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いつも君がいた  作者: 遙香
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088:彼氏?


 放課後、零を連れ出そうと零のいる教室に入ろうとした伊織は教室の中の会話にふと足を止める。

零に話し掛けているのであろう、数人の声。どこに居ても何をしていても、零の周りには自然と好意が集まってくる。彼女の持つ不思議な魅力だ、と思う。はじめは見た目の美しさに惹かれただけの人も、いつの間にか彼女の魅力に吸い寄せられていく。


「高花と付き合ってるって、本当なの?」

「脅されて無理やりとかじゃねーの?アイツ気に入った相手には強引で無茶苦茶だからさ、」

「嫌ならはっきり言った方がいいぜ!」


 近くに居ないと思って勝手な事言いやがって、と伊織は思う。だが、彼らの評価は間違っていない。気に入った相手を手に入れるためなら、どんな事でもする。

今までもそうだったし、これからもそうだろうと思う。ただ、今まで好奇心で気に入った相手と零は違う。


「私、脅されたりしてないよ?伊織君は、みんなが思ってるよりもずっと優しいから、みんな誤解しないで?」

困ったような零の声。自分を擁護する発言にドキン、と伊織の鼓動がはねる。

「え、それってさ・・・ホントに付き合ってるってこと?」

「え・・?付き合ってる・・・のかな。どっちかと言うと、私が勝手にそばにいたいって・・・思ってる感じ・・かな。」

「それは違うな。俺が零に惚れてるんだ。」

「伊織君っ?!」

「零、行くぞ。今日は街へ行くって約束だろ?」

「えっ?!」

早くしろよ、と傍目には明らかに強引に零を連れ去って行く伊織にかおるは離れた席から視線を投げる。

絶対に零を守ると言う彼の言葉は真実なのだろう。伊織の強引さは周囲の敵意を自分に引き付けるための演出。そう思うと零がいなくなった後に伊織に向けて発せられる敵意は彼の望む通りの結果だ。

理由はどうあれ、敵意を生むのは得策ではない、と言うのがかおるの持論であるだけに、伊織の強引さはいつもかおるの心の中を重くした。


「伊織君、待って!痛いよ・・・」

強く腕を掴んで早足に歩く伊織に零は抗議する。背の高い伊織が早足になると、小走りに走って追いつくのが精いっぱいだ。

「・・・きゃっ!ごめっ!」

かと思えば急に立ち止まった伊織に零は激突する。寮へと続く構内の道。近づく秋に紅葉を始めたアカシアの葉が美しい。

「ごめん。早く誰もいないところに行きたかったから。」

振り向いた伊織の腕の中に閉じ込められる。

「零はみんなのいるところで抱き締めると嫌がるだろ?」

俺は見せつけてやりたいんだけど、といたずらっぽく笑い、不満げに見上げる零の額に口づける。

「俺が零の事を好きなんだぜ?零、わかってんのか?」

「え・・?」

「零はただ、俺のそばにいて笑ってくれたらいいんだ。零の望みがあれば、出来る限り叶えたいし、どんな事でも言ってほしい。さっきのは、本音?」

伊織の優しくて強引な指先が零の頬を捕らえる。

「さっきの・・って・・・」

「零が俺のそばにいたいって思ってるってヤツ。」

反射的に零の頬が真っ赤に染まる。まさか、本人が聞いているなんて思わなかっただけに、咄嗟に言葉が見つからない。

「もしも零が、本当にそう思ってるなら、そう言って欲しい。夜中でも、もし零が一人で寂しいなら、教えて欲しい。零は・・・いつも何も言ってくれないから不安なんだ。電話もメールも零からもらったことないしな。」

「あ・・・」

「俺は零が好きだ。いつもそばにいたいし、離れている時も零の事を想ってるよ。」

吸い込まれそうな伊織の瞳に見つめられると背中がぞくぞくするような感覚にとらわれる。心の中まで見通されるようで居心地の悪いような、優しく抱きしめられているような、不思議な感覚。

「零は、俺が怖いか?」

伊織の瞳は、時折、鋭くなったり、優しくなったりする。前の様に毒のある瞳をする事は少なくなったが、それでも時々心の底まで射抜くような鋭い瞳をする事がある。

「怖くは・・ないよ?」

前は怖かったけど、と零は心の中で思う。想えば、初対面の印象は最悪だった。

「零の瞳には、俺はどう映ってるんだろうな?」

ふわっと伊織の瞳に広がる不安の色。こんなにも、自分の感情を見せる人だっただろうか?と零は思う。

「さっきも言われてたけど・・・嫌なら嫌だって、言ってくれよ。零が嫌だと思う事はしないから。でも、言ってくれなきゃわからないからさ。」

時々一瞬見せる伊織の泣きそうな表情に、零の鼓動がはねる。嫌だなんて、思っていないのに。

零が口を開こうとした時、突然強い風が砂埃を舞い上げて吹き付けてきた。

「・・・・っと、零、大丈夫か?」

咄嗟に自分の身体を盾にして砂埃から零をかばった伊織はありがとう、と零が微笑んだ事が嬉しくていつになく上機嫌になる自分に内心苦笑する。

「とりあえず、部屋に戻ろうぜ。」

零と手をつないで歩くだけで、幸せな気分になれる。自分が零にしか見せない顔があるように、零も自分にだけしか見せない顔があるのだろうか、と思う。

誰も知らない自分だけの零を独り占めしたいと思うほどに、無防備すぎる零に嫉妬する。本当に少し目を離したら誰かに傷付けられてしまいそうで怖い。

「零、どこへも行くなよ。」

伊織はつないだ手に、ぎゅっと力を込める。急にどうしたの?と不思議そうな顔で自分を見上げる零に、自分の気持ちはどのくらい伝わっているのだろう?

「零はホントに・・・困ったお姫様だな。」

伊織の言葉に首をかしげる零。私はお姫様じゃないのに、と不満そうな顔をする零に、少なくとも俺にとっては姫だよ、と微笑んでみせる。

「いや、姫って言うより、なんだろうな。女神か天使か・・・天真爛漫なところは妖精かな。」

「私妖精がいいな!妖精になってお花の中で眠るって素敵。」

きらきらの粉をふりまいて空を飛んで、見た人が幸せになるって、素敵じゃない?と本当にうれしそうな笑顔を向けられた伊織は思わずその笑顔に見惚れる。

「・・・手乗りサイズの零がいたら俺、速攻拉致って部屋に監禁だな。」

「ちょっと!拉致とか監禁とかやめてよっ!」

「怒った零も可愛いぜ。」

そう言ってちょん、と額をつつくと、少しムキになって怒って見せる事がわかっていてやってみる。わざわざ拗ねさせるなんて俺もどうかしてる。

伊織は心の中でそうつぶやいて、怒って少し早足に一歩前を歩いて行く零を追いかけた。

怒った顔もかわいいね、とか。

言われてみたい。

と、思いつつ。


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