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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP3ー虚心坦懐
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第二章 capter-1  邪霊の胎動(2)

「ぬ?」

 何がおかしいのか順が素っ頓狂な声を出す。だが流石だ。こんな早く片付けるとは。

「やったのか?」

「待て! 違う、私じゃない」

 突破口かと逃走の為に足を踏み出したところで、順が首を振った。

「え?」

 横からも疑問の声が聞こえる。イフットにも見えなかったようだ。

「じゃあ、誰が……」

 言いながらも怪物のほうに向き直る。するとその背後に、見慣れない帽子を被った黒髪の少年がいた。

 身体的にはかなり小さいが体付きは筋肉質であり、その顔付きも精悍で、渋みを感じる。

「……抹消する……妖力燃焼!《天網恢恢・圧切!》(てんもうかいかい・へしきり)」

 さらに少年が一声をあげて懐から鋭い実体剣を取り出して薙ぐと、周囲の化け物が数体輪切りになって吹き飛んだ。

 ……なんという、威力だ。

「助けてくれた……お前は人間なのか?」

 何者だと咄嗟に、3人は身構える。

「驚いたな、おれたちエージェント以外に妖魔相手に戦える人間がいたとは。何者だ?」

 少年の声はきりっとしていて、力強さがあった。

「……ただの観光をしていただけの騎士だ。それよりこいつらは?」

 順がまずは、言い返す。

「……騎士? 常に鎧を着ているイメージがあったが……」

「こっちも襲われると分かっていれば……準備くらいはしたさ」

 須賀谷はそうぶつぶつと言う。

「私達はブレイズクレイドルの近くにいたんですが……此処は何処です?」

 さらにイフットも質問を投げかける。

「こいつらは妖魔。かつて人だったが、強靭さというものに惹かれて人を捨てたものだ。そして此処は奴等の作ったテリトリーで、妖魔界デザイアという。……有り体に言えば君達は巻き込まれたという事になるな」

 それから襲い掛かってきた妖魔の一体を真っ二つにしつつ、少年はそう表情を崩さず真面目な顔で説明してきた。

 不思議と態度が誠実なのが分かり、安心感がある。

「妖魔界……?」

「下らぬ女が作った世界だ。前政権から放逐された何百年もの前の話を引きずりつつも指導力を持って、非合法組織ヴェリエントを率い人を妖魔化させてナガオカを乗っ取ろうと考えている」

「そんな事がヒオウのすぐ近くにあったなんて……」

 クリムゾンノヴァでイフットが妖魔の一体をなぎ倒す。

「……おれは朝廷のエージェント、シラヌイだ。取りあえずここを片付けたら元の世界に戻してやる」

「……敵は無限湧きしないのか?」

「妖魔はそれぞれが一個一個の生物。故にそういう不可思議なことは存在しない」

「成程」

 そう雑談をしているうちに、敵の数が0になった。

「さぁ、出口はここから近い。此処にいるとまた敵も集まってくるだろう。こちらに着いてくるといい」

 エージェントシラヌイと名乗った少年がそこで走り出したので、クリムゾンノヴァの召還を解除してから3人はその後を追った。


「……この通りをいけば元のナガオカに出られる」

 幾らか歩いた後にシラヌイが振り向き告げながら、ポケットから名刺を取り出す。

「……ここにいけば取り敢えずはおれたちエージェントは力になる。多生の縁ということでな」

 そのまま須賀谷の手に渡すと、再び少年は元の場所に引き返していこうとする。

「お、おい。何処へいく?」

 疑問に思ってそう尋ねると、

「おれは探し物があってこちらに来た。まだ入ったばかりなのでな」

 そう言ってシラヌイはまた戻っていった。

「……これからどうする?」

 順の提案に、

「取り敢えずはこのまま戻るか。旅館に戻って作戦を練らないと今の装備じゃここにいるのも辛いだろう」

 須賀谷はそう言い、イフットも頷いたのでそこでこの日は旅館に戻ることとなった。


 ……その翌日の朝、3人で名刺に書いてあった場所に向かう。

 アロンソから貰ったナガオカの地図を頼りに行くと、古臭い木造で出来た学校があった。

「……なんだこりゃ?」

 訝しい目付きで校舎を見る。すると周りから爺さんの警備員が出てきて、しゃがれ声で何か御用ですか? と言ってきた。

 校舎はぼろくさいが、セキュリティはちゃんとしているのか。

 ……不審者扱いもいいところだな。

「……この名刺を貰ったのですが」

 警備員にさっと、名刺を見せる。

 ……すると、警備員の目付きが変わった。

「校長室へ取り次ぎます。カカサマがいらっしゃいますので」

 警備員は急に姿勢をただすと、そうきびきびとした動作で頭を下げた。


「……ここの生徒は男ばっかりだな。一部なんか中性的なのもいるが」

「此処は、生徒は男しかおりませんぞ?」

 廊下を一緒に歩いていると警備員の、爺さんがそう言ってくる。

「男子校なのか。今時珍しい」

「……このあたりの女子生徒は何処へ進学するので?」

 横からイフットが口を割ってくる。

「女子校が同じくありますですじゃ」

 ……へぇ。何か分けざるを得ない事情でもあったのやら。

「しかしそれにしても、休日に何故生徒が?」

「この学校の体制は月月火水木金金。休日なんぞ存在せぬよ」

「……うへぇ」

 ……爺さんがそう言った時、本当この学校に進学しなくてよかったと胸の中で思った。



 5分くらいすると、畳敷きの部屋に通される。仄かに空気が重苦しい。

 部屋の隅にはよく磨かれている高そうな壷があり、緊張感を漂わせた。

 ……ヒオウでも朝霞でもこんなのは、見たことは無い。

 部屋の奥では、座布団で胡坐をかいている女の子がいる。

 須賀谷達は畳の敷居を踏まないようにそっと注意して歩き、お座りくださいといわれて座布団に正座で座った。


「カカサマというのはいつ来るのですか?」

「……私だ」

 手元に出された蜜柑を食べ終えてから小さい子に問いかけると、ちょっといやな顔をしてからそう返事をしてくる。

「……失礼ですが、お幾つで?」

「9だ。悪いか」

 ……子供じゃないか。何の冗談だ。

「先代が隠居しているからな。仕方が無い」

 文句を言おうとしたとき、先に少女……よりも小さい。初等部くらいの子供はそう返してきた。それからさらに、続ける。

「ヒオウの人間は俗物ばかりと聞いていたが、お前達はそれほど変な気質は持ってないようだな」

 人を見下すようなことをよくも言う。

「……そう、ですか。」

 順は適当に相槌を打ち、本題に進めた。

「さて、何か話があるようだな。私に言ってみせい」

 カカサマは興味深そうにそう、言ってくる。

「妖魔に対しての色々な話を聞きにきた。我々は観光に来たこの先で妖魔に襲われたもののシラヌイという男と共闘して潰したが、色々解せなくてな。それからここに紹介を貰った」

 順はそう、一気に言う。

「こちらも相応の組織なので手の内は全部明かすことはできんがなぁ。だが、あのシラヌイが紹介状を出すとはよほどのことだ。それに乗って、話してやろう」

 それからぽつりぽつりと、カカサマは話を続けた。

「まずはこのナガオカの成り立ちから関係しておる。実質千年前のグスタフの乱により時の政権が倒れるまでは、我々は表の公安をやっておった。その時にグスタフと内通していたという事で先祖が政府内から追放したのが、今の妖魔の首領じゃ」

「……なんと」

「千年も前の話じゃ。体力が無くなって時の政権はまあ倒れたが、グスタフ一味も死滅。首領のみが追放という事になっておった。本来は外患誘致で死罪だがの」

「……ふむ」

「まぁそれで、どこかで行き倒れていればよかったんだがなぁ。奴等は千年もの間、生き延びていたのだよ。酷いババァだ。私のところはそのまま民主的に出来た新政府においてもこうして何百年もの間、裏公安として妖魔と戦っておる」

「へぇ……」

「とっととくたばればいいものの、なんとふしだらなことよ」

 カカサマはふんと言うと、足裏でどんと畳を蹴った。

「さて、話を続けるぞ。エージェントについてはここの学校で選ばれた人間がなれる超生徒、という制度だ。シラヌイはその中等部でも相当な優秀ないい男だ」

 それから近くの水差しを手に取り、湯飲みに入れて自ら飲む。

「……ふぅ。我々とてエージェントは元々多数持っていたが、シラヌイが国外任務についていた間、狙い済ましたかのようにうちのエージェントが多数失踪したり殺されたりもした。私が今気に食わないのはここだよ。お陰で人が足りない」

 そして、煎餅をがりっと噛んだ。

「へぇ……国外にも出るんですか」

「うむ。この前まで奴は、ちょっとした誘拐事件を調べていてな。何でも、フランベルグとかいう若造が……」

「フランベルグ!?」

 その言葉に、順が食いついた。

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