095:秋休み3
「かおる君、すごい汗・・・」
かおるはいつも涼しい顔をして慌てたりしない印象しかなかった零にとって、首筋をつたうほどの汗をかいて、呼吸を乱しているかおるの姿は初めてだった。
「零ちゃんがアイツに連れ出されたって聞いて、あちこち走りまわってたから・・・ごめん、気持ち悪いよね。」
かおるはそう言って零から離れ、手の甲で額の汗をぬぐう。
きっと自分の講義が終わってすぐに迎えに来てくれたのだろう。この広いキャンパスの中、この場所に来てくれるためにどれだけ走ってくれたのだろうと思うと零はたまらなく苦しくなった。
「かおる君、これ、使って?」
零はポケットからハンカチを取り出してかおるに渡し、ごめんね、と謝った。
「零ちゃんは何も悪くないよ。悪くないのに、謝る必要なんかないのに、そんな顔しないで?」
かおるは零の差し出したハンカチを受け取って、ありがとう、と微笑む。
「私・・・一人じゃ何にも・・できないのかな・・」
一人でも大丈夫だと、思いたかった。伊織がそばにいなくても、かおるに頼らずにいられると言う事を証明して、伊織を安心させたかった。たったそれだけの事が出来ない自分が辛い。
「零ちゃん・・・そんな顔しないで?何にも出来ないなんて思っていないよ。でも・・・零ちゃんは女の子で、今みたいな事があったら力じゃ敵わないから、そばにいさせて欲しい。僕に、零ちゃんを守らせて欲しい。」
「かおる君・・・」
そっと肩に触れたかおるの手に、零の心が痛む。
「僕にとって零ちゃんは、何よりも大切で、絶対に傷つけたくない相手だから・・・何があってもそばにいるよ。誰にも傷つけさせたりしない。」
ホテルに戻ろうか、といつものように微笑むかおると共に、零は重い心を抱えたまま歩き出した。
ホテルに戻った零は制服を脱いで普段着に着替えようとして、くっきりと肩に残った痣に気がついた。
「・・・・」
ジェイクがきつく掴んでいた痕が内出血になっている。たかが肩を掴まれたくらいでどうしてこんなになってしまうのだろう。どうして、一人で解決できなかったのだろう、と思うと悲しくなった。
「・・・痛い・・・」
赤く少し腫れたそこに触れると、鈍い痛みが走る。
ジェイクは何をしたかったのだろう、と思う。自分が嫌がったからこんなにも強く掴まれたのだろうか、と零は思う。大人しく従っていればよかったのだろうか?
スーツケースから着替えに持ってきた普段着を取り出そうとした零は、荷物の間に挟まっていた封書に気付く。
いつも、寮に届けられていた差出人のない手紙と同じ、淡い桜色の封筒に、零の心音が跳ねた。
『君が寂しい時
いつもそばにいられる自分でありたい
君が悲しい時
いつも心を抱きしめられる自分でありたい
君のそばで 君のために
生まれ変われる自分でありたい
今はただ
君の頬に触れられぬ
この手を抱きしめよう』
流れるような美しい文字。詩のようなその言葉は、手紙と言うには短いけれど、いつも心を震わせる伊織からの手紙。
この文字一つ一つに込められた伊織の想いが伝わるようで、零は手紙を抱きしめる。
「伊織君・・・」
離れていても寂しくない、と思いたかったがアメリカに来てから伊織の事を想うほどに寂しくてたまらない。
伊織もかおるも、辛い時は辛いと言ってほしい、といつも言ってくれるが、それを今口にしたところで誰も解決できない事も理解している。
自分の夢を叶えるためにここに来ているのに、と思うと自分の弱さが情けなくなった。
今伊織がここにいたら、どう言うだろう?いつものように無理するなと抱きしめてくれるのだろうか。
『今はただ
君の頬に触れられぬ
この手を抱きしめよう』
遠く離れている、大切な人の事を想いながら、零は心の中で伊織の言葉を抱きしめていた。
心が震えるような手紙、もらってみたい。
メールよりも手書きの手紙がいい。
と、思います。
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そして・・・新しいお話を書きはじめています。
もう少ししたら、投稿を始めますので、もしよろしければそちらも読んでみて下さいね♪




