078:晴れない不安
「また、一人になるのが、怖くて・・・」
まだ少し涙の残る声の零の言葉に、伊織は耳を傾ける。抱きしめた体温が心地よくて、腕の中に抱きしめたままでその表情を見ることはできないがその方が好都合とも思う。
きっと零は今にも泣き出しそうな顔をしているに違いない。そんな彼女の顔を見たら、言葉を遮ってしまうから。
「私、どうして伊織君が好きって言ってくれるのか、わからなくて、本当は、今日お話してたみたいな綺麗な子の方が、伊織君にはふさわしいって、思うし、隣にいても、私じゃ全然釣り合わないって分かってるし・・・。
そんな、大切にしてもらえるような子じゃないのに、どうしてそんなに優しくしてくれるのか、分からなくって、だから、どうしていいのかわからなくって・・・」
「でも、ずっと側にいてくれるって、言ってもらって、本当に嬉しかったの。でも、また一人になるって思ったら、急に怖くなって、それで・・」
零の言葉に、伊織は思わず、抱きしめる腕に力が篭る。
「零・・・今日俺が鈴高のオンナと話してる所、見たのか?」
伊織の問いかけに、零は黙って頷く。
「伊織君が好きって言ってくれるの、すごく嬉しくて、側にいてくれるのもすごく嬉しくて、でも・・・」
「それで、泣いてたのか?」
愛しすぎて、身体が熱くなるほどに胸の奥が苦しい。伊織は腕の中で再び小さく頷いた零を強く抱きしめる。
「零は、バカだな・・・。けど、俺はもっと大馬鹿野郎だ。」
伊織は抱きしめていた腕を離し、零をソファーに座らせると、自分は床の上に跪いた。
「零、悪かった。零を泣かせたのは俺のせいだ。零にとって一人にされるかもしれないって思う事は何よりも辛い事だよな?そんな風に思わせた俺は最低だ。」
ずっと抱きしめられていた身体が離れると、急に一人にされたような気分になる。零はまっすぐに自分を見つめる伊織の瞳を受け止めるられずにうつむいた。
「こっち向けよ。もう二度と、そんな思いはさせないと誓う。俺には零しかいない。今日話してた相手はずっと俺に付きまとってるヤツで・・・もう二度と顔出すなって言ってただけだ。不安なら、今度零の目の前で同じ事言ってやるよ。」
「・・・でも・・・」
「でも?何だ?」
「すごく、綺麗な人だったし、私よりも、ずっと伊織君にお似合いだし・・・それに・・・」
また泣き出しそうな瞳をして言葉を切った零の言葉の続きを、伊織は黙って待つ。
「・・・キス、して、たし・・・」
俯いて、小さな声でそう言った零を見て、伊織は思わず苦笑する。遠くから見たのなら、そう見えたのかもしれない。
「零、顔上げて?」
手を伸ばして、零の頬に触れる。そんな風に思って泣いていたのかと思うと可愛くて愛しくて仕方がない。そう思わせたのは自分で、反省もしていたがそれ以上に嬉しかった。
「俺の事、信用できない?」
「・・・そ、そう言うわけじゃ・・・ない・・けど・・・」
「けど?」
「綺麗な人を選ぶのは、当たり前だから・・・」
「零、俺を見ろ、」
怒られる、と思った零がビクリと身をすくめる。触れた頬からその感情が伝わって、伊織は思わず零を抱き寄せる。このお姫様はどれだけ俺の心をくすぐれば気が済むのだろう。
「俺にとって零以上に美しいと思える存在はいないし、零以上に可愛いと思える存在もない。・・・零は、俺が他のオンナとキスしてた、って思って泣いてたんだ?」
確かめたくてそう問いかけると、零はまた泣きそうな瞳で頷いた。
「俺が零以外の女に触れることはないと誓う。さっきもそうだ。神に誓って何もしていない。俺を信じろ。」
零の瞳の中の不安の色を、どうしたら消せるのだろうと思う。
「零が誤解するような事をして、泣かせて悪かった。・・・でも零が俺に対してそんな風に想ってくれてるって分かって安心した。」
「え・・・?」
「さっきも言っただろ?零が俺の事をどう想っているのか分からなくて、ずっと不安だった、って。本当は俺のことなんかこれっぽっちも好きじゃないのに、俺が強引だから仕方なく側にいるんじゃないか、って思う事もあるくらいだ。」
「でも、焼きもち焼いてくれるって言うことは、少しは好きだと思ってくれてると期待してもいいんだろ?」
伊織にそう問いかけられた零は思わず頬を赤く染める。伊織が隣にいなくなると言う恐怖に近い感情をどう表現していいのかわからなかった。
「零、顔を上げて、目ぇ逸らすなって。」
「どうしたら、何もなかったって信じてくれる?何をすれば零の心から不安が消える?」
「え・・・わ・・私・・」
まっすぐな伊織の瞳に零は戸惑う。信じていないわけではく、信じられないのは、自分の弱さのせいだ。
「零が不安を感じなくなるなら、どんなことでもする。零は俺から不安を消してくれたのに、俺が零を不安にさせるなんておかしいだろ?」
俺が零を好きな気持ちのほうが大きいのにそれはありえない、と伊織は言って優しく微笑む。
「・・・私、怖いの・・・」
「何が?」
「伊織君が好きって言ってくれるの、すごく嬉しくて、側にいてくれるのもすごく嬉しくて、でも・・・」
再び溢れ出した零の涙に伊織は焦りにも似た苛立ちを覚えた。さっきからポケットの中でマナーモードにした携帯が鳴り続けている。
「でも、何だよ?」
泣いている零を置き去りにするのはごめんだ、と心の中で思っても、泣きやんでくれない零に、伝えたい心が伝わっていない現実を突き付けられているようで歯がゆい。早く行かなければ、と思う焦りと混じり合って思わず口調がきつくなった。
「・・・ごめ・・なさい。私・・・」
「零の言いたい事くらいわかってるさ。裏切られるかもしれないのにそんなに簡単に信用できないって事だろ?」
「ち・・違・・!」
伊織の言葉に零の瞳の海が深くなる。
・・・わかってる・・わかってるのに。俺はそんな事を言いたいんじゃないんだ。
「自分の事を信じられないからって相手の事も信用しないのは相手に対して失礼だと思わないのか?」
「!!」
零の心の傷をこじあける言葉だと、分かっているのに、一度言ってしまった言葉はもう戻らないと分かっているのに、言ってしまった。ポケットの中で鳴り続ける携帯を握りしめて伊織は舌打ちした。
「何を言っても信用しないなら、今話しても無駄だ・・・姫が泣いてれば、優しいナイト様が慰めてくれるさ。」
伊織はそう言い残して部屋を後にした。
書いてて辛くなるゾーン・・・。
けんかとか辛すぎる・・・。
次も頑張ります!
お気に入り登録して下さった方♪ポイント付けて下さった方♪
ありがとうございます!!頑張ります!




