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荒野でおどれ 〜錆びた戦車と、旧文明の少女〜  作者: 京屋しゃべつ
錆びた戦車と、旧文明の少女

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14/40

崩れ狼、来たる

本日は2話更新です(12時・20時)。

 ――ドォン!!

 腹の底まで響く爆音が、いきなり屑鉄の丘に轟いた。反射的に身を伏せる。少し遅れて、近くのくず鉄の山がばらばらと崩れ落ちてきた。何だ。モンスターか。いや、この音は知っている。大砲だ。

 音のした方へ走って、くず鉄の壁の隙間から覗くと、一台の戦車が走っていた。昨日、工場から走り出てきたあの戦車だ。新しい塗料が朝日を照り返している。操縦席にはジョウ、砲塔の脇の車体の上にはマリカ。ガニーとポンチョスも車体につかまり、四人ともプロテクターと銃で装備を固めていた。ガニーの背中には、長い槍が括りつけられている。

 本当に来たんだ。本当に、ハンターになるつもりなんだ。

 戦車の前に、機械のモンスターが現れた。ジャンクウォーカーだ。僕も前に倒したことのある、銃口を突き出したあの種類だった。砲塔が回り、主砲が火を噴く。ジャンクウォーカーは爆発して、ばらばらになった部品があたりに降り注いだ。

「……主砲使ったのかよ」

 もったいない。あんな相手、機銃で十分なのに。けれど、ジョウたちにはそんなことはどうでもいいらしかった。

「ギャッハッハッハッハ! ジョウの兄貴! こりゃすげえ! 最高じゃねえか! 見たか今の! 木っ端微塵だ! 俺ら最強だぜ!」

 ガニーが大笑いして、ジョウも笑っていた。マリカも頬を上気させて身を乗り出している。腹が立った。主砲の弾を無駄にしていることくらい、少し考えれば分かるだろ。そう毒づく一方で、喉の奥がひりひりしていた。あそこに乗りたかった。戦車の上で、あんなふうに笑っていたかった。毒づいているのは、たぶん、そっちを認めたくないからだ。

 やがて、ガニーがこちらに気づいた。

「おいおい! 誰かと思ったら、指輪のやつじゃねえか! こんなとこまで来てんのかよ! 何してんだ?」

「……別に」

 マリカも僕を見つけて、一瞬、顔をしかめた。

「あんた、本当にここまで来てたの? もしかして、ジョウたちがハンターになるって聞いて、自分もやってみようって思ったわけ?」

 答えなかった。マリカの目が、僕の格好をなぞっていく。何日も屑鉄の丘へ通って汚れ、あちこちに擦り傷のできた服。頬の傷。腰の銃。

「やめときなって。あんたボロボロじゃない。死んだらどうすんのよ。それとも何、私たちの後をついてきて、おこぼれでも拾うつもり?」

 心配してくれているのかもしれない。でも今の僕の耳には、馬鹿にされているようにしか聞こえなかった。ポンチョスはこちらを見たけれど、何も言わない。昨夜の路地と同じように、すぐに目を逸らした。

「おーい! そんなやつほっとけ! 先行くぞ!」

 ジョウの声が飛んで、戦車が奥へ向かって動き出した。


 気づけば、僕は走り出していた。ジョウたちの向かう先には崩れ狼がいる。そのさらに奥には、もう一台の戦車があるかもしれない。あいつらより先に見つけて、自分のものにしたかったのかもしれない。ジョウたちがしくじるところを見たかったのかもしれない。ただ戦車が戦うところを見たかっただけなのかもしれない。自分でもよく分からなかった。ただ、また置いていかれるのだけは嫌だった。

 もちろん、戦車の方が速い。姿はすぐに見えなくなった。それでも、遠くから聞こえてくる砲声を頼りに追いかけた。一時間。さらに一時間。昨夜はほとんど眠っていないし、朝から何も食べていない。普通なら、とっくに足が上がらなくなっているはずだった。息は切れているし、汗も噴き出している。それなのに、少し立ち止まって膝に手をつけば、また走れた。そのときの僕は必死で、それがおかしいことだとは気づきもしなかった。

 途中で何度か追いついた。戦車はモンスターと戦いながら進んでいる。機銃が唸り、ときには主砲まで撃つ。腹の立つことに、ジョウは思っていた以上に戦車を扱えていた。親の力で戦車を手に入れただけで、まともに動かせもしないと高をくくっていたのに。守備隊の手伝いをしていたあいだに、何度も乗せてもらっていたのだろう。荒れた地面ではどこで速度を落とせばいいか分かっているし、狭いくず鉄の間を抜けるときも車体をぶつけない。モンスターが出れば、ちゃんと戦いやすい場所へ戦車を持っていく。もっと下手であってくれよ、と胸の中で毒づいて、毒づいた自分が少し情けなくなった。

 ガニーも同じだった。性格は最悪だ。弱い人間を殴る。僕に石を投げる。ジョウに媚びる。それでも銃を持たせれば、僕よりずっとうまい。揺れる戦車の上からでも狙って当てるし、近づいてきたモンスターにも怯まず銃口を向ける。こんなろくでもないやつが、僕より強い。でも、仕方がなかった。僕が銃を握ったのは、つい最近だ。僕が「いつかハンターになる」と言い続けていたあいだに、あいつらは少なくとも銃を撃ち、身体を鍛え、戦車に乗っていた。それを認めるのが、何より悔しかった。


 さらに奥へ進むと、景色が変わった。屑鉄の丘が途切れて、その先に広い陥没区域が広がっている。昔は何か大きな施設が建っていたのだろう。地上の部分はほとんど崩れ落ちているのに、地下の構造だけが何層も残っていた。ところによっては床そのものが抜けて、地下三階、四階ほどまで巨大な穴が口を開けている。その底や崩れた通路のあちこちに、紫色の靄が淀んでいた。汚染だ。入口近くで見た汚染だまりとは、量がまるで違う。近づくだけで、うなじの毛が逆立った。

 そして、陥没の底に開けた広場の一つに、巨大な何かがいた。

 狼だ。

 いや、狼だったもの、と言った方がいいのかもしれない。馬鹿みたいにでかい。身体のところどころが崩れ、溶けている。皮膚と毛の混ざったようなものが垂れ下がり、その下から変色した肉が覗いていた。それなのに、弱っているようにはちっとも見えない。壊れた身体を、何か別の力で無理やり動かしている。そんな、気味の悪い生命力があった。

 ハン協の掲示板に貼られていた、黄ばんだ手配書の絵を思い出した。絵は、本物の半分も恐ろしくなかった。

 崩れ狼。本物の賞金首だ。

「いたぞ! やったぜ! 本当にいやがった!」

 ガニーが叫ぶ。ジョウたちに怯えた様子はなかった。それどころか、見つけたことを喜んでいる。ポンチョスが慌てて砲塔へ潜り込み、ジョウが戦車を前へ出した。

「一発で終わらせてやる!」

 砲塔が回る。僕は離れたくず鉄の陰で、息を殺していた。崩れ狼が戦車を見る。逃げない。身体を、低くする。

 ――ドォン!!

 主砲が直撃した。崩れ狼の巨体が爆炎に包まれる。赤い炎が膨れ上がって、ほんの一瞬、七年前の夜の空がまぶたの裏をよぎった。

「やった!」

「うおおおおお! ざまあみろ!」

 マリカとガニーの歓声が響き、ポンチョスまで声を上げた。嘘だろ。こんなに簡単に? 僕が何日もネズミ一匹から始めて、撃たれる怖さに耐えて、やっとここまで来たのに。こいつらは戦車に乗って、主砲を一発撃って、それだけで賞金首を――。


 煙が薄くなる。

「……え?」

 いない。倒れているはずの崩れ狼が、どこにもいない。

 胸のどこかが、ほら見ろ、と言いかけた。その言葉が形になるより早く、そいつは戦車の頭上にいた。

 いつ跳んだ。僕は離れたところから、広場全体を見ていた。それなのに、見えなかった。

「上だ!!」

 誰の声だったのかも分からない。巨大な影が朝の光を遮って、戦車に覆いかぶさる。前脚が振り上がる。爪の先が、砲塔の真上にある。あの中にはポンチョスがいる。ジョウの頭も、そのすぐ前だ。

 間に合わない。

 そう思ったとき、戦車の右の履帯が、ぴたりと止まった。

 左だけが回る。車体が、その場で独楽のように振られる。振り下ろされた爪は、砲塔のハッチをかすめて、何もない空を裂いた。指一本ぶんも離れていなかった。爪が起こした風で、車体にしがみついたガニーの髪がばさりとあおられるのが見えた。

 息を吸うのを忘れていた。

 片側の履帯だけを止めて、車体をその場で振る。言葉にすれば、それだけのことだ。でも、頭の上から爪が降ってくるあの一瞬に、それをやれるやつがどれだけいる。少なくとも、僕には無理だ。何年練習したって、たぶん無理だ。

 悔しいけど、うまい。

 認めた途端に、腹の底がかっと熱くなった。

 崩れ狼が着地した。戦車のすぐ後ろだった。振り向きもせずに、そのまま身体をひねる。

 ――ガァン!!

 耳を塞ぎたくなるような金属音がした。二撃目の爪が、振られきらない車体の後部をまともに捉えていた。装甲が大きくひしゃげ、車体が横へ弾かれて半回転する。マリカが塗ったばかりの塗料が、薄皮のように剥がれて飛んだ。一撃目はかわした。ただ、二撃目が来るのが早すぎた。

 戦車が向きを立て直す。その瞬間から、後ろの方で嫌な音がし始めた。金属と金属が擦れ合う、甲高い音だ。ひしゃげた装甲が、どこかに食い込んでいる。

「クソッ! 生きてやがった!」

 ジョウが機銃の引き金を引き、ガニーも銃を撃つ。何発も当たった。肉が弾け、血のようなものが飛ぶ。それでも崩れ狼は止まらない。さっきまでの余裕は、もう誰の顔にもなかった。崩れ狼が戦車の周りを走る。速い。目で追いきれない。戦車が向きを変え、機銃が追いかけて、撃つ。外れる。また撃つ。

 崩れ狼が止まった。戦車の正面、少し離れたところで、身体を低くする。

「来るぞ!」

 ジョウが叫び、戦車を横へ振った。

 遅い。

 後ろで、また金属の擦れる音がした。さっきの二撃目でひしゃげた装甲が、履帯の回転を邪魔しているのだ。さっきはあれほど鋭く振れた車体が、一拍遅れてしか向きを変えない。

 崩れ狼が跳んだ。爪が戦車の側面をえぐり、装甲に深い溝を三本刻んだ。

 また、だ。

 くず鉄の陰から見ていた僕には、それが見えた。崩れ狼は跳ぶ直前に、必ず戦車の方へ顔を向けて、身体を沈める。ほんの一瞬だけ。そして、その直後に跳ぶ。ジョウは、跳ばれてから避けている。それでも反応は速かった。爪が来ると分かった瞬間には、もう操縦桿を倒している。それなのに、戦車がついてこない。

 沈んだ瞬間に、さっきのあれをやれば。片側の履帯を止めて、振れば。そこまで考えて、手のひらにじっとりと汗がにじんだ。考えたところで、戦車に乗っているのは僕じゃない。

「ポンチョス! 弾だ!」

「い、入れてるっす! 入れてるっすよ!」

 砲塔の中から、悲鳴みたいな声が返ってきた。マリカの姿が見えない。代わりにポンチョスが、主砲に次の弾を込めているのだろう。

「兄貴! 後ろだ!」

 車体にしがみついたガニーが叫ぶ。崩れ狼が、戦車の背後へ回り込んでいた。戦車が急旋回する。後ろから火花を散らし、悲鳴のような音を上げながら、それでも回る。狭い広場の中で、壁にも穴にも車体をぶつけずに、ジョウは戦車を回し切った。

 二度目だった。認めたくないのに、目が勝手に、ジョウの戦車の動きばかり追っている。

 戦車がまともに動いていたら、あいつは避けきれていたのかもしれない。

 主砲が、もう一度火を噴いた。崩れ狼のいた場所の地面が吹き飛ぶ。でも、崩れ狼はもうそこにいなかった。砲弾は、跳んだあとの空っぽの場所を撃ち抜いただけだった。

「クソッ! 速すぎんだよ!」

「兄貴! 俺が足止める!」

 ガニーが車体の上で銃を撃ちまくる。何発かが崩れ狼の脚に当たり、巨体が一瞬よろけた。けれど、すぐにまた走り出す。

 崩れ狼が、また身体を沈めた。

 跳ぶ。

 ジョウが操縦桿を倒す。戦車が一拍遅れて動く。爪が、今度は前の装甲を掠めた。機銃の台座がひしゃげ、銃身があらぬ方を向く。

 跳ぶ。

 避けきれない。履帯の板が一枚、千切れて飛んだ。

 跳ぶ。

 避けきれない。砲塔の側面に、新しい溝が増える。

 ジョウは一度も気を抜いていなかった。崩れ狼から目を離さず、跳ばれるたびに反応して、そのたびに致命傷だけは避けている。けれど、あの最初の一回のあとは、きれいにかわせたことが一度もなかった。戦車の傷が一つ、また一つと増えていく。崩れ狼の身体にも、銃弾の穴が増えていく。どちらも止まらない。それでも、少しずつ削られていくのは戦車の方だった。

 撃ち合いが一瞬途切れ、崩れ狼の身体が横を向いた。

「今だぁ!」

 ガニーが飛び出した。戦車から飛び降り、銃を撃ちながら走って、背負っていた長い槍を抜く。無茶だ。でも、飛び出したその瞬間だけは、本当に完璧だった。崩れ狼は戦車に気を取られていて、ガニーに気づいていない。

「おらぁぁぁぁ!!」

 全体重を乗せた槍が、崩れ狼の脇腹へ突き刺さる――はずだった。穂先が肉に食い込む。そこで、止まった。

「なっ……!」

 刺さらない。あれだけ勢いをつけたのに。

 崩れ狼の尾が、動いた。

 ――バンッ!!

 ガニーの身体が横へ吹き飛んだ。壁に叩きつけられて、そのまま下へ落ちる。


「ガニー!」

 誰かが叫んだ。

 ガニーの落ちた場所を見て、背中が冷たくなった。

 紫色の靄。

 濃い汚染だまりの、ど真ん中だった。

「ガニー! 出ろ!」

 ガニーが動いた。生きている。

「クソ……いてぇ……」

 起き上がろうとしている。よかった、と一瞬だけ息をついた。本当に、一瞬だけだった。

「……あ? なんだ……これ」

 ガニーの腕が震えている。いや、震えているんじゃない。形が変わっている。

「なんだよ……これ……!」

 骨が鳴った。乾いた枝を踏み折るような音が、こんなに離れているのにはっきり聞こえた。

「痛い!! 痛い痛い痛い!!」

 腕が、ありえない方へ曲がる。皮膚の下で何かが膨れ上がり、骨が内側から身体を押し広げていく。頭の形まで歪み始めた。

「助けてくれ! ジョウ! 兄貴! 助けてくれ! 何だよこれ! 兄貴ぃ!!」

 皮膚を突き破って、骨のようなものが飛び出した。腕が捻じれ、指が伸び、人の形がほどけていく。目を逸らしたいのに、首が言うことを聞かなかった。

「兄貴! たす――」

 声が、ひしゃげた。喉の形が変わっていくのが、遠くからでも分かった。それでもガニーは、もう一度だけ口を動かした。

「……とう……ちゃん……とうちゃぁん……」

 その先は言葉にならなかった。濁った咆哮のような声だけが、陥没の底に響いた。誰も動けなかった。さっきまでガニーだったものが、汚染だまりの中で蠢いている。

 僕に石を投げたやつだった。大嫌いなやつだった。昨日の夜、負ければいいと思ったのは僕だ。でも、こんなことを願ったんじゃない。こんなふうになっていいやつなんて、どこにもいない。


「あ……いや……」

 マリカの声がした。見ると、戦車から離れたところに倒れている。最初に崩れ狼が戦車へ襲いかかったとき、振り落とされていたらしい。人の形を失っていくガニーを見つめたまま立ち上がろうとして、足が震えて、まともに力が入らずにいる。

「なに……なに、あれ……いや……いや……」

 後ずさる。後ろを確かめる余裕もなく、ただガニーだったものから離れようとして、ふらふらと足を動かしている。

「いや……いやぁ……いやああああああああ!!」

 悲鳴が上がった。完全に我を失っている。自分がどこへ向かっているのかも、周りに何がいるのかも分かっていない。

 崩れ狼が、振り向いた。マリカを見る。

 身体を、低くした。

 来る。

 あいつは、マリカを狙っている。

 気持ち悪い、と言われた。口だけの人の隣に座ってるほど暇じゃない、と言われた。ついさっきも、おこぼれでも拾うつもり、と言われた。

 そんなことは、もうどうでもよかった。

「マリカ!!」

 走った。

 あとから何度考えても分からない。間に合う距離じゃなかった。僕は離れたところから見ていた。崩れ狼の方が、ずっと近い。

 なのに、地面を蹴った瞬間、身体が軽くなった。

 いや、違う。

 景色が、後ろへ吹き飛んだ。

 くず鉄の山が、横に流れる線になる。耳の横で風が裂ける音がして、それきり、まわりの音が遠くなった。何が起きているのか分からない。分からないまま、気づいたときには、僕はマリカの前にいた。

「え――」

 マリカが僕を見た。大きく見開いた目に、僕の顔が映っている。その向こうで、崩れ狼の巨体がもう宙にあった。

「逃げろ!!」

 身体ごとぶつかって、マリカを突き飛ばした。マリカの身体が、地面を転がっていく。爪が迫る。視界いっぱいに、黄ばんだ爪の先が広がる。爪そのものは、外れた。けれど、そのまま振り抜かれた巨大な前脚が、横から僕を捉えた。

 咄嗟に腕を上げる。

 ――ドンッ。

 音は、あとから来た。左腕に、丸太で殴られたような衝撃が走る。肺の中の空気が、全部押し出された。

 身体が、宙に浮いた。

 宙を飛びながら、一瞬だけ崩れ狼が見えた。前脚を振り抜いた格好のまま、ぴたりと動きを止めている。半分崩れた顔の中で、濁った目だけがこちらを向いていた。いま自分が何を殴ったのか、確かめようとしているみたいだった。

 マリカが遠くなる。戦車が遠くなる。ジョウが何か叫んでいる。

「退却するぞ!!」

 落ちていく。崩れた床の縁を越えて、さらに下へ。四角く切り取られた空が、みるみる小さくなる。風が、背中から吹き上げてくる。紫色の靄が、下から近づいてくる。

 汚染だまり。

 まずい。

 ガニーの姿が、頭をよぎった。骨の鳴る音。とうちゃん、と呼ぶ声。

 嫌だ。

 あんなふうに――。

 そこで、意識が途切れた。

お読みいただきありがとうございます。

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