しいの?」
「全く新しい金属を作ろうとしているからな。」
工房の外を見れば、太陽が上り鳥が鳴いていた。
屋敷の方からはソフィーアが歩いてきていた。
オレを呼びに来たのか、工房に入ってきた。
「おはようございます、ゲスト様!朝食ができました。ん?何されていたのです?」
「今は新しい金属の作っていたんだ。うまく結び付いてくれなくてな……」
「繋ぎになにか入れてみては?」
「繋ぎにって……料理みたいにか?」
「そうです!やってみる価値はあるのでは?」
料理とは違うだろうがソフィーアの助言を試すことにした。
別の金属のミスリルを少量入れてみることにした。
するとどうだろう、ミスリルの魔力伝導率の高さのおかげか、うまく結び付いて三つの材料を上回る硬度になった。
更にヒヒイロカネの錆びない特性や、ミスリルの軽さまで引き継いでいた。
「ソフィーアありがとー!!君のおかげだ!」
「ふぇ?!い、いえなんてことないです!」
それからいくつかの比率を試し、最も硬度が高い金属の作成に成功した。
そこからはあっという間だった。
金属の形状をククリ刀にするだけ。
「完成かな……試しになにか斬るか……これで良いか……フンッ!な、なんだこれぇ!!」
オレは試しに木材を軽く斬ってみたのだ。
するとどうだろう、なんの抵抗もなくバターを切ったかのような断面が目の前にあった。
更に使っていない鉄の剣を斬ると、あっさりと両断してしまった。
「とんでもない剣作ったかもな……」
オレは額から流れる変な汗を拭い呟いたのだった。




