060:文化祭1
ご無沙汰しておりました。
復活致しました!
本年もよろしくお願い致します☆
9月に入るとそれまでの熱さがウソの様に急に秋めいて日が落ちる速度の加速度的な速さに驚かされる。
高校では恒例行事の文化祭が開催されるため生徒達は一時受験の事を忘れて文化祭の準備に追われていた。クラス毎に全員参加ができる事であれば基本的にどの様な内容でも容認されると言う。
クラスリーダーであるかおると零は準備期間に時間をとられず、当日に皆が楽しめるものを、と考えていた。
「当日が忙しくっても準備に時間がかからない、といえば食べ物系になっちゃうよね・・・」
「確かにそうだね。・・・喫茶店とかどう?シンプルにコーヒー、紅茶、ジュース、クッキーくらいにしておけば当日もそれほど大変じゃないんじゃないかな?」
「あっ、それいいね!」
「どうせやるなら、メイド喫茶でもやってくれよ。零がメイド服着るとなったら長蛇の列ができそうだけどな。」
教室でかおると打ち合わせをしていると、フラリと現れた伊織が口を挟む。
「メイド・・・」
伊織の言葉に絶句する零にかおるがにっこりと微笑む。
「伊織、珍しくいいことを言うね。零ちゃんがメイドさんで、男子は執事でもやろうか?準備も要らないし、それで来る人が喜ぶなら一石二鳥だしね。」
「かっ・・・かおる君それ、本気?!」
・・・ま、まさか・・・かおる君の口からメイドとか言うセリフが出るとは思わなかった・・・。
「僕はいつでも本気だよ。零ちゃんのメイド服姿、可愛いだろうね。」
かおるが言うと不思議とさわやかに聞こえるが、内容は非常に微妙内容でもあり、零は言葉に詰まる。
「どうせなら超萌えな衣装にしろよ、ネコ耳とかつけたらマニアは気絶するんじゃねーの。」
ニヤニヤ笑う伊織を睨む零にかおるが声をかける。
「零ちゃん、ちゃんとセリフ、勉強しといてね。」
「せ・・セリフ・・・」
「そんなもん、決まってんだろ?お帰りなさいませご主人様、ってやつさ。」
・・・・伊織君とかおる君って、いつの間にこんなに仲良くなったの・・・。
衣装は俺が準備してやるよー、とヒラヒラと手を振って伊織が教室を後にするのを呆然と見送った零は、突然のありえない展開に肩を落とした。
そして迎えた文化祭当日・・・。
俺は常に有言実行だ、とニヤニヤ笑いながら零のメイド服を寮の部屋に届けに来た伊織は上機嫌で、後でコーヒーのみに行くから、と早々に寮を出ていく。
手渡されたメイド服はどう見ても、いわゆるオタクが喜びそうなフリフリヒラヒラのミニスカートで中にワイヤーの入ってふんわりと広がったデザインでなぜか黒猫風のシッポがついている。黒のネコミミカチューシャに黒いファーのリストバンド、ご丁寧にニーハイソックスにも黒いファーが付いている。
「・・・・・・」
・・・後で絶対に一発殴ってやるんだから!
心の中で伊織を毒づきながら、クラスの行事で決まってしまった事を当日ドタキャンもできないと、しぶしぶ伊織の準備した衣装に袖を通す。
・・・ない。これはナシだよ。絶対、ナシだ・・・。
似合う、似合わないの問題ではなく、モラルに反する、と零は思う。
着替えはしたものの、部屋を出る気になれずにいると、部屋をノックする音が響く。
「零ちゃん、そろそろ準備にいかないと・・・。」
かおるの声。今回の諸悪の根源はもしかするとかおるかもしれない、と零は少し思う。
「零ちゃん?・・・あぁ、零ちゃん。そんな格好でみんなの前に言ったらますますライバルが増えそうだね。もう、このまま閉じ込めておきたいくらい可愛いよ。」
執事服に身を包んだかおるは一瞬見惚れるほど凛々しく、スッと零の側によると零の頬に手をかけてにっこりと微笑む。
「せっかくこんなにも可愛い衣装なんだから・・・バッチリ仕上げないとね?後は私にお任せくださいませ、お嬢様。」
一回、やってみたかったんだ、と零をドレッサーの前に座らせ、ちょっと貸してね、と零のメイク道具を指す。
「ちょ、ちょっと待って、何・・・?」
「何って、零ちゃんのヘアメイク。」
じっとしてて、とかおるは手際よく零にメイクを施す。さながら本物のスタイリストの様で、零はいつ文句を言おうかと思いながらそのタイミングを逃し続けていた。
「はい、完成。ネコミミメイドさんにはやっぱり巻き髪の方が似合うね。」
にっこりといつもの100%スマイルを浮かべるかおるに、零は何と答えていいのかわからず曖昧な笑みを口元に浮かべて鏡の中の自分に目をやり、言葉に詰まる。
ファッション誌から抜け出してきたような隙のないメイクと髪型。かおるはどうやってこんな技術を見につけたのだろう?
「どう、気に入った?」
「・・・かおる君って、何でもできちゃうんだね・・・」
正直、自分でメイクをするよりずっと上手だ、と思う。いつも自分が使っている物と同じアイテムを使っているのにこの仕上がりの差は女子として少し悲しい。
「まぁ、僕等はいろんな教育を受けるからね。でもなかなか実際に使う機会ってないから、ずっとやってみたかったんだよ、」
といたずらっぽくウインクされた零は、文句を言う事を諦めて溜息を付いた。
執事姿のかおると連れ立って、ものすごく気が進まないながらも教室へ足を運んだ零は当然の結果ながら、一斉に注がれたクラスメイトの視線に耐えられずにかおるの後ろに隠れる。
「佐倉、お前アイドルでデビューとかしたら売れるんじゃない?」
「グラビアでも行けるよなぁ?」
「マジ膝枕とかしてくれよ!今日はメイドなんだろ?」
「ネコミミ似合い過ぎ・・・」
教室がざわめく。かおるの後ろでほとぼりが冷めるのを待っていた零をフワリとムスクの香りが包む。
「・・・・っ」
耳元で、ドイツ語で愛が囁かれる。振り向かなくても、見なくてもこんな事をする人物は一人しかいない。
「伊織、君は部外者だろう。零を放して出て行け。」
「やなこった。このパーフェクトな衣装を用意したのはこの俺様なんだ。俺にだって零の可愛いメイド姿を楽しむ権利くらいあるだろう。」
さすが俺、サイズもピッタリだな、とニヤニヤと毒のある笑みを浮かべる。
「後で、俺に個人奉仕たのむぜ?何と言っても今日は姫じゃなくて、メイドだからな。」
こんなパーフェクトなメイドなかなかいないぜ、とニヤニヤ笑う伊織を零は睨む。
「こんなに猫耳の似合うヤツもいないだろうってくらい、似合ってるぜ?このまま連れて帰って俺のペットにしてやろうか?」
俺様に飼ってもらえるなんてありがたく思えよ、とひょいと抱き上げる。
「ちょっ、ま、や、やめっ!」
・・・・ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!いきなりこんなクラスメイトの目の前でお姫様抱っことか絶対ないって!!
慌てまくって暴れる零を、暴れたら危ないだろ、とぎゅっと抱き上げた腕に力を込めて平然と顔を近づける伊織に零は久しぶりに思考停止する自分を感じる。
「伊織、それ以上僕の零に触れたら許さないよ、」
口調は穏やかでも氷の様な、周囲を従わせる威厳すら感じるかおるの声に、ざわめいていた教室が一瞬シンと静まる。
「僕の、ってのは気にいらねぇな?零は最初から俺様のものだぜ?ナイト様?・・・あぁ、今日は執事だったよな?執事が主人に意見するなんて、それなりの覚悟があるんだろうな?」
かおるの氷の刃にも全く動じる事なく伊織は零を抱き上げたまま、まっすぐにかおるを睨み返す。その瞳には炎がゆらめくようで二人の間に静かな火花が散る。
「零を放せと言ってるのが聞こえないのか、」
いつも零ちゃん、と呼ぶかおるが故意になのか無意識になのか、零と呼ぶことにクラスメイトの何人が気付いているのだろう。零はかおるが自分の名を口にするたびになぜか胸の奥が苦しくなった。
「放す気はない、と言ったらどうする?」
挑発的な伊織の言葉に二人の間の空気が凍る。最初は面白がって見ていたクラスメイト達も二人の殺気にも似た空気に思わず声を潜めた。
「言葉が通じないなら、仕方ない、」
そう言ってかおるが一歩前に踏み出した瞬間、ふらりと現れた竹川がポンとかおるの肩を叩いた。
「おっと、お二人さん、そこまでにしとけよ。」
伊織に抱き上げられている零を見た竹川は、まぁ仕方ないわな、とニヤニヤ笑う。
「伊織、いつも言うがな、お前のクラスはあっち。さっさと教室に戻れ。」
竹川に言われた伊織はしぶしぶ零を降ろし、また後でな、と零の耳元で囁いてその場を離れた。
「かおるも教室で本気出すんじゃねーよ?お前は普段が普段なだけに迫力ありすぎんだよ。」
「お褒め頂き光栄です。」
執事らしく、うやうやしく腰を折って頭を下げるかおるの頭を軽く小突いて竹川は改めて零に目をやった。
「それにしてもまぁ、お前は相変わらずやらかしてくれるよなぁ?メイドってだけで男どもは悩殺されるってのに、その耳にシッポと来たか。」
「こ、これは!伊織君が勝手に!」
「へぇ、アイツの趣味ってわけか。なるほどね。」
竹川はニヤニヤわらって零の頭を撫でようと手を伸ばし、その手をかおるに掴まれて不満気な表情になる。
「なんだよ、俺にもちょっとくらい可愛がらせてくれたっていいじゃねーか、」
「僕は今気が立ってるんです。先生でも容赦しませんよ?」
・・・可愛がるって・・・先生・・・それはあんまりです・・・。
まだ始まっていない文化祭。零は今日一日のドタバタを想像して溜息をついた。
お姫様抱っこされたい!
イケメン執事様欲しい!
卒業まで後5ヶ月となりましたね・・・。
どうなるのでしょうか?!




