第43話 到着
休憩中、ナーガラージャのスペンサーを、キースリング伯爵とフェルマー候に会わせた。
魔物の部隊を任せる、いわば部隊長になるのだ。
現場で統率、指示を任せるわけだ、そんな者を紹介しないわけにいかない。
ドラゴンを見たことがある二人は、スペンサーの姿に臆することなく、普通に会話をしていた。
主に、二人が上司であること、二人の指示に従うこと、裏切れば……ってことだ。
オレとまともに戦うことができなかったスペンサーは、二人の後ろで控えているオレを見て、震えているようだった。
「スペンサーとやらは、相当ゲストに恐怖心があるようだが、何をした?」
「他の魔物と一緒ですよ。ただ何もさせないまま、戦闘不能にしたので、そのせいかと。」
二人の顔は引き吊っていた。
どのように魔物を捕らえているかを、ハクアが全部説明してしまっているからだろう。
これまでの道中、手足が無事でテイムされたのは、ハクア以外いない。
要は魔物部隊全員が、手足を粉砕されてからテイムされているということだ。
抵抗するから仕方がないのだ。
太陽が低くなってきた頃に、王国側の陣地に到着した。
今回の戦場は、帝国との境目で、お互いの陣地が丘になっている。
周囲は木々が生い茂る雑木林になっていて、奇襲には気を付けねばならない。
主に戦いの場となるの青々とした草が生える草原だろう。
三、四年に一度行われる帝国との戦争での定番の場所である。
殺戮のオリンピックなんだなとは決して思ってはいない。
もしそうならオレは金メダルを取れる自信がある。
それはそうと、他の貴族達も続々と集まっており、王国側は総勢五万の軍勢になっていた。
「うわぁ……人がいっぱい……ちょっと怖い……」
「かごに入るか?ドロシー達もかごの中にいるから平気だろ?」
「イヤ!お兄ちゃんと一緒がいい!」
首をブンブン振って拒否された。
ただ戦闘が始まればそうは言えない。
それは理解しているようで、涙目になりながらも我慢すると言ってくれた。
それまでは甘えさせてやろう。
「ゲスト、これから総大将になるハーラルト公に挨拶に行く。お前も来い。」
「あれ?王様じゃないんですか?」
「王はまだ幼くてな……だから今回の戦争は、前王の弟であるハーラルト公が総大将になるのだ。実際に指揮をとるのは別な人物だと思うが。」
アダルベルト王国の現国王は、前王の急死によって、12才になったばかりの長男が即位したそうだ。
その幼さと跡継ぎがいないために、前王の弟のハーラルト公が代わったそうだ。
「わかりました。オレも一緒に行きましょう。それとハクアの同行も可能で?」
「おそらく大丈夫だろう。ハーラルト公は子供が大好きなお方だからな。」
伯爵とオレとハクアの三人は、自分たちの陣地に馬車を置き、中央付近にあるハーラルト公のテントに向かった。
ここではハクアの存在がかなり目立ち、注目を浴びてしまう。
もしイヤらしい目でハクアに迫ってきたら、容赦はしない。
実は伯爵からも許可をとっている。
日本でいう、正当防衛として処理してくれるらしい。
ただ、話を聞くと、日本より甘く、殺さなければ多少やり過ぎでもかまわないそうだ。
さすがに着いたばかりで、揉めることはないと思っていたのだが、あっさり最初の犠牲者が出た。
どこの貴族の兵士かわからないが、オレやハクアへ断りもなく、ハクアのモフモフのしっぽに触れようと、手を出してきたのだ。
オレは、その手を掴み、折らない程度に力を込めた。
「おいっ!勝手に何しようとしてんだぁ?あぁ?」
「ひぃっ!!」
オレは、殺気を最大級に込め、その兵士の目をじっくり睨んだ。
声は低く、あえて怒鳴らなかった。
実際に殺す気はないが、そのくらいのつもりで脅した。
すると兵士は、一瞬声をあげ、股間を濡らし、そのまま意識を手放した。
「これここに置いていくから、同じとこの所属のやつは片付けろよ!でないとオレの仲間のエサにするからね!」
オレは、改めて周囲を殺気ではなく怒気を込めて、睨み付けた。
満足したので、伯爵の元へ戻ると眉を顰めていた。
「ゲストはトラウマを植え付ける天才かな?今、ホントに敵でなくて良かったと思うよ!」
「それはどうも……今味方なのは、あなたがソフィーアのお父様であるからで、依頼を受けたからですよ!」
オレは、中立でいなければと思っていた。
今現在、この世界にオレと同レベルの存在がいる可能性が低いと思ったからである。
もしどれか一方に加担すれば、パワーバランスが崩れるだろう。
と考えていたが、なんとなくだが、他にもオレと似たような存在はいるだろうと思っている。
「味方でいて欲しいときは、早めに依頼してくださいね。」
「あ、あぁ……そうさせてもらう……」
伯爵は額に汗を流して返事をした。
それ以降、無言のままテントに向かった。
結局、あれから一言も交わさずにテントに着いた。
テントの入り口の両脇には、槍を持ち、フルプレートの鎧を着た兵士がたっている。
「キースリング伯爵だ、ハーラルト公爵殿に挨拶に来た。こちらは私の警護だ。」
「お通りください。」
武器は?武器預けなくていいの?それとも持ってないように見えた?
実際腰に下げてるわけじゃないので、いいのかもしれないが。
中に入ると幾人かの貴族が集まっていたようで、話し合いをしていた。
フェルマー候もすでに来ていた。
その話し合いの中で一際存在感を放つ者が二人いた。
一人はハーラルト公、その人だ。
「お久しぶりです、ハーラルト公殿。」
「久しいのぉ、キースリング!そっちの若いのは誰だ?」
「こちらは私の警護を任せていますCランク冒険者のゲストです。強大な魔物を使役するテイマーです。」
「ゲストです。よろしくお願いします。あと、こっちはハクアです。」
ハーラルト公に自己紹介し、ハクアはペコリとお辞儀をしていた。
事前に教えておいてよかった。
ハクアの様子にハーラルト公は笑顔で対応してくれた。
それよりもオレが気になったようで、質問をぶつけてきた。
「魔物を使役すると言ったな。どのような魔物がいる?」
「ドラゴンに悪魔、リザードマンやスライム、種類が多過ぎて答えきれないですね。」
「ドラゴンもいるのか!それは此度の戦で使ってくれるのか?」
やはり戦力になるものは使いたいのだろう。
特に空から攻撃できるドラゴンは、かなり戦況を有利にできる。
「少しで良ければ、やり過ぎると他の人が手柄をあげられなくなりますから。」
「ハッハッハ!!確かにそうだな!皆、武功をあげ出世したいものばかりだからな!」
「ハーラルト公殿、ゲストは今回、魔物達で奇襲部隊を編成しています。検討してみては?」
厳格な雰囲気があるのに、ハーラルト公はとても喜作だ。
魔物の奇襲部隊の話も聞いてくれ、実行することになった。
利点が多く、王国側にデメリットがないことが要因だろう。
実行するのが魔物達なので、王国側と関係ないと、しらを切ることができるのだ。
その後、奇襲以外の作戦も練られ、いつの間にか始まっていた作戦会議が終わった。
会議が終わり、伯爵と陣地に戻ろうとしたときに、一人の男に呼び止められた。
振り向くと、立っていたのは、ハーラルト公の後ろに控え、すごい存在感を放っていた男だった。
「なんでしょう?オレ、何かしました?」
「君はもしや、プレイヤーなのか?」
「えっ?」
オレは、その男の言葉が、一瞬理解できなかった。




