第二章 capter-1 邪霊の胎動(3)
「……そいつの髪色はなんだ?」
須賀谷も便乗して質問を投げる。
「……緑だと、聞いていた」
カカサマが言う。
「……須賀谷、イフット。この話、乗るぞ」
「え?」
「連休はあと二日だ。ここで功績をあげない手もあるまい」
言いようの無い自信を感じる。
「……分かったよ、しょうがないな」
だから須賀谷は渋々、頷いた。どうせ言ったって聞きっこない。
「ならば、多少の支援をしよう。シラヌイが見込んだのならば相応の人間のはずだ。何か入り用の物はあるか?」
カカサマが、尋ねてくる。
「……ならば、電信通話装置を貸してくれ」
順は自信を持った声で言った。
「はい、こちらヒオウ学園生徒会室です。ただいま留守にしておりますので、ピーっと」
「私だ、篝火。居留守を使うな」
「……何です? こちらは祝日で薮崎さんは釣りにでてこの場に居ません。ご用件は?」
電話先から、篝火のやる気の無い声が聞こえる。
「寮の士亜の部屋からタキオンマグナムを持って転送してきてくれ。転送座標は私のデバイスでいい」
「……了解。しかしずいぶん遠くに居ますね。お土産よろしくお願いします。番号は記憶したので送る時に折り返しかけますね」
「……承知した」
電話を一旦、切る。
「……つまりここで暴れて、相手の戦力を減らすということですね?」
イフットがそこで、落ち着いた声で言った。
「あぁ、フランベルグとこの敵組織、ヴェリエントは繋がりがあると考えていい。どでかいペーパーゴーレムのようなのをまた作られる前に、ここで妨害できるチャンスだ。……それにばばぁと言うものが、知識を持つものならば千年前の遺跡の情報などが手に入るかもしれない。そうすれば古海の研究も進むだろう。いいことだらけだ」
「……ですがそう、上手くいくものかな」
須賀谷は口を挟む。
「何故だ?」
「緑はともかく、青いフランベルグが出られたら俺達は正直勝てる気がしない。それにあのシラヌイって人だってどれだけ頼りになるかはわからないし」
「……確かにな。だが、この前の我々の行動の結果、リーブラ鋼が手に入っている。これさえどうにかなれば……」
順がそう言い掛けたところで、電話が鳴った。
「はい、もしもし」
「目標物を発見しました。弾丸30発と一緒に送っておきます。あと、古海設計士からの連絡があるので電話を代わります。須賀谷さんに交代してください」
「須賀谷に? 分かった」
そこで、電話を交代する。
「士亜です。代わりました」
「古海です。群雲さんにケイラウトアーマーの改良が終わったとお伝えください。改善点は装甲強度の増加と、ジェネレータの出力効率上昇です。単純に言えば装甲の張替えと内部のパワーがあがって拳と蹴りの威力が上がったと考えてください。……あと、士亜君。君用の新しい鎧もデバイス呼び出し式にして早速作ってみたので使ってみてください。実践投入いけるから」
「デバイス?」
「あぁ、群雲君のデータから作り出した君用のアーマーになります。デザインは篝火が設計しました。名付けてEX-maximilian、縮めてエクシミリアン。装甲にリーブラ鋼を採用し、篝火が解析したティソーナの駆動機関をデッドコピーして補助動力にしているので、群雲君の機体よりも稼働時間は長くなります。今のマクシミリアン式を越えるものになり、片手でタキオンマグナムを使っても手を傷めなくなります」
そういえば帰ってきた日は筋肉痛になっていた記憶がある。
「……ありがとうございます」
「……あと、それには教育型AIが搭載してあるんですよ。篝火2号β。彼女の声で戦闘中のナビも出来ます」
少し嫌な予感がしたが、はいと頷く。
「それではあまり国際回線を使うと料金を取られるので切りますよ。学校から請求書をもらいたくない」
そう言い残し古海は、電話を遮断した。
「……それにしても今思ったんだが……」
電話を切った直後、須賀谷は口を開く。
「何だ?」
「この前の大会の時、何故電話で朝霞と連絡を取らなかったんだ? 手紙だったのは何故なんだ?」
「あぁそれか。朝霞に電話がないからさ」
順はそれに対し、そう言ってのけた。
「ジュウジツ!」
昼休みに投げを食らい、須賀谷は吹き飛ぶ。
「ぐぉぁ!?」
デバイスの最終メンテナンスをして貰っている間にここの生徒相手に組み手を手伝ってもらったが、中々に強い。
カカサマが一段高いところから見ているが、しったことではない。
彼らはエンチャント・ナックルのような魔法技こそ使えないものの、ここの生徒は単純に体術において自分よりも優れていた。
……すばしっこいし、パワーも比較的ある。
「……色々勉強に、なるな。ありがとう」
須賀谷はそこにいた生徒に話しかける。
「押忍。ですが私めはぷろてくしょん・はーどなんとかという物に羨ましさを感じます」
「……あぁ、あれか」
立ち上がりながら返事をする。
さっき拳闘で勝負をしていた時にあまりにも殴られすぎてプロテクションハードスティールで途中から殆ど跳ね返したんだった。
「……悪いことをしてしまったな」
「いいえ、我々はいずれ妖魔と戦わなければなりません。なので魔法というものも見ておくことで勉強になります。もしも妖魔が魔法を会得したらと考えると、震えがきます」
……なんて礼儀の正しい人間なんだ。ここまでまっすぐだと困惑する。
まだまだ俺も、鍛えなくては。
二階にあった会議室を借りて休んでいるとその日の2時くらいに、よろよろと歩きながらシラヌイが帰ってきた。
事情を話すと無愛想な顔で、
「助力はありがたい、痛み入る」
との事であったが、彼自身のほうではあのあと分かれた後に戦果はないようであった。
カカサマが暫くすると、やってくる。
「それではシラヌイは夜まで休むといい、我々は本日深夜に行動をおこしたい」
そう言われてシラヌイは、承知しましたと頭を下げ部屋からすぐに出て行く。
「……なんだか疲れているようだったね」
イフットはそう、俯きながら言う。
「だろうな」
順はその言葉に、同意した。
「仕方がないことなのだがの。他のエージェントの捜索が長引き、シラヌイの負担もあがってきている。それは申し訳ないとは思っているのだが……」
カカサマは残念そうな顔をしてから、また用があると言って出て行った。
恐らくはあのシラヌイを、追っていったのだろう。
「俺達も少し休もう」
須賀谷は提案する。
「お前はさっきまで外を走ってたからな。寝てろ」
順は笑い飛ばすと、図書室に行ってくるといって出て行った。
二人きりになって学校の人間も消えたので近くにあった煎餅のような座布団を枕にし、ごろんと横になる。
「……それにしてもここにいると奇異な目で見られるよな、文化の違いっていう奴か」
「此処が男子校だからでしょ? 爆発しろくらい思ってるんじゃないの?」
「……かもな」
畳で背中が痛いが、しょうがない。
「それにしてもこの国って、一体何なんだろうな」
「え?」
「だってよ、ブレイズクレイドルがある反面でこういう学校もあるんだぞ? よくよく考えたらおかしくないか?」
「事実は想像よりも奇、よ。あるんだからあるんだよ」
「そういうものかな……」
そう適当に話す。
「ねぇ」
イフットが少しして、自分から話しかけてくる。
「ん?」
「さっきさ、昼に熱心に頑張ってたよね。ここの生徒に触発されたの?」
「……まぁな。俺は士族だが家の身分も低い。そんな俺が勝つには官位とかを手に入れなけりゃならない。そうしなきゃ人には認めてはくれないさ。その為にはまだまだ俺は強くならなくちゃいけない」
「爵位とか官位とかが大事なの?」
「それは本来は二の次さ。……だけどね、権威がなきゃ誰も認めてくれないんだよ。俺みたいな出自の場合、外の人はさ」
少し俯きながら、須賀谷は申し訳ないと思いつつも自嘲的に笑った。




