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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP3ー虚心坦懐
33/36

第二章 capter-2    襲来(3)

 蕨は言い終えると勢いよく走り出してきて、間合いを詰めてきた。

「フン!」

 まずは右による牽制、そして左パンチがくるのでスウェーバックでかわす。

 そして拳を繰り出した隙をとろうと剣で突き刺そうとした瞬間、膝に違和感を感じた。

「何!?」

 向こうは両足で飛び込み、こちらを挟み込んできた。……倒す気か!?

 そう反応をしたが、時は遅かった。

「掛かったわね。これぞジュウジツ! サンダーカニバサミ!」

「ぐぉぉぉ!?」

 瞬間的に全身に痺れを感じ、思わずタマチルツルギを落とす。

「はっはっ、私の技にかかった時点でお前の負けだ! 体内電気をコントロールして足から1万ボルトの電気を流す荒業だよ! 全身焦げながら血を吐いて死ね!」

 蕨が小馬鹿にした表情で嘲ってくる。

 膝元から電撃が全身に流れ、焼け付くような痛みがくる。ぶすぶすとすぐに自分の肉が焼ける臭いもしてきた。

「ぐぁぁぁあぁ!」

 耐えようと踏ん張るが、ついに累積したダメージに膝が落ち、倒れこむ。

「須賀谷ッ!」

 シラヌイが叫んでくる。が、奴もまた複数の妖魔に牽制されて動けない。

「ジュウジツというのは体内の気をコントロールするものだ。人間にとって微弱な筋肉の電気信号でさえ妖魔の肉体ならばここまでのパワーが発揮できる」

 そう得意げに蕨が言っているが、だんだん耳が聞こえなくなってくる。

 吐き気がくる……くそ……死ぬ……!?

「いや……まだだ! 『エクステンション!』」

 だが心は折れない。足で挟まれたままでデバイスの存在を思い直し、起動させる。

 これで消し飛べ!

「きゃぁぁ!?」

 念じたすぐ後に武装転移に伴う衝撃波が発生し、蕨を跳ね飛ばした。

「……許さんぞ」

 電撃から開放された須賀谷は肩で息をしながら、蕨を睨み付ける。

 そこにはマクシミリアン式鎧を模したデザインながら所々違う、白き鎧の騎士の姿があった。

「白い……甲冑? どうやったの?」

 蕨が呟いた。

「教える義理はない。……こんな事をする奴は、もう人間とは思わん!」

 須賀谷は言い切ると、タマチルツルギを拾い上げた。

『AIーkagaribiβ2です。いつも姉がお世話になっております。認証は完了しました』

 篝火の声が耳に響く。

「お前がガイドか」

 そう呟くと、耳の隅ではい、私がダメージコントロールとレーダーの代わりをしますと聞こえた。

 体の調子がいい。このアーマーは、自分の身体能力を強化してくれているようだ。

「これならば……いける」

 須賀谷はタマチルツルギを正面に構えた。

「……いいだろう、そういう事ならば手駒を使うのみ」

 その隙に飛び道具を警戒して蕨は飛びのくと、さらに一人の山高帽の生徒を無言で須賀谷の前に立ちはだからせる。生徒のその顔には生気を感じない。

「なんだ、あいつは?」

「エージェント オサビ! まさかあいつも裏切って……」

 後ろの妖魔を倒したシラヌイが合流しつつも、そう驚いてみせる。またあいつも知り合いなのか。

「あいつはおれと友人だった。同学年で暫く前から失踪して欠員になって……だから俺の仕事が増えていたんだ」

「成程。ではこの男も利用されているという訳か……」

 納得して、頷く。

「オサビ! カゲロウは死んだ! こいつらに利用されていたんだ! 目を覚ませ! 戻って来い!」

 シラヌイは必死に声を上げる。

「言っても無駄さぁ。シラヌイィ!」

 だが、そこへ蕨が口を挟んだ。

「何!?」

 今にも食って掛かりそうなシラヌイが眼を見開く。

「この子は自分の意思で下ったカゲロウとは違うよ。……脳を改造したのさ」

 すると蕨が、ふふっと笑った。

「……っ!」

 言葉を聴いた瞬間、シラヌイは愕然として剣を落とした。


「鹵獲して、手術してやっただけだ。この子は既に戦闘マシーンでしかない。元より、元々機械のような子供だったがな」

 蕨が冷酷に、そう言う。

「最後の言葉はなんだったかな? 友人が仇をとってくれる……だっけかな? まぁそんな事はできないでしょうけどさ!」

「……っ」

 その言葉は、須賀谷を本気にさせるのに十分だった。だが、それでも言葉を捻り出す。

「それでは……こいつは二度と……」

「あぁ、何を言おうとしているかは分かるさ。だがね、決定的なことをいってあげる。私をたとえ倒したとしても……この子は元には戻らないのさ!」


 ブチン。


『アブソーブエナジー開放。心拍数上昇しています』

 アラート音が鳴ると共に、耳元に篝火による警告を受ける。

「救いようがない……! 死ぬ覚悟は……出来てるよな?」

 須賀谷は足を一歩踏み出すと、タマチルツルギを構えた。

 剣の出力が普段の倍近く出ていて、自分でも恐怖を覚える。

「さぁ、やっちまいな!」

 蕨の命令に反応しさらに地面から湧き出た妖魔達と、エージェント オサビが飛び掛ってくる。

「……須賀谷、やってくれ。あいつは……おれには無理だ」

 シラヌイの涙を堪える声が聞こえる。

「……分かった……安らかに眠れ!」

 須賀谷はそのエージェントと妖魔を一撃で全て、切捨て去った。


「ちょっと、冗談でしょ……? こんなにあっさり切り札が……?」

 目の前の光景が信じられないといった様子で蕨が一歩、退いてみせる。

「話が違うじゃない! 喩えカゲロウがやられてもオサビを出せば根が優しいシラヌイは落ちると踏んでたのに、何よあの男! 計画外よ!」

 そのまま喚くが、そこへ向かって須賀谷が無言で一歩、進む。

 カチャリカチャリと、甲冑の歩行音だけが地面に響く。

「ひっ……!」

 蕨の表情が、変わった。


 こちらの無機質な仮面を見て蕨は取り乱す。

 そこへ毅然とした態度で一歩一歩詰めていく。

「……何か言い残すことはあるか」

 至近距離まできて、問い詰める。

 後悔の言葉があるか、何かひとつでもあるか……。

「隙有り! ジュウジツ! 冷凍チョップ!」

 それに対して手刀が振り下ろされて、肩口の装甲が凍った。

「ーーそれがお前の答えか!」

 ……頭にくるな。そういう事は!

 須賀谷は、右手に力を込める。

「ーーうぐぇ……ッ!」

 容赦せず拳が蕨の腹に入り、声にならない悲鳴があがる。

 眉間に皺を寄せた蕨はその場に倒れ伏した。

「……俺は滅多な事じゃ怒らない。だが、貴様はやり過ぎだ」

 歯軋りをしながらも須賀谷はそう低く唸った。

「へ……ヒヒヒヒ……騎士……か。大層な名前だがあんたは妖魔と変わらない」

 だが、蕨は唾液を口元からたらしつつもそう笑ってきた。

「何が……おかしい?」

 相手の首元の襟を掴んで起こすと問い詰める。

「あんたの……力の元は結局は暗黒。結局は我々妖魔と変わらないのさ、私には分かる」

「……っ」

 余裕を持った顔だ。

「貴様は、フランベルグという子供を知っているか」

 揺さぶりを無視し、須賀谷は壁に蕨を押し付けて尋ねた。

「あぁ……うちと協力関係にあった子供の事ね。……でも、それが何か?」

「奴らの目的、組織、それを洗いざらい言ってもらう」

「……大胆な事ねぇ。屈辱だわ」

「……ふざけるな」

 壁に押し付け腕を捻りあげる。

「……ぐっ! 私は妖魔よ。そんな事は意味がない!」

 だが蕨は一回転して技から抜け出すと、手を振り払ってさらに合図と共に地面から妖魔を出す。

「まだ時間稼ぎをする気か!」

 須賀谷は地を蹴ると、妖魔を脳天から顎まで叩き割った。

 そしてさらに距離をつめ、タマチルツルギで蕨の心臓を貫く……!

「がっ……!」

 蕨の顔に、苦悶の表情が浮かぶ。

「覚えておきな。私は妖魔最高幹部の蕨。首領の匙加減で復活も可能なのさ。次に逢う時はまとめて殺してやるよ。いつか討ちにおいで、何年後かは知らないけどねぇ! その時は絶対、後悔をさせてあげるわ!」

 蕨は大胆不敵に笑うと、そのまま血を吐いて全身溶けてしまった。



 シラヌイはその場に座り込み空虚に目から光を、消している。

 須賀谷はそこへ歩いていき、肩を軽く叩いてから抱き起こす。

 ーー指揮官を失った今、妖魔の進行は明らかに遅くなっている。

 順たちの手で全滅するのも、そう遠くはないだろうーー。

 

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