第42話 蛇王
フェルマー候の一件以来、特に変わったこともなく、順調に進んでいた。
以前と違うのが、魔物のテイムを積極的に行っていることだ。
あれから更に、ゴブリン20、オーガ15、オーク13をテイムした。
大柄のオーガとオーク、雑兵程度にしかならないゴブリンだが、小さな部隊を編成するには足りる数は集まった。
しかし、どの魔物も基本的に知能が低く、指揮官になれる魔物がいなかった。
纏まりがないと部隊としての機能が低下するため、知能が高い魔物が欲しかった。
もとからいる魔物を使っても良かったが、使うなら他の部隊に入れたい。
恐らく移動の最終日になる今日、知能が高い魔物をテイムするつもりだった。
前日に立ち寄った村で、ちょうどいい魔物がいる情報をもらっていたので、伯爵の元へキングを残し、森の中を捜索していた。
「ハクア、飽きてないか?」
「大丈夫……お兄ちゃんと一緒だから……」
手を繋ぎながらではあるが、木の根が出て歩きづらい森の中を、ハクアは一生懸命歩いていた。
本当は伯爵の元へ残していきたかったのだが、イヤイヤと、全力で横に首を振り、腕にしがみつかれた。
二、三日経ったがまだ人に慣れないらしい。
それでも会話をすることはできるようになっている。
「本当に……森の中に……強い魔物いる?」
「どうだろうなぁー、オレ達が苦戦する魔物はいないと思うけど。」
今回探している魔物は、魔法が得意らしく、Dランク冒険者がパーティーを組んでなんとか倒せるくらいらしい。
そしてそれが、群れをなしているらしい。
本来、群れを作ることはないらしいのだが、上位種が現れた場合、群れの頭になり統率を始めるらしい。
「ハクアは危ないから、今回は戦わなくていいからな!」
「うん……遠くで見てる……戦ってるお兄ちゃん……カッコいいから見てるの好き……」
なんだか調子狂うなぁ……
オレとハクアは、手を繋ぎながら、どんどん森の奥へと入っていく。
しばらく歩いてみたが、なかなか遭遇せず、諦めようかと思った時、洞窟を発見した。
周囲は異様な雰囲気を放っており、地面には足跡ではなく、這ったような後が無数にあった。
「あそこが巣かな?」
「ちょっと怖い……入りたくない……」
ハクアの手を握る力が強くなり、握るというよりはしがみついている。
ただ、入らないわけにもいかず、オレは歩を進める。
中は鉄錆びの臭いと、嗅いだことのない独特の臭いが漂っていた。
オレもハクアも眉を顰め、ハクアにいたっては鼻をしっかり摘まんでいた。
この洞窟、なかなかに深く、先程から聞こえるジャリジャリと地面を擦るような音の数に、目的の魔物の群れが大きいことが予想できた。
オレとハクアは、音が聞こえた方へどんどん進んでいく。
するとオレ達の足音を聞いてか、五匹ほど魔物が出てきた。
「な、何者だ!我々の縄張りに入ってきたのは!」
「うわっ……ニョロニョロ……私……蛇苦手……」
「そうかそうか、じゃあさっさと終わらせような!」
今回のお目当ての魔物は、ナーガだ!
上半身が人間、下半身が蛇という魔物だ。
似たようなので、ラミアがいるが、種族は獣人に入るらしい。
ナーガと混同されると非常に不快にさせてしまうらしい。
実際ゲームのキャラクタークリエイトの際に、獣人を選ぶと女性限定でラミアが選択できた。
とまぁそれは置いておいて、ハクアが苦手ということで、目の前のナーガを瞬時に始末する。
始末するといっても殺すわけではなく、動けなくするのだ。
オレは全力のスピードで、ナーガ達のしっぽを掴み、一つに縛り上げる。
力を込めすぎたこともあり、三匹ほどしっぽの骨を粉砕してしまったが、問題ない。
残りの二匹も全力で奥に逃げようとするが、 強く縛られたしっぽはほどけず、骨を粉砕されたナーガは悲鳴をあげ、なす術がないようだ。
「オレにおとなしく従うなら、殺しはしないが、どうする?」
「我々が従うのは、スペンサー様のみ!お前などに従うか!」
「ならそのスペンサーとやらを捕まえないとな!」
仕方ないので、ナーガ達を縛ったまま、奥へと進むことにした。
ただ歩を進めれば、続々とナーガが現れ、先程と同じように縛り上げる。
どのナーガも従うつもりはないようで、スペンサーとかいうナーガを探すことにした。
恐らくナーガ達を30匹ほど縛り上げ、最奥と思われる場所に、一回り程大きなナーガがいた。
「蛇王」、ナーガラージャと呼ばれる、ナーガ種の最上位にあたる魔物だ。
ナーガラージャの出現は極めて稀で、オレもテイムしていない。
実はゲーム内でチャンスはあったのだが、瞬殺してしまったのだ。
思わぬチャンス到来だった。
「誰だ!ボクの手下達はなにやってんの?!」
「全部縛ってあるよ!きつーくね!君がスペンサー?」
縛ってきたナーガ達が言っていたスペンサーは、このナーガラージャだろう。
それともコイツの部下の誰かか?
「いかにも!ボクがスペンサーだ!ヒューマンが何の用?ボク忙しいんだけど?」
「単純だよ!オレの駒になれ!『テイム』!」
「なっ?!ガァッ!」
さすがにいきなりテイムは無理だった。
仕方ないので、人間部分の両腕を潰し、蛇の尾を握り潰し、他のナーガの前へ引きずり曝す!
大昔に行われていた、市中引き回しに近い状況だ。
市中引き回しといえば、馬に繋いで引きずり回すイメージがあるが、実際は死刑囚を馬に乗せて、民衆に曝す目的があったらしい。
オレは、「あなた達の上司は何もできずに捕まりましたよ」というアピールをしたかったのだ。
他のナーガ達は心が折れたのか、がっくりとしなだれていた。
「どう?スペンサー、言うこと聞くかい?」
「は、はい……あなた様に従います……だから……殺さないで……」
「はぁ、最初からそうすれば良かったのに。」
スペンサーがテイムを受け入れたの知ったナーガ達も、全員テイムを受け入れた。
これで魔物部隊の増員と指揮官が確保できた。
あとは、王国側の総指揮官に話を通してもらって、実行するのみだ。
これで総数が、ゴブリン30、オーガ15、オーク20、ナーガ30、ナーガラージャ1の部隊になった。
「帰ろうかハクア!」
「ニョロニョロ……気持ち悪かった……早く帰る……」
オレはハクアを背負い、全力ではないがダッシュで森の中を走り抜けた。
終始ハクアは声をあげ喜んでいたが、置いてかれても困るので、できるだけ急いで帰る。
別に待っていろと言ったわけではないが、戦場に着くのが遅れるのはまずい。
街道を進むと言っていたのを思い出し、森を出てからは街道を走った。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!!道ボコボコだよ!!」
「えっ?!なに?うわぁ、ホントだ!」
オレの蹴り足が強いのか、道がオレの足跡を残すようにボコボコになっていた。
しかし気にしてもしょうがないので、合流できるまで走り続けた。
森を出てから15分くらいで、最後尾が見え、合流することができた。
「はぁー、やっと着いた!森の中は走りづらいわぁー!」
「お兄ちゃんすごい速かった!また私を背負って走って!!」
「また今度な!」
最後尾の兵士に顔を見せ、伯爵の馬車まで向かう。
伯爵の馬車には、フェルマー候も乗っており、暇潰しの雑談をしているようだった。
オレは、走っている馬車のドアをノックし、そのまま乗り込む。
「よく戻ったな。して例の魔物は捕らえることができたのか?」
「はい、もちろんです。 それとは別に30匹程テイムして来ました。」
「伯爵が羨ましいな!このように優秀な冒険者がいるのが。」
フェルマー候は、伯爵に羨む視線を送っている。
伯爵は気付いてないふりをして、視線を合わせようとしない。
見てるとただただ仲が良いようにしか見えない。
「残念ながら、ゲストは娘のフィアンセにと……」
「はぁ?!」
思わぬ発言に、大きな声をあげてしまった。
ハクアもオレに視線を向け、首を傾けていた。
「オレは、聞かなかったことにしますね……あ、あと次の休憩の時にでも例の魔物をお見せしますよ。」
オレは、それだけを言い残して、ハクアと一緒に馬車を降りた。




