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ヨハン過去編2



 「元々は陛下と父が使ってた部屋でね、私が嫁いでから譲っていただいたの」


 いとこ殿に背中を短剣で突きつけられながら辿り着いた部屋には、密偵たちも足取りの掴めなかった噂のお茶会現場だった。

 

 半地下状態の部屋の上部から光が差し込む鉄格子付きの窓、細かい細工のレースの下にちらりと見える黒ずんだ飛沫の痕跡。

 背景さえ気にしなければ、この国の男たちや殿下すら羨むであろう華やかな女性が集まる美しい夢のような場所。


 人工滝の水を止めると滝の裏の隠し部屋と、バラ園の納屋にある床下収納に隠された地下室への鍵が開くしくみになっているらしい。 


 「滝のほうは近づかないことをオススメするわ」


 何故かと問えば入ると部屋そのものが急所を外して刺さる釘付きの拷問部屋で、まだ部屋の解体が終わっていないとのこと。

 こちらの部屋はさほど手入れをしなくても使える状態だったので細々とした書類や道具を陛下たちに引き取らせて

 各々テーブルクロスや食器などを持ち込んで過ごし易くなるよう工夫を凝らしている最中、と。


 名家のご令嬢たちが「このホゾは美しい!」と名もなき名工の技に恍惚としているのとか、

 その手に持つ組木の原型はギロチン台のような気がしないでもないのだが…知りたくない現実ばかりが目の前に広がっている。


 比較的新しいと思われる赤黒い染みを追求したら二度とこの部屋から出られないのかもしれない。



 「ご安心くださいませ、王家の皆様や国に仇をなそうというわけではありませんのよ?」

 

 ただわたくしたちは平穏がほしいだけ、とルイーゼ嬢が少し悲しそうに微笑む。

 もうそれだけで全部どうでもよくなるんだから私の国や殿下への忠誠心はそこらの番犬以下だと思う。



 「そういえば…あの地下水路からみなさんいらしたわけですよね?」

 セキュリティ的にも年頃のご令嬢の倫理的にも問題が浮上して頭が痛い。



 交易の妖精と呼ばれるフローナ嬢は言う。

 「地下水路の建設計画はそもそも都市機能の為だけに作られたわけではないのです」


 治癒の妖精と呼ばれるメリー嬢も相槌をうつ。

 「城下の井戸が足りないわけでもないですし」


 断罪の魔女と呼ばれるマレフィン嬢が真相を明かそうとする。

 「わたくしたちが生まれてから適性のあったわたくしたちのためにつくられたものなのです」

 

 

 「もうわたくしの手駒になるしか道が無いのだけれど、事情を聞いておく?聞かないでおく?」



 選択肢がありそうで何もなかった。

 色々諦めたので背中にある物騒なものをそろそろ鞘に納めてほしいと懇願した。



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