090:二人のデート
少しずつ朝晩の冷え込みが強くなりはじめた晩秋の頃、ちゃんとしたデートをしようと言う伊織の提案で、零と伊織は人気のテーマパークに来ていた。
受験生とはいえ、たまには息抜きも必要だ、ともっともな言い訳をして早朝から遊びに来ている。
ちゃんとしたデートをまだしていない、と言うのも事実だったが、それ以上に伊織は2週間の秋休みに離ればなれになる前に今よりももっと心の距離を近づけたいと思っていた。
「零、もっとこっちこいよ、」
「えっ、い、いいよここで・・・」
「ほら、この方が暖かいだろ?」
周囲の目を気にして恥かしがる零を無理やり引き寄せて自分のジャケットの中に閉じ込める。ひんやりと冷えた零の体を抱きしめるだけで少し幸せな気分になれた。
もうすぐパレードが始まるらしく、パレードルートにレジャーシートを引いて座っている人々を見ながら、少し後方の柵に座る。柵に座るには身長の足りない零は隣で柵にもたれていたが、俺は自分の膝の上に座らせるように後ろから抱きしめる。
「・・・暖かいね、」
「ほらみろ、」
正式に二人が付き合うようになってまだ少ししか経っておらず、零は何をするにも恥かしがって伊織を避けようとする。そんな零が可愛くてつい余計にからかってしまう俺は意地悪なんだろうか、と伊織は思う。
「零、」
「何?」
腕の中で大人しくしている零の名を呼ぶと、首を回して伊織を見て、思ったよりも近い距離で目が合ったことに驚いて俯こうとする零の頬に手を当てて、伊織は瞳を覗きこむ。
「好きだ。」
じっとその目を見つめて言うと、耳が赤く染まる。こういう反応が可愛くてたまらない。
「キス、していい?」
たずねると、さらに真っ赤になってイヤイヤと首を振る。
「だっ、ダメだよ、こんなとこで!何考えてんの?!」
「じゃあ、どこでならいい?」
「えっ?!ど、どこででもダメっ!」
「なんだよ、ケチ。」
いいながら、俺は零の耳に口付ける。
「・・・ヤッ!」
ピクン、と零の身体が反応した。
「耳、感じるの?」
わざと恥かしがる言葉を選んで耳元で囁くと、零は伊織の拘束から逃れようと腕の中で暴れる。
「暴れんなよ。・・・ごめん、悪かったよ。」
伊織が謝ると零は赤い顔のまま軽く睨み、それでも大人しくなった。
パレードがやってくると零は周囲の子供達と同じようにキャラクターに歓声を上げたり手を振ったり大騒ぎで、そんな楽しそうな零を見ていると、こういうのも悪くないなと思っている自分がいることに気付く。これまでこんなテーマパークにきた事もなかったし、キャラクターにも興味がなかったが、こんなにも喜んで幸せそうな零が見れるならもっと連れてきてやりたいと思う。
・・・連れて来てやりたい、と言うよりは、俺が一緒に来たいんだよな。
伊織は心の中でそう思いながら、自分からすすんでこういう場所に来たいとは思わないのに、零が一緒だとまた来たいと思う。いまさらながらに零の影響力の大きさに苦笑した。
どこかに行きたい、のではなく、喜んでいる零を見たい、と言うのが正解なのかもしれない、とさえ思う。
乗り物に乗ったり、ショーを見たりしている間に気が付くと辺りは暗くなり、ライトアップが始まる。計算された装飾は目を奪われるほどに美しく、恋人同士でなくてもロマンチックな気分になれそうだ。
家族連れやカップルが記念撮影をしたり、大量にお土産を買い込んで帰路に着く人、など様々な思いが交錯している。
「零、あっちへ行ってみよう、」
伊織は零の手を引いて人ごみから外れた、少し静かなベンチに座る。それでもまだ閉園までは数時間あり、まだまだ人は多い。
「寒くないか?」
いつも思うが零は薄着だ。もっと温かい格好をすればいいのに、と思うがミニスカート姿は可愛いのでそれはそれで嬉しかったりもしてしまう自分が悲しい。
「ちょっと寒いけど・・・でも平気。」
「風邪ひいたりすんなよ?」
言いながら、隣に座っている零の膝の下に手を入れてお姫様抱っこをして再びベンチに座る。
「なっ、何すんの?!下ろして!」
「イヤだ。」
「恥かしいよっ!」
「そうか?俺は平気だけど。」
「私は平気じゃない!」
「暖かいだろ?少しの間だけ、暖めてやるからじっとしてろ、」
スカートから出ている足はひんやりと冷たくて、寒くないはずはない、と思う。つなぐ手はいつも冷たくて、伊織の手の熱を穏やかに奪っていく。
「伊織君・・・」
「何?」
「・・・ありがとう。本当は寒かったの。」
恥ずかしそうにしながらも、まっすぐに瞳を見つめてそう言う零に、伊織の胸の奥が切なく締め付けられる。ぞくぞくするほど可愛くて、理性が飛びそうになる。
「零、好きだよ。」
確かめるようにそう言って、伊織は零の額に口づける。
「好きだ。」
伊織はまっすぐに零の瞳を見つめて、少し顔を近づける。いつもならこの辺りで恥ずかしがって逃げるのに、零の瞳がそっと閉じられた。
「俺のそば、離れんなよ。」
囁きながら、唇を重ね、零の冷えた唇が熱くなるまで、伊織は零を抱きしめていた
ちゃんと好きと伝えられるのは素敵だと思うのです。
あまあまデート・・羨ましいなと思いつつ
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次も頑張ります!




