木の根っこと、二つの光
日が沈むと、高原は急に冷えた。昼間あれほど広く見えた景色が闇に沈み、前照灯の灯りが届くのは、轍の続く街道の、ほんの少し先だけになる。その向こうの暗がりで、何かが動いた気がした。気のせいかもしれないし、そうでないのかもしれない。どちらとも分からないまま、操縦桿を握る指にばかり力がこもっていった。
「夜の荒野は、昼とは別の場所だと思ってください」
レイが言った。
「目のいいもの、鼻のいいものが、夜になると出てきます」
「デションも、疲れたらキャンプで休めって言ってた」
言われていたのに、昼飯を食べて景色に見とれていたのは、どこの誰だろう。デションの言葉を、何度も頭の中で繰り返す。街道沿いに目印が立っているから、すぐに分かる、と。
「ありました」
前照灯の端に、白い石の山が浮かんでいた。見つけたのは、また、レイの方が先だった。
そこから山の方へ分かれる道は、道路ではなかったけれど、何台もの戦車や車が通ってできた深い轍が、しっかりと刻まれていた。轍に沿ってゆるい坂を上ると、その先に灯りが見えてくる。一つではなく、いくつも。
ハンターキャンプは、山の斜面がえぐれたような場所にあった。背中は切り立った岩壁で、開けているのは正面だけだ。その正面を、古い車の残骸や鉄板や土嚢を積み上げた低い壁がぐるりと囲み、壁の切れ目に立つ見張りの櫓の上で、銃を抱えた年配の男が座っている。
「止まれ。どこから来た」
「レイラインからです。ハン協の届け物で、トーカンまで行きます」
カードを見せると、男は灯りをかざして、ふん、と鼻を鳴らした。
「ブロンズか。こんな時間に着くなんざ、新入りだな。入れ。奥は空いてる。夜の見張りの順番は、焚き火のとこで決めな」
壁の内側は、思っていたより広かった。平らにならされた地面に戦車や荷車が何台も停まり、真ん中の大きな焚き火を、人が十人ほど囲んでいる。岩壁の下には、雨よけの屋根をかけただけの小屋がいくつか並んでいるだけで、建物と呼べるものはほとんどない。町でも村でもないのに、背中を岩に、正面を壁に守られ、見張りが立ち、火が燃えている。それだけで、肩の力が抜けていった。
「初めてか、ここは」
戦車を停めていると、焚き火の方から男が一人、歩いてきた。三十くらいだろうか。日に焼けた顔に、人のよさそうな笑いを浮かべている。
「レイラインとトーカンの間で一晩明かすなら、ここしかねえ。覚えときな」
男は、櫓の方へ顎をしゃくった。
「さっきの親父が、ここの番人だ。住んでるのは、あの親父と、娘夫婦の三人だけでな。泊まるのはただで、その代わり、水や薪や戦車の油を売ってる。頼めば、娘さんがごった煮もこしらえてくれるぜ」
男は、焚き火の脇の大鍋の方へ目をやった。
「三人だけで、ここを守ってるの?」
「まさか。三人じゃ夜通し櫓に立てねえよ。だから、泊まる連中が交代で見張りに立つ。壁が崩れりゃ、通りがかりのハンターが直していく。それがここの決まりだ」
男は、にやりと笑った。
「こんなとこ、好きで住むやつはいねえ。でも、誰かがいなきゃ、みんなが困るからな」
「灯台守のようなものですね」
レイが言った。
「とうだいもり?」
「海辺の、高い塔に住んで、夜通し灯りを守る人です。船が岩にぶつからないように。誰も住みたがらない場所ですが、その灯りがなければ、皆が困ります」
海なんて、見たこともない。それでも、櫓の上で揺れている小さな灯りを見上げていると、なんとなく分かる気がした。
男は、ヤマネコ号を眺め回した。
「へえ、珍しい型だな。小せえけど、いい足回りしてる。お前の?」
「父さんの」
「親父さんの、か。いいねえ」
男の後ろから、もう一人やってきた。こっちは背が低く、丸い顔に、丸い眼鏡をかけている。
「おいダリオ、新入りをいじめるなよ」
「いじめてねえよ。褒めてたんだよ、ペック」
焚き火の輪に入れてもらうと、ハンターだという二人は、いろいろなことを話してくれた。ダリオとペックは、ずっと東の、峡谷のさらに向こうの小さな村の幼馴染で、二人で金を貯めて中古の戦車を一台買い、村を飛び出してきたのだという。
「最初はよ、でけえ賞金首倒して、名前売って、ってな。そういう夢を見てたわけだ」
ダリオが、焚き火に枝を放り込みながら言った。
「でもな、何年かやってるうちに、輸送隊の護衛の口がかかってな。小せえ輸送隊は、自前で戦車なんか持てねえから、俺らみてえな戦車一台持ちに頼むしかねえ。それがな、悪くねえんだ。トーカンを朝出りゃ、ここに晩に着く。そういう決まった道を行って帰るだけで、そこそこの金になる」
「気づいたら、ハンターっつうより、ただの運び屋だ」
ペックが笑った。
「一人が転がして、もう一人が上の銃座で撃つ。荷を狙って寄ってくるやつを追っ払うだけだ。賞金首なんざ、もう何年も追ってねえよ」
「まあ、俺らにゃ、これで上等よ」
ダリオはそう言って、にやりと笑った。
「とは言っても、ブロンズの新入りには負けねえけどな」
「新入り……」
「怒るなって。誰だって最初は新入りだ。俺らだってそうだった」
二人が守っている輸送隊は、トーカンから東へ荷を運ぶ途中だった。荷車が三台、どれにも粗い麻の袋が山のように積んであって、袋の口には、黒い塗料で大きく「七」の字が刷り込まれている。レイが、その字をしばらく見ていた。
「お前ら、これからトーカンか」
ペックが言った。
「うん。届け物。トーカンまで」
「トーカンなら、迷やしねえよ。高原を下って、岩山の谷を抜けりゃ、門みてえに岩が切れてるとこに出る。そこだ。レイラインより、ちょっとでけえ町だな」
ペックはそう言って、丸い眼鏡を指で押し上げた。
「それと、一つだけ言っとく」
ペックの顔から、笑いが消えた。
「間違っても、その戦車で砂漠に入るなよ」
「ハン協でも、それは言われた」
「なら、ちゃんと聞いとけ。砂漠ってのはな、モンスターが強えとか、そういう話の前に、そもそも走れねえんだ。その車輪じゃ、砂に取られて一発で終わりだ。砂を吸ってエンジンも死ぬ。砂漠を越える車は、みんな砂用の履帯だの、砂除けだの、でけえ冷却器だのを付けてある。それがねえと、戦う前に動けなくなって、動けなくなったところを食われる」
「戦う前に……」
「そう。戦う前に、だ」
ダリオも、珍しく真面目な顔でうなずいた。
「俺らも、一度だけ砂漠の端っこで足を取られかけたことがある。あのときゃ、二人で本気で死ぬと思った」
戦う前に、と口の中で繰り返すと、崩れ狼の背中が目の前にちらついた。あのとき、僕は撃つことと避けることしか考えていなかったけれど、あの斜路の瓦礫の上で、ヤマネコ号の大きな車輪は何度も滑りかけたし、車体を傾けすぎて片側が浮いたときは、本気で倒れると思った。足もとが悪いというだけで、思ったとおりには回れなかったのだ。
「足もとが悪いと、どんな戦車も、思ったようには動けません」
焚き火を見ていたレイが、ぽつりと言った。
「瓦礫の上でさえ、そうでした。……砂の上では、車輪はそもそも、前へ進むことさえできないでしょう」
焚き火の向こうから、輸送隊の男たちがこちらを見ている。正確に言えば、レイを。最初はちらちらと目をやるだけだったのが、そのうち一人が、酒の入った椀を持ってやってきた。
「よう、姉ちゃん。どっから来たんだい。そんな若えのと二人旅かい」
「レイラインからです」
「へえ、レイラインにこんな別嬪がいたとはねえ。今度、俺の荷車にも乗ってかねえか。景色がいいぜ」
男はけらけらと笑った。悪気はなさそうだった。それでも、レイが乗ってるのは僕の戦車なんだけど、と胸の中で言い返して、言い返した自分に、ちょっとげんなりした。しかも、一人が来ると次が来て、その次も来るのだ。
「姉ちゃん、腹減ってねえか。ここの娘さんのごった煮、うめえんだ。俺がおごるよ」
「おい、抜け駆けすんな。俺が出す」
「金なんか取らねえって。あんたみてえな美人がいてくれるだけで、飯がうまくなるってもんだ」
結局、輸送隊の男たちが取り合うようにして払ってくれて、僕の分まで、ただでいいという。
「……いいのかな」
「いいんだよ」
ダリオが笑いながら言った。
「お前の連れのおかげだ。ありがたく食っとけ」
ただの飯は、ありがたい。ありがたいのに、自分が、レイにくっついてきたおまけの荷物になったような気がして、椀を受け取る手が少しだけ遅れた。よそってくれたのは番人の娘さんで、三十くらいの、日に焼けた、腕の太い人だった。
「熱いから気をつけな。今日のは、蔓菜がたっぷり入ってるよ」
「つるな?」
椀の中には、干し肉と、豆と、ごろりと大きなスナ芋。その間に、茶色くて細長いものが、斜めに薄く切られてたくさん浮いていた。どう見ても、木の根っこだ。
「この辺の谷の、岩の割れ目に生える根っこさ。土の中に、腕の長さくらいまで潜ってる。掘るのが大変でね。うちの旦那が、毎朝掘ってくるんだ」
おそるおそる、一切れ口に入れた。しゃく、と歯ごたえがあって、噛むと土の匂いがする。それなのに、嫌じゃない。噛めば噛むほど、ほんのりと甘くて香ばしい味が染み出してきて、筋っぽいその筋が煮汁を吸っているせいか、干し肉の塩気と一緒に、じわりと口に広がっていく。
「……うまい」
「だろう? 見た目は悪いけどね。旅の人はたいてい最初、木の根っこを食わせる気かって顔をするんだ」
僕も、まさにそういう顔をしていたらしい。娘さんは、げらげら笑った。
煮込みは塩が強く、スナ芋がほくほくしていて、そこへ蔓菜の歯ごたえが混じると、いつまでも噛んでいたくなる。岩に生える黒い茸のようなものや、名前の分からない青い葉っぱも入っていて、何が入っているのか半分も分からないのに、うまかった。僕が作るのより、ずっと。
レイは、蔓菜を一切れ、匙の上でしばらく眺めていた。
「……似たものを、昔、食べたことがあります」
「昔って?」
「ずっと昔です。もっと細くて、もっと苦かった気がします。こちらの方が、ずっとおいしい」
レイは、それを口に入れてゆっくり噛み、目を細めた。
そこへ、娘さんが木の杯を二つ持ってきた。
「薄いエールだよ。こっちは、旦那から。お代はいらないよ。ここまで来たご褒美さ」
杯の中で、白っぽい泡が揺れている。酒なんて、飲んだことがなかった。孤児院で出るはずもないし、自分で買う金もない。デションが飲むのを、横で見ていたことがあるくらいだ。一口すすってみると、苦くて、酸っぱくて、そのくせ麦の匂いがして、喉の奥がかっと熱くなった。
「……っ、う」
顔をしかめた僕を見て、ダリオとペックが腹を抱えて笑った。
「新入りだなあ、本当に!」
「最初はみんなそうだ。三杯目くらいから、うまくなる」
レイは、杯を両手で持って、何でもない顔で、こくこくと飲んでいた。
「レイ、平気なの?」
「はい。薄いので」
そう言いながら杯を下ろしたレイは、どこか満足そうに見えた。
そのあいだも、男たちは入れ替わり立ち替わりやってきた。レイは誰にも同じように、短く、丁寧に答える。愛想よく笑うわけでも、嫌な顔をするわけでもないのが、かえって男たちには面白いらしい。
「……顔、隠した方がいいのかな」
食べ終えてから、こっそりレイに言った。
「人の集まるところに着くたびにこれだと、困るよね」
「困ります」
レイは即答して、それから少し考えるように、焚き火を見た。
「外套の頭巾だけでは、隠しきれないでしょう。トーカンに着いたら、顔を隠せるものを用意しましょう」
「うん。そうしよう」
何をかぶったところで、レイはレイだ。喉まで出かかったその一言は、残りのエールと一緒に飲み込んだ。
「そういえば」
ダリオが、思い出したように言った。
「レイラインから来たってんなら、あいつら知り合いか。でけえ顔したガキの」
「……ジョウたちのこと?」
「そうそう、ジョウだ。俺らがトーカンを出る前の晩にな、酒場で派手に騒いでたぞ。砂漠で一発当てるだの、でけえ賞金首を狩るだの」
ペックが続けた。
「けど、すぐ止められてたぜ。居合わせたハンター連中に、寄ってたかってな。その戦車で砂漠に入る気か、装備はどうした、金はあるのか、死人が出るぞ、って」
死人が出るぞ、と言われたところで、ジョウの顔から、すっと血の気が引いたのだという。
「しばらく黙り込んでな。それから、『俺はできるけど、まあ、まずは近場で慣らしてからだ』とか言ってたよ。あの調子じゃ、本気で砂漠の奥まで出ていく感じじゃなかったな」
僕は、椀の底に残った蔓菜を、匙の先でつついた。
「番人の親父の話じゃ、あいつら、ここに着いたのは朝だったってよ」
ダリオが付け足した。
「夕方に飛び出してきて、白い石を見落としたんだと。真っ暗な高原で、一晩立ち往生してたらしい。それで朝ここへ転がり込んで、休みもしねえでトーカンまで突っ走ったってんだから、元気なもんだ」
ジョウたちがレイラインを出たのは、ガニーの弔いが終わってすぐの、日が傾きかけた頃だった。道も知らないまま夜の高原へ飛び出して、一晩迷って、翌日の晩には、もうトーカンの酒場で騒いでいたことになる。死人が出るぞ、と言われて、ジョウはガニーのことを思い出したのだろうか。汚染だまりの中で、兄貴、兄貴と叫んでいた、あの声を。
「……止まってくれたなら、いいんだけど」
「さあな。ああいうのは、一回止まっても、また走り出すからな」
ダリオはそう言って、空になった椀を地面に置いた。
夜が更けると、焚き火の周りから一人、また一人と人が減っていった。輸送隊の男たちは荷車の下や小屋の中に潜り込み、櫓では見張りが交代する。順番を決めるとき、夜更けから明け方までの番はレイが引き受けていて、ダリオとペックも、自分たちの戦車へ戻っていった。
僕たちは、ヤマネコ号で寝ることにした。壁の内側でも、戦車の中の方が安心だ。操縦席の座席を倒せば体を丸めて横になれるけれど、屋根のない後部座席では、レイには寒いだろう。
「レイ、操縦席使って。僕は外で――」
「私は起きています」
レイは後部座席に腰を下ろしたまま言った。
「夜更けから明け方までの見張りは、私が引き受けました。番が来るまでは、ここで外を見ています」
「僕も番に立つよ。レイだって昨日、刀を作るのにずっと――」
「あなたは、寝ていません」
レイは、まっすぐ僕を見た。
「帰ってきた晩こそよく眠っていましたが、ゆうべは遅くまで私の作業に付き合っていました。今日の運転も、後半は判断が遅れていました。冷却の針を見落としたのも、そのためです」
「それは……」
言い返そうと開いた口から、あくびが出かかった。慌てて噛み殺したけれど、レイの目は、たぶんそれもちゃんと見ていた。
「それに」
レイは、わずかに声の調子を変えた。
「私が何であるかは、あなたが一番よく知っているはずです」
レイは人間ではない。眠らなくても平気なのだと前にも聞いたし、休止状態に入れば座ったままでもいいと、レイラインの家でも言っていた。頭では、それで納得しているつもりだった。それでも、一晩中、寒い夜風の中に女の人を座らせておいて、自分だけ毛布にくるまるのは、どうにも尻の据わりが悪かった。
「……でも」
「お気遣いは、嬉しく思います」
レイの表情は、いつもとほとんど変わらなかった。それなのに、ほんの一瞬だけ、目元が柔らかくなったように見えた。
「ですが、本当に必要ありません。私が眠るのは、半分は、楽しみのようなものです」
「楽しみ?」
「はい。眠らなくても動けます。ですが、眠ると、少しだけ気分が良い。人間にとっての、おいしい食事のようなものです。ずっと動き続けることもできませんから、どこかでは休みます。でも、今夜は必要ありません」
それから、こう付け足した。
「寝てください。明日、あなたが判断を誤れば、困るのは私も同じです」
そこまで言われては、返す言葉がない。
「……おやすみ」
操縦席に潜り込んで、座席を倒した。狭くて、硬い。毛布を頭までかぶっても、ハッチの隙間から夜風と、焚き火の燃え残りの匂いが入ってくる。すぐ後ろの座席には、レイが座っている気配がした。目を閉じても、眠気はいっこうに来なかった。
壁の外で、何かが鳴いた。遠いのか近いのか分からない、かすれた声だ。そのたびに肩がこわばって、毛布の下で、耳だけが起きている。明日の道のこと、砂のこと、さっきレイに言われたこと。考えなくていいことばかりが、順番に浮かんでは消えていく。寝返りを打とうにも、膝が計器に当たるだけで、向きを変えることさえできない。ボロ屋の床の上なら、とっくに眠っていたはずだ。そう思うと、余計に目が冴えた。
薪のはぜる音が、いつの間にか聞こえなくなっていた。うとうとしていたのか、ずっと起きていたのか、自分でもよく分からない。火はもう熾火になっていて、キャンプはしんと静まり返っている。寒さに首をすくめて振り返ると、後ろの座席は空っぽだった。
ハッチを細く開けて見上げると、櫓の上に、人影が一つあった。星空を背にして、外套にくるまったレイが、壁の外の闇をじっと見ている。身じろぎ一つせず、息をしているのかどうかも分からないくらい静かだ。二百年前も、こうして、誰かが眠っているあいだ、闇を見張っていたのだろうか。
その片腕が、すっと持ち上がった。僕の方へではなく、壁の外へ。指の先は、正面の斜面の下の暗がりを差している。目をこらしてみても、壁の内側の、戦車の高さからでは、積み上げた鉄板の黒い影しか見えない。レイの腕は、ゆっくりと横へ動いていく。何かを、目で追っているのだ。
壁の切れ目の向こうで、小さな光が二つ、ちかりと光る。地面すれすれの低いところで、二つの光は少しのあいだ止まって、こちらをうかがい、それから、ふっと闇に溶けた。指さされなければ、僕には、そこに何かがいることさえ分からなかった。櫓の上からなら、ずっと前から見えていたのだろう。
レイは、光が消えたあたりをもうしばらく見ていて、それから、ふとこちらを向いた。暗くて顔は見えないのに、目が合ったのが分かる。レイは片手を軽く上げて、それから、下を指さした。
寝てください。
声は届かなくても、何を言っているのかは分かる。僕は小さくうなずいて、ハッチを閉めた。毛布をかぶり直すと、さっきまでの寒さが、いくらか和らいでいる。櫓の上に、レイがいる。それだけで、まぶたが重くなっていった。
沈んでいく頭の隅で、あの二つの光のことを考えていた。あれは、あきらめて帰っていったのだろうか。それとも、まだ闇の向こうで、朝になって僕たちが街道へ出ていくのを、待っているのだろうか。
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