1「澪空(みそら)」
逆さの世界の一日が始まる。
ーープープープー
《おはようございます!只今、逆歴135年84日6時!天候は赤!今日も一日頑張りましょう!》
ーープープープー
朝を告げる放送が、大音量で居住区に鳴り響く。
「……あまり寝れなかったな」
布団の中でぼやきながらも目を覚ました澪空。
窓の外は、毎日“毎時”赤みを帯びた光が街を照らしている。
重い瞼をこじ開け、左腕のデバイスを確認する。
【夜残高:4時間】
澪空は小さくため息をついた。
「今日の目標は三時間……」
少し考える。
「いや、食料も減ってたな。四時間は欲しいか」
無機質なベッドから起き上がり、顔を洗いに行く。
「…また増えた」
鏡に映る自分の顔に嫌気がさす。
18歳とは思えない。良くて20代後半。
目元のシワを指で伸ばしてみる。
「…何やってるんだろ」
適当に洗顔を済ませ、無地のシャツとパンツを取り出し着替え始める。
ふと、母の言葉を思い出した。
「澪空って名前はね──」
昔聞いた名前の由来。
海と空を忘れないために。
「本物なんて見たことないくせに…」
考えるのをやめるように首を振る。
今日も遺物回収の仕事だ。
夜を買うためには、稼がなければならない。
澪空は部屋を後にした。
居住区からゾロゾロと人がでてきた。
みんな同じ方向へ歩き出す。
大人はみんな同じ服。時たま小さなオレンジ色が見えるのが子供。
みんな自然と無言で歩いている。
着いた先は、配給センター。
『1日分の食料はこっちだよー!』『半日分はこっち!』『備蓄用はここだよ!』
呼び声にしたがって、人の波が別れていく。
「余裕はないし、半日分にするか」
列に並びながらボーと上を見上げる。
遠くで赤い光が脈打っている。
マントル。
昔の人間がそう呼んでいたらしい。
「遠いな…」
『はい。半日分。夜0.5時間だよ。』
気がついたら順番が回ってきたようだ。
左腕のデバイスをかざす。
【夜残高:4.0時間 → 3.5時間】
半日分の食料を受け取り、澪空は小さく息を吐いた。




