094:秋休み2
初日から何かと衝突の起きたかおるとジェイクだったが、本来の目的である講義への参加行程が始まるとほとんど顔を合わせる事もなく、零は内心ほっとしていた。
日本人と違ってやっぱり積極的な人が多いよね、と零は思う。日本の高校の制服を着て、数人のグループで行動する零達はやはり目立つらしく頻繁に声を掛けられた。
そのほとんどが、女子学生からかおるへのお誘いだったり、男子学生から零へのお誘いだったりするから断るのにも慣れてきた。
「かおるくんのカッコよさは世界共通なんだね。」
講義が終わり、構内の食堂で食事をしながら零が言うと、そうでもないよ、とかおるは微笑む。
「アメリカではジェイクみたいなマッチョ系の方がモテるんだよ。ファイヤーマンとかね。」
あぁ、それきいたことあるな、と零は心の中で思う。
「零ちゃんの可愛さこそ世界共通だと僕は思うけど。」
日本人は思ってても言わないけど、みんな言うでしょ、とかおるに言われて零は恥ずかしくなってうつむいた。
「多分、チビだから、そう言うのを総じてcuteって言ってるんだと思うけど・・・」
周りの女子生徒達はみな背が高く、大人びた顔立ちでどう見ても2、3歳の歳の差とは思えない。きっと小学生くらいに思われてるんだよ、と言う零にかおるは優しく微笑んだ。
翌日は、専攻学科別の講義、と言う事で、零達はそれぞれ目指す科目別に講義を受けることとなった。案内された教室に足を運ぶと、ジェイクが嬉しそうに笑いながら駆け寄ってきた。
「今日は君のナイトは一緒じゃないの?」
アメリカでも、ナイトって称号になるんだね、と零は心の中で思いながら頷く。
「じゃあ、今日は僕が君の隣に座らせてもらうよ。」
「あ、ちょっと・・」
ぎゅっと肩を抱き寄せられて、思わず身をすくめると、君本当に可愛いね、と顔を近づけられた。
「あのっ・・・」
大丈夫、何もしないよ、と言う言葉とは裏腹に、近くなる身体の距離に零はどうしていいかわからなくなってうつむいた。嫌だと大声を出すにはここは教室で、自分は短期留学生で。
「講義が終わったらお茶、付き合ってよ?」
青い瞳の奥の光が怖くて、零がまっすぐジェイクの顔を見られずにいると、ジェイクは小さく笑って零のこめかみにキスをした。
・・・一人でも大丈夫、って事証明しなきゃ。
講義が終わると、ジェイクは当然のように零を促して教室を出る。その時数人の学生が追いついて来て零に声をかけた。
「だめだめ、彼女は僕とお茶するって約束だから。」
ただでさえ背の低い零が数人に囲まれて逃げ場を失いかけた時、ジェイクが助け船を出して教室から連れ出してくれた。零はジェイクに気を許したわけではなかったが、それでも全く知らない相手と言うわけでもなく、とりあえず礼を言う。
「今日はもう講義は終わりだよね?学校ばっかりじゃつまらないだろうし、街を案内するよ。」
肩を抱き寄せる手の力が強すぎて、痛いと抗議しても聞き入れてもらえず、零は放して欲しいと訴えた。
「・・・放して下さい!制服も着替えたいし、ホテルに戻りたいんです!」
こういう時は、どうすればいいんだろう、と思う。力では敵うはずもなく、嫌だと言っても聞き入れてもらえない。ただお茶を飲みに行くだけなら行ってもいいと思う一方で、ジェイクの強引さは零の心に恐怖を芽生えさせるには十分だった。
「そう言って、ナイト様の後ろに隠れるんだろ?今日は俺が隣に座る、ってさっき約束したはずだよ?」
「や・・約束なんてしてません!」
肩に食い込むほどに掴むジェイクの手が痛い。零が何度放してと訴えても効果はなく、逆に掴む手の力は強くなった。
「・・・零を放せ、」
「かおる君!」
広いキャンパスを横切ってカフェテラスが見え始めた時、背後から鋭い声が飛んだ。
「・・・放せと言ってるのが聞こえないのか?」
かおるの瞳に広がる怒りの色。二人に追いついたかおるは零の肩を掴んでいるジェイクの手を軽くひねりあげた。
「い・・・痛ッ!な・・なんだよお前!」
見た目にはかおるは軽くジェイクの手を握っているように見えるがジェイクは身動きが取れなくなっている。
「零ちゃん、もう大丈夫だよ。ごめんね、遅くなって。」
かおるは零にそう言って微笑み、少し待っててね、と付けくわえた。
「どうする?このままこの汚い腕、折ってやろうか?」
かおるが少し手に力を入れると、ジェイクの顔が苦痛にゆがむ。
「・・・わかったよ、悪かった。放してくれ。」
「・・・零も、放して欲しいって何度も言わなかった?」
氷の様なかおるの瞳。激昂しているよりもずっと怖い、と零は思う。
「悪かった!本当に悪かったよ。もうしない。誓う。」
誓う、と言う言葉を聞いて、かおるはジェイクから手を放し、冷ややかに睨みつけた。
「大丈夫だった?何も、されてない?」
「・・・うん・・・」
掴まれていた肩が痛い。かおるが来てくれなかったら、と思うと鳥肌が立つような恐怖に囚われた。
「・・・心配、したんだよ。彼が零ちゃんを連れて出て行った、って聞いて。このキャンパスのどこにいるかもわからなかったから、遅くなってごめん。」
かおるの手がそっと零を抱き寄せ、腕の中に拘束する。
「かおる君・・・」
抱き寄せられたかおるの身体は熱くて、彼らしくなく首筋を大粒の汗が伝っている。
「零ちゃんの事は、僕が必ず守るよ。だから僕のそばを・・・離れないで。」
ナイト様はどこにいてもナイト様。
一応、会話は英語でしているけれども和訳しているイメージです・・・。
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