第53話 逃走
「さて、とりあえずこの場から立ち去るとして、どこで隠れようか。」
「伯爵が一度見た部屋なら入ってこないのでは?」
「それだ!!」
オレ達はリリスとフローラが隠れていた部屋から出て、伯爵の背後を取るように遠回りをした。
伯爵にはソフィーアが着いていてくれるので、連絡を取りながら移動した。
(今、伯爵はどこにいる?)
(浴室にいますわ!湯は張ってないのですぐ出ると思いますが、次は浴室のすぐ近くの空き部屋に行くと思います。)
(了解!ではその後ろの部屋に入るわ!)
伯爵が浴室を見て回っている間に、伯爵が一度見た別の空き部屋に入った。
そこはそれなりに広く、大きめのベッドを余裕を持って置ける部屋だ。
何も置かれてない部屋にオレ達は腰を下ろした。
「たぶんこっちには来ないと思うが、油断はするなよ。今の伯爵の動きは読めん!!」
「わ、わかりましたわ!」
「伯爵とかいう人を力でねじ伏せて家に送れば?」
「それは無理!君たちとオレが追われる立場になるわ!」
リリスがわりと物騒なことを言うからヒヤヒヤする。
オレとリリスが一緒なら、たとえ国に追われていても負けることはないだろう。
むしろリリスは壊滅させそうだ。
(ゲスト様!!お父様がそちらへ向かってますわ!)
(なぜだ!?一度見ただろこの部屋!!)
(早く違う部屋に!!)
(いや!無理だろ?!どうする?!)
今から部屋を出たら、確実に鉢合わせするだろう。
何か良い方法がないか考えるが、焦りで頭が回らない。
リリスは伯爵の意識を刈ろうというのか、ぴょんぴょんと軽く跳ねながら拳を握り始める。
背中を嫌な汗が流れていくのを感じ、刻一刻と時間が迫る。
(くそくそくそくそ!!このままだと見つかっちまう!!)
(あっ!ゲスト様!透明になればいいのでは?)
(はぁ?!透明になれたら苦労はっ……あっ!)
(メレメレさんの出番ですわ!)
あまりに簡単で忘れていたが、オレには透明になる手段があった。
けっしてメレメレの存在を忘れていたわけではない!
善は急げだ、メレメレをすぐに出した。
「お呼びですかい?」
「あぁ!今すぐオレ達の姿を消して欲しい!急いでくれ!」
「なんだかよくわかりませんが、やりましょう!ほいっ!」
オレ達は全員で手を繋ぎ、メレメレに姿を透明にしてもらった。
オレはハクアとリリスと手を繋いでいたのだが、リリスの顔は赤くなるし、握ってる手をギチギチと力を入れているために痛かった。
オレは小声でリリスに注意した。
「あのよ、手が痛いんだが、もうちょい優しくしてくれ。」
「はっ!ごめんなさい、嬉しくてつい……」
「やっぱりここがいいな!すぐに家具を持ってこよう!」
リリスの握る手が弱まったタイミングで、伯爵がソフィーアと共に入ってきた。
オレ達は透明になっている為見えないが、伯爵が変なことを良い始めたので吹き出しそうになった。
「ソフィーア!この部屋を私とお母さんの部屋にする!ゲストに伝えてくれ!」
「へっ?!お父様もこの家に来られるのですか?」
「もちろん来る!」
伯爵が家に来たのでは気が休まる空間がなくなる!
それにフローラとリリスが家にいられなくなる!
まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!
何か良い案がないかと思ったが、ソフィーアが解決してくれた。
「それはお母様も知っているのですか?お伝えしなくてよろしいのですか?」
「私が決めたのだ問題ないだろう!」
伯爵の額に汗が浮かんでいる。
恐らく奥様に頭が上がらないのだろう。
ソフィーアの前で強がってはいるが、焦ってるのはわかる。
キースリング伯爵婦人を召喚するしかないだろう。
オレは伯爵婦人に連絡をとることにした。
(もしもし?キースリング伯爵の奥様で間違いないでしょうか?)
(あら?なにこれ?ゲストさんの声が聞こえるわ。)
(魔法で奥様に連絡しているのです!伯爵が家に来ているので回収をお願いします!)
(あらあら、ソフィちゃんとゲストさんの愛の巣を荒らしているのね?すぐに捕獲に向かいますね!)
ほ、捕獲って……
逃げ出した動物のように言われてますよ伯爵……
とりあえずしばらくすれぱ、伯爵婦人が来て回収していってくれるだろう。
透明になったまま部屋を後にして、オレの部屋に行って落ち着くことにした。
「これで伯爵が住み着くこともないだろう……気疲れが半端ない……」
「ボクはハラハラして面白かったけどね!ゲスト様と手を繋げたし!」
「リリスはお気楽ですわね……下手したら王国に捕まってたかもしれないですのよ……」
「なんだかわかりませんが、役にたてたみたいっすね。」
「助かったよメレメレ……最初から頼めば良かった。」
オレとフローラはぐったりで、何故かリリスはテンションが高かった。
バタンと横になったのも束の間、屋敷に人が訪れた。
「ごめんください!ウチの人がお邪魔していると思うのですが!」
「おっ?伯爵婦人が到着したみたいだな。迎えに行ってくる!」
オレはフローラとリリスを部屋に残して、伯爵婦人を出迎える。
「ようこそいらっしゃいました奥様!」
「お久しぶりねゲストさん!そちらの可愛い子は誰かしら?」
「妖弧のハクア……です……はじめまして……」
「ハクアちゃんね!よろしくね!ところで、ウチの旦那はどこに?」
「案内しますね」
伯爵婦人はハクアの頭を撫でながら、伯爵の居場所を聞いてきた。
伯爵婦人とハクアは手を繋ぎ、オレの案内に着いてきた。
人見知りするタイプのハクアが、平気で手を繋いでいるのが不思議だったが、伯爵をどうにかしてもらうのが先だ。
部屋の前に着くと、伯爵婦人は勢いよく扉を開けた。
「あなた!ソフィちゃんとゲストさんのお邪魔はダメですよ!」
「なっ?!なんでお前が?!」
「ほらほら、帰りますよ!!」
「痛っ!いてててて!!耳が!耳がとれちゃう!!」
伯爵の耳を力いっぱい摘まみ、引っ張っていく伯爵婦人。
あれは抵抗できないわ……
下手に抵抗したら耳がホントに取れるだろう。
耳ってけっこう簡単に取れるらしいし。
そのまま屋敷の外まで連れ出され、馬車に入れられた伯爵。
伯爵婦人が馬車の窓から顔を出した。
「私もみんなと一緒に住みたいと思うけど、ソフィちゃんがゲストさんのお嫁さんになるまでは待たなきゃね!」
「お、お母様?!な、何を言っているのです?!」
「オレには勿体無いくらいですよ!」
「競争率は高いみたいだから頑張りなさいよ!ソフィちゃん!」
「もう!!早く行ってください!!」
オレと伯爵婦人の冗談に振り回されているソフィーア。
顔を赤くして怒っている姿はとても可愛らしい。
伯爵婦人もそんなソフィーアを見て優しい笑顔を見せた。
「ではそろそろ行きますね!」
「はいっ!後日王都に向かう際に伺います。」
「お母様、また遊びに来て下さい!」
「そうね、この人抜きで遊びに来ますね!」
そう言い残して、馬車を走らせ帰っていった。
なんだかすごい1日になったな……
戦場から帰ってきてまだ1日経ってないのに……
「なんか疲れたぁー……今日はもう寝ようかな……ハクアはソフィーアに家を案内してもらいな!部屋も決めていいぞ!」
「うん……わかった……お姉ちゃんに案内してもらう!」
「わかりました。ではその前にお風呂入りましょう!」
オレはそのまま部屋に戻って寝ることにした。
しかし部屋に戻るとフローラとリリスがオレのベッドに横になっていた。
「あのさ、二人して何してるの?変態なの?」
「べ、べべ、別に変な意味はないのです!大きいベッドでしたのでつい……」
「ゲスト様の匂いがするー!」
「はぁー、オレはもう寝るから、二人はソフィーアに聞いて部屋を決めてくれ!今は風呂にいるはずだから。」
「わ、わかりました!早く行きますよ!リリス!」
「はぁーい!じゃ、ゲスト様おやすみぃー!」
フローラはリリスの手を引き、全力ダッシュで出ていった。
やっと落ち着いて寝れる。
オレはベッドにダイブして、そのまま眠った。
微かに残る二人の香りに包まれて。




