第二章 capter-3 瓦礫の山
「……そうか、オサビが。……非常に残念な結果になったな。惜しい人間を亡くした」
カカサマが俯きながら、淡々と言う。
戦闘が収まって須賀谷が待避所に行き状況説明をした時はカカサマは目を伏せて泣くのを堪えていたが、それでも気を持ち直したようだ。
近くに視線を送るとシラヌイもその場で伏せ、声も出さずに黙っている。
こちらにきたイフットと順は事情を知らないようだが、俺ばかりは分かる。こいつらの辛さが。
高々14歳の子供、そして9歳の女子にこの現実は、辛い。
何故こんな若い奴らが……自分の元仲間と戦ったりだとか、先輩に命を狙われたりだとか、こんな悔しい目に逢わなければならないのだ。
ーー自分の力の至らなさに悔しく思う。くそが。
怒りのぶつけようが分からない。それに、あの蕨とかいう卑劣な手を使ってきた妖魔の女。
あんなものと千年も戦い続けていたのか、この国は。
……敵が憎い、憎すぎる。
外部の自分でさえこんな調子なんだ、当の本人達はやり場のない怒りにやばいはずだ。
既に救急部隊が到着し、負傷した生徒を運んだり亡くなった生徒を搬送したりしているが、人手が足りないようである。
その光景は直視するのに、耐えなかった。
「済まなかったな。客人の御蔭で御蔭でカカサマを守れる事が出来た、礼を言う」
会議室にいた時に入ってきた教師が、頭を下げてくる。
「俺達のお陰じゃないです。……シラヌイやここの生徒のお陰ですよ」
須賀谷はそう謙遜しながらも、荒れたグラウンドを眺めた。
「異国人である君達には国からの正式な恩賞をだす事は出来ないが、うちから金一封くらいは送らせてもらおう」
教師はその横に、言ってくる。
「……ありがとうございます」
「しかし、ヒオウ学園と言ったか。そちらの生徒は強いな。我々にも魔法というものを使えるものがいれば良かったのだが……」
「いえいえ、向こうの生徒はここの生徒と違って身体能力はそれほどありませんからね。妖魔相手には距離をとるしかないんですよ」
須賀谷はそう説明する。
自分のアーマーも見られてないし、これならいいだろう。
「そうか、それではわしは事後処理にいってくるよ」
男が出て行ったので須賀谷がそのままゆっくりと踵を返した時、何かをみつけた。
……全裸の男がうつ伏せで倒れている。
無念だろうな、そう思いながら顔を覗き込むとーー。
そこで、倒れていた男に驚く。
……こいつは、カゲロウ? 蕨にやられて、燃やされたはずでは……?
喉元に手を当てると、脈がある。
「……この男……生きて……いる……?」
須賀谷はそう、口に出した。
そしてすぐさま、カカサマの方へ向かった。
数分後、シラヌイとカカサマを連れて現場に戻る。
「……俺は助かったのか……。いや、地獄なのかもな。……極刑は覚悟している」
須賀谷が頬を軽く叩くと息を吹き返したカゲロウは、最初こそ自身の生存に驚いていたようだったが、状況を話すとそう覚悟を決めた様子で言ってきた。
戦闘前に奴が脱ぎ捨てた上着を返してやると、……かたじけないと頭を下げてくる。
見つかったら教師からの視線も痛いだろうし、当人は相当辛いものがあるだろう。気が気ではないはずだ。
そこに向かってつかつかと歩いていったカカサマは白い越中とズボンをカゲロウに投げつけると、言った。
「少なくとも、今の状況ではお前が寝返ったことを知る人物は私とシラヌイしかおらん。……それと、前を隠せ」
「……面目ない」
カゲロウは下も履くと、それから正座をした。
「処分は追って決める。それまでは謹慎じゃ。反省部屋に入っておれ」
カカサマは少し厭な顔をして、背を向ける。
……これ以上は、俺がいても意味がない。
須賀谷はこれ以上は内部の問題だと思い、イフットと順の元へ戻ることにした。
横を通りすがるときにシラヌイが軽く会釈をしてきたので、それに返した。
「おお、二人とも無事だったか」
歩いていくと中庭でベンチに座っている二人を見つけ、右手をあげて合図する。
「途中で順さんが来てくれたからね。それで一気に敵は総崩れになったよ。それよりそっちの事こそ、心配だったんだよー」
イフットが抱きついてきたので、頭のてっぺんを爪でがりがりする。
「痛い痛い」
そう主張してきたが、照れくさいので何も言わなかった。
「……士亜、お前は何処で戦っていたんだ?」
順がふぅ、と息を吐くと軽い態度で聞いてくる。
「……あぁ、昇降口付近で向こうの幹部と、交戦した」
そう告げると、順とイフットはちょっと驚いた顔になった。
「大丈夫なのか? 怪我はないのか?」
そして軽く、周囲をぐるぐる回って怪我の有無を見てくる。
「電撃を食らったが……なんとかなった。鍛えられてるからかな」
須賀谷は作り笑いをすると、心配ないよと首を振った。
「そうか、それならいいが……」
順はその様子を見て安堵すると、うーんと背伸びをしてみせる。
「これから、どうする?」
近くに見えた水場に行き、手を洗ってから少し目を擦る。
「とりあえずは一言、言って旅館に戻るか。彼らに連絡先だけは伝えなければならないしもうすぐ夕方になるしな」
そう言ったので、二人は同意してカカサマのところへ戻ってから、旅館へと歩き出した。
心なしか二人とも、疲れているように見えた。
「よーっす、お前らも此処に泊まるんだな。俺らは昨日は安宿だったが最後くらいはってことで最終日は豪勢なここにきたんだ」
日も暮れてチェックを済ませると、旅館の土産コーナーで浴衣を着たニリーツと出逢う。
今更ながら厳格な学校とこの旅館を比較すると、何だか雰囲気的に別世界のように感じた。
「あぁ、そっちもか。今日は観光をしてきたのか?」
とりあえず気軽に話しかける。昨日の朝はそういえばかなり食事に難儀していたっけな。
「おぉ、寺院とか建造物な。何というか含蓄ある建物を見て結構精神的にリフレッシュが出来たよ」
ニリーツはそう楽しげにいうと、アルヴァレッタも無茶苦茶はしゃいでたんだぜ、と言う。
「そっちはどうしてたんだ?」
「ちょっとした事件に巻き込まれてな。食い逃げを捕まえてた」
そう軽く嘘を言っておく。妖魔の話など、信じないだろう。
「へー、やるねぇ」
ニリーツは関心してみせる。が次の瞬間に頭を後ろから小突かれた。
「ヴぁ!」
変な声を出した後にむっとした表情になり、
「痛ぇなこんにゃろ! アルヴァレッタ!」
振り向きながらニリーツは文句を言う。後ろから叩かれただけで誰がやってきたか分かるのは凄いな。
「なんか変な事言ってないでしょうね」
「言うか馬鹿」
この二人は人前だと軽くふざけあいをする。
「そちらも相変わらずだな」
順はアルヴァレッタの横にくると、羽根は伸ばせたか、と小声で聞く。
「まーね」
アルヴァレッタは順にはちょっと楽しそうな顔で、そう返事をした。
……まったく、リア充め。
「さて、一旦部屋に入ろう」
それから一通り雑談をしてから、順はそう言う。
色々疲労困憊だし、それでいいよな。




